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第十七話……岩村城落城

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――天正三年(1575年)6月。



 織田勢は織田信忠を総大将に据え、東美濃へと侵攻。

 これに対して、武田方の秋山信友は岩村城に籠城した。



 岩村城はもともとが天然の要害。

 それに加えて、秋山信友たちが改修を加え、堅固な要塞と化していた。



 秋山信友は、甲斐本国の勝頼に援軍を要請するが、待てども待てども、返事は来ない。

 それもそのはず、織田勢の軍事行動と共に、徳川方も三河・遠江の武田領に侵攻していたのだ。



 勝頼は長篠で大敗北しているのに加え、多方面からの攻撃を同時に受けていたのだ。

 東美濃だけ特別に援軍に行くといくことは不可能だった。





――



 実は長篠の戦いの時にも言えることだが、この時期は織田領各地の一向宗の動きが少ない。

 徳川領の三河の一向宗が強い地域だが、同じく動きが鈍かったと見るべきだろう。



 その分、織田勢も徳川勢も兵力の多くを武田に充てることが出来たのだ。

 この織田勢の武田への軍事行動の多くは、いつも一向宗との力関係によって大きく左右されていた。



 同じことが、上杉謙信にも言えた。

 一向宗の動きがおとなしくならなければ、彼は関東地方に出兵することが叶わなかったのだ。



 ちなみに、武田家は毎年大きな額の甲州金を一向宗に援助している。

 一向宗の本山である本願寺と武田は、反信長勢力として、裏で手を握っていたのである。





――



 勝頼の援軍無しに、岩村城の秋山信友はなんと半年も織田勢の攻撃に耐えて見せた。

 しかし、以下のような降伏条件が提示されて、心が動くことになる。





『叔母御もいることだし、手荒なことはしたくない。秋山殿の知行(収入のこと)は安堵する!』



 実は、岩村城には信長の親族も居たのだ。

 ……援軍の来ない籠城戦に勝ちはない。



 よってこの時、信友は兵士たちの命の保証を再度織田勢に確認したのち、開城することにした。





 ……が、



「鉄砲隊、放て!」



 城を出た城兵たちには無数の銃弾が浴びせられ、開城した城には火が掛けられた。

 そして、城の中の兵士の家族までもが皆殺しとなった。



 後日、秋山信友は磔。

 約束は見事に裏切られたのである。



 これは、武田方へと降伏した東美濃の豪族たちへの見せしめであった。

 『武田に味方すればこのようになる』という大虐殺であった。





 この織田徳川の反攻作戦により、信玄の西上作戦での獲得地域で残るは、遠江の一部だけとなっていた。

 その拠点も遂には二俣城が陥落し、高天神城など数城を残すのみとなっていた。





――



「使者を急ぎ遣わせ!」



 この時分に勝頼が行っていたのは、北側の上杉と東側の北条との友好親善である。

 高坂昌信の進言によるものだった。



 この効果はじわじわと現れ、上杉とは交流が増え、使者の往来も始まった。



 遠江に残る高天神城にも、勝頼は沢山の兵糧を手配し、運び入れさせた。

 岩村城と同じく、援軍がしばらく来れないことを前提にした準備であった。





 「ご陣代様! 北条様より文が届きましたぞ!」



 高坂昌信の武田復興策の骨子である『北条との同盟強化策』の回答がもたらされたのである。

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