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【第四章】さらば地球、遥かなる銀河へ

第百三十七話……『ヘガクサイ』再び……。

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「おう! シェリオ伯爵ご無事であったか?」

「ええ! まあ俺からしたら大したことなかったっす!」



「いやまぁ、無事でよかった!」

「ちーっす!」



 クレーメンスの奴が、俺様ことシェリオ様を出迎える。

 ……NPC風情が、偉そうにすんなよヴェオケが!



 俺様が、グングニル共和国から捕虜返還で帰ってきたら、奴は皇帝になってやがった……。

 ……このゲーム腐ってね?



 クソ運営とか、どうせキムチ鍋パーティーやってて、ユーザーのこと全然考えてないよな。

 ……ちっ、腹の傷がいてぇ。





「なんだと! トロストの奴が行方不明!?」



「……はい!」



 アルバトロスの屋敷に帰った後、アンドロイドのメイドの報告に驚く。





「……あいつは、俺様のことをお師匠様と慕う、良いヤツだったのにな」



「はい、残念でなりません」



「ヴェオケが! 機械メイド風情が俺様に気安く声をかけんじゃねぇ!」



「す……、すみません!」



「このガラクタが!!」



「……てか、クラン・シェリオのメンバーが全員いねぇじゃねぇか?」

「ちっ、どうなってやがる??」



 俺様はクラン・シェリオのマスター様だ。

 普通の奴とは訳が違うんだよな。



 しかし、もうずいぶん長い間、ログアウトしてねぇ……。

 あんなクソみたいなリアルに戻りたくねぇがな。





「うん?」



 フレンドリストに一人ログインしている奴がいる。

 ……名前は、ヴェロヴェマ!?



 どんな奴だっけ?



 プロフィールの顔写真を調べると、思い出す。

 『ヘガクサイ』というあだ名の雑魚のことだった。





「……へ?」

「奴の階級が大将だと!? ふざけんな!」



 俺様は部屋の花瓶を叩き割った。

 ……メイドがキャアキャア喚いて、超うざぃ。



 どうやら、現在はこのカリバーン帝国に在籍していないらしいが、マジムカつくよな。

 何様のつもりだよ、クズが……。



 プロフィールを更に読んでいくと、彼奴は領地持ちの領主の様だった。





「いいねぇ、いいねぇ、くくく……」



「いまから部下を集めろ!」

「はい、伯爵様!」



「早くしろ、ヴェオケ!」





 俺様のゲーム生活は、まだまだこれからだった……。







☆★☆★☆



「へっくしょい!」



「提督、お風邪ですか?」

「風邪ひきポコ?」



「いや、風邪じゃないと思うんだけどな、最近くしゃみが多くて……」



 ハンニバルはルドミラ教国政府に反する勢力を、全力で応援していた。

 私は反乱勢力が進出したところへ、簡易の基地を建設して回っていたのだ。



 ハンニバルの広大な倉庫には、沢山の必要な資材が積載できた。



 一般に人気がある機動戦術とは違い、チマチマと陣地構築する不人気な分野を受け持ったのだ。



 ……動くガソリンスタンドといった感じで、反乱軍艦艇の修理や補給をこなす。

 隙間時間ができたら、前線地域の簡易防御施設も作っていった。





「いつも裏方ありがとうな!」

「助かっているよ!」



「いえいえ!」



「頑張ってくださいポコ!」





 陽の当たらない後方任務だが、見てくれている人は、どこにもいるものである。

 逆にサボれば、評価が下がるということだったが……。



 こうして反乱勢力は順調に戦線を拡大し、ルドミラ教国は地球への戦力を、削減せねばならない状況に陥ったのだった。





「修理と建設が忙しすぎるクマ!」

「反乱起こしたい気分クマ!!」



 少し、クマ整備長に負担が偏りすぎてはいたのだが……







☆★☆★☆



――反乱軍の勢力範囲が、ルドミラ教国の版図の半分に迫る勢いになったころ。





「ヴェロヴェマ君、君にお礼がしたいのだが……」

「望みは何かないかね?」



 反乱軍のリーダー格の老人に問われた。





「私はパウリーネ様の一家臣にすぎません。功績は主人である皇帝陛下に帰します!」



「そ、そうか、君の立場も尊重せねばな……」

「……では、こういうのはどうだろうか?」



 そこで提示された案件とは、反乱軍が建国に成功した際、その国家はパウリーネ様のみが、唯一カリバーン帝国の正統な皇帝であると宣言すると約束するものだった。





「はっ! 有難うございます!」

「皇帝陛下も、お喜びになると思います!」



「喜んでいただき、なによりだ!」



 このリーダー格の方からのご好意は、有難く受け入れた。



 ……いまや、パウリーネ様は逆賊扱いなのである。

 この件では以前に叱られていたのだ……。

 一部、汚名返上といったところだった。





 この三日後、反乱軍は正式にルドミラ教国から独立宣言を果たす。

 さらに反乱勢力は、名称をポセイドン商業連合とした。



 ……名前のとおり、協商を主眼とした他⇒多民族からなる連合国家だった。



 このポセイドン商業連合の外交指針の第一弾は、パウリーネ様側の旧カリバーン帝国への通商協定と軍事同盟の打診だった。



 結果的にだが、私は主に味方を連れてきたのである……。







☆★☆★☆



――ハンニバルの超高速通信モニターにて





「ヴェロヴェマよ、よくやった!」

「其方の此度の功績には、十分報いねばなるまい!」



「はっ、有難きお言葉!」



 珍しく、皇帝パウリーネ様に笑顔で褒められる。

 ……喜ばれるっていいね。





 その後、皇帝陛下の侍従が、詔を読み上げる……。





「子爵ヴェロヴェマ大将殿! 此度の功績により、貴官を……」







――その日、私は軍人としての階段を更に上ることとなった。
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