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第五話……傭兵家業開始!? 怪しい勧誘

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――ガラガラガラ



 今、乗り合いの馬車に乗っている。





「天気がいいね」

「ぽこ~♪」



 マリーもポココもご機嫌だ。

 確かに空は蒼い。

 だけど、私の心は晴れないけど……。





「もう少しで領都ですじゃ!」



 御者が言う。

 そう、私たちは素性を隠すために、更なる都会へと来ていたのだ。





「通れ!」



 馬車は衛兵が守る大きな門をくぐる。

 そこは大きな市が立っている賑やかな町が拡がっていた。





「到着ですじゃ」



 御者に御礼を言い、馬車を降りる。

 露天が並ぶ道を潜り抜け、宿屋らしき店に着く。

 宿に就いたころには陽が傾いていた。





「いらっしゃい!」



 この宿屋も一階部分は酒場だ。





「晩ご飯を2人前で!」

「あいよ!」



 ご飯を頼み、銀貨を支払った。

 ついでにお酒も頼む。

 この世界では初めての飲酒だ。





「うひ~♪」

「ぽこ~♪」



 酔っぱらい一名と、一匹が出来上がる。

 マリーは飲まないらしい。





「姉ちゃん、良いケツしてんな!」



 マリーが隣の席の酔っぱらいに絡まれる。

 ……しかし、すべてを包み込めるようなマリーのお尻が魅力的なのは間違いない。





「姉ちゃん、良い乳してんな!」



 ……そう、マリーの胸は豊かに張り出している。

 金色の髪と並んでとても素敵だ。





「や、やめてください!」



「うるさいな! 左足の傷を見たらわかるんだよ! どうせ逃げ出した奴隷だろ、お前?」



 お酒でぼーっとしている私も、マリーの左足を見る。

 ……ああ、青銅の足環の痛々しい痕があったのだ。





「俺様がご主人様になってやろうかぁ? ああん?」



 ……そろそろ、出番かな?

 と思っていると、





「このお方が私の主です!」



 と酔っぱらっている私が指さされた。

 ……え!?



「なんだと、この若造が!?」



 確かにマリーの魔法で若造の姿だが、中身は怪力の巨人族だ。





――ボグゥ



「……げぶ」



 腹を殴って黙らせた。

 この姿でも、普通の人間なら簡単に捻りつぶせるのだ。





「ぽこ~♪」



 此方の惨状をよそに、タヌキがお酒をお替わりした。

 店側もお金さえ払えば喧嘩容認の構えだ。





「こ、このガキ! 表に出やがれ!」



 殴ったオトコの仲間3人に路地に連れ出される。





――ゴスッ

――ガスッ



 ……私は彼らを地面とキスさせ、財布を没収した。





「ただいま……、あれ?」



 宿に帰ると、マリーもお酒を飲んで、テーブルで寝ていた。







☆★☆★☆



(――その晩)



――コンコン



 宿の二階の部屋で寝ていると、扉がノックされた。





「はいはい」



 私だけが起き出し、扉を開けた。

 扉の向こうには、良い体つきの戦士が立っていた。





「話があるんだが、一杯どうかね?」



「いいですよ」



 私は彼に誘われ、一階の酒場に降りた。





「先ほど見ていたよ、君はなかなか腕が立つな」



「それほどではないですよ」



 戦士に勧められたエールを飲む。

 ……どの世界でも、タダ酒は旨い。





「俺たちの仲間にならないか?」



「仲間って何をするんです?」



 とりあえず聞いてみる。

 危ない盗賊団って筋もあるだろうしね……。





「……まぁ、傭兵ってとこだな、他にもやることはあるが、給料は弾むぜ!」



「……おお!?」



 提示された金額は、仕事以外に一日銀貨30枚。

 羊毛刈の30倍の賃金だった。





「あんた、今すぐ三人扶持が必要なんだろ?」



「仰るとおりです!」



 ただ酒も手伝い、この雇用契約を受けることにした。







☆★☆★☆



(――翌日)





「お金がいるしね、いいんじゃない?」



「ぽこぽこぽこ♪」



 マリーに事後承諾をとる形になったが、このお仕事に快諾を得た。

 魔物と奴隷上がりにまともな仕事なんてないのが現実だった。





「じゃあ、彼らのアジトに行ってみよう!」



 昨晩に手渡された地図を片手に、街をあるく。

 流石に領都というだけあって、町は広かった……。





「え? 本当にここなの?」

「……う、うん、ここかな?」



 地図が指し示す先は、スラム街だった。

 怪しげな露店や、売春宿と思しき店も立ち並ぶ。





 少しスラム街を歩いた後、地図が指し示す、バーらしき店にはいる。





「誰だ!? てめえ!」



 カウンターの男に凄まれる。

 ……なんて店だ。商売する気がなさそうだ。





「あの、これ……」



 紹介状を手渡す。





「……なんだ、早く出せよ、このクソガキ!」



 男は紹介状の中身を検めると、地下への階段を指さした。





「……あっちだ、さっさと行きやがれ!」







☆★☆★☆



 地下階段を降りると、大きな地下室があり、昨日の戦士がいた。

 他にも武装した連中がたむろしている。





「おお、よく来たな!」

「まぁ、こっちの部屋に来い」



 さらに奥の【司令室】という部屋に案内された。





「……でだ、早速仕事なんだが、いいかな?」



 席にかけた戦士は、似合わない老眼鏡をかけて、こちらを覗き込んでくる。





「別途、お手当は出るんでしょうね?」



「……おお、勇ましい娘さんだな。支度金と成功報酬がでるぞ!」



 戦士はマリーの問いかけに満面の笑顔で答えた。

 ……なんか、条件が良すぎないか?

 怖いぞ。





「……で、OKだな!?」



「いいですわ!」



 ……私が答える前にマリーが即決してしまった。

 ここまできて断れる雰囲気でもないのだが……。





「よかった、今回の部隊長を紹介する! アーデルハイトはいれ!」



「はっ!」



 後ろの扉が開き、ビキニアーマーを着たメチャメチャにグラマーな赤髪の女戦士が入ってきた。





「今日から私が貴様らの直属の上官だ! ちゃんと言うこと聞けよ!」



 ……なんだか、言葉とは裏腹に、朗らかで天然そうな女性上官だった。





 ともあれこうして私たちは謎の組織に入隊する運びとなったのだった……。

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