上 下
95 / 148
【第二章】赤い地球

第九十五話……掘削開始!? 資源天体の発見!

しおりを挟む
――戦術短距離跳躍。



 俗にジャンプと言われる短距離型のワープ航法である。

 一回のジャンプで約50万キロ以上を踏破する。



 そもそもワープとは空間を折り畳み、距離自体の方を短縮してしまう亜空間利用の航法である。

 しかし、移動地点へと向かう亜空間航路の演算は時間とエネルギーが大量にかかる。



 長距離跳躍は現在の多くの型式の船が可能とするが、一回跳躍を行うとエネルギーの都合上、8~24時間は次の跳躍が出来ない。

 短距離跳躍はそれほどはエネルギーを必要としないが、それであっても戦闘中に使用するにはエルゴ機関を搭載していないと難しい。

 さらにはエネルギーや航法演算の都合上、宇宙図が存在しないような空間では多用はできなかった。





「短距離跳躍で逃げますか?」



 副官殿が問う。

 確かに巨大な細胞のような生命体に飲み込まれたようだが、いまのところあまり危険は感じない。

 この生命体は巨大な代わりに、可視光線が透けるほど密度が薄かったのだ。





「このまま進もう!」

「了解ですわ!」



 短距離跳躍を行う判断は見送った。



 副官殿が注意して三次元式の操舵を握る。

 ハンニバルの操舵は、現実世界で言うならばフライ・バイ・ライトである。





 その後も、半透明の未知の巨大生命体の中を航行するハンニバル。





「とても奇麗ですわね」

「奇麗なクラゲの中みたいだクマ♪」



 巨大な半透明の鞭毛や核が、窓の外一面にカラフルに散らばる景色。

 よく生命を大宇宙というが、その言葉がまさにそのものの景色だった。





 しかし、生き物であるならば、異物であるハンニバルを攻撃しないのだろうか?



 ……疑問に思いながら航行していたが、いつの間にか巨大な生命体の内部からは脱出していた。

 はるか後ろに巨大生命体が見える。





「バイバイぽこ!」



 生命体に手を振るタヌキ砲術長。

 ……あれは、きっとおとなしい巨大生物だったのだろうと後で思った。







――それから8時間後。



「探査機に反応!」

「希少資源の可能性があります!」



 左前方の空間にある巨大小惑星に資源調査センサーが反応した。





「逆噴射! 相対速度を調節しろ!」

「了解!」



 ハンニバルは減速し、目標の巨大小惑星に接舷する。



 ……やっと、目標物かもしれない。

 気が付けば惑星ベルから2週間の距離まで航行していたのだった。







☆★☆★☆



 ハンニバルは巨大な小惑星に着陸していた。

 大気は無いので空は暗く、星の海が煌めく。



 私達は装甲服をきて巨大小惑星に降り立った。





「試掘をしてみるクマ♪」

「お願いします!」



 クマ整備長がドリル付きの探査機器を巨大小惑星に打ち込む。

 探査機は回転しながら、岩盤に潜っていった。





 ……暫しののち。

 探査機が反応。

 青と緑のランプが灯る。





「濃いミスリル鉱石の成分を検出したクマ♪」

「おお?」



「やったポコ!」



 この小惑星は地球の月の1/4ほどの直径がある。

 資源天体としては十分な大きさだった。





「急いで試掘を続けよう!」

「了解ですわ!」



 タヌキ砲術長殿や副官殿にも頼み、ハンニバルから採掘用のプラントのパーツを運び出す。

 その後、ドラグニル陸戦隊に組み立てて貰い、採掘プラントを大々的に展開した。





「アニキ! 掘削を開始するぞ!」

「お願いします!」



 皆でバリバリと土木工事。

 ハンニバルの乗員もフル稼働した。



 掘削マシンやらダンプカーがハンニバルより運び出され、次々に稼働していった。



 掘削された鉱石がベルトコンベアで大量に運び出される。





「良質な鉱石クマ♪」

「凄いですわね♪」



 ミスリルや鉄以外にも、銅やチタンやプラチナ、マグネシウムなど有益な鉱石が多数産出していった。





「惑星ベルに連絡して、大型の輸送船に来てもらおう!」

「お宝の山ですわね♪」



「大金持ちポコ♪」



 急いで惑星ベルに探査報告の連絡をとり、資源輸送用の大型コンテナ輸送船をチャーターした。



 ……未開地域の楽しい発掘調査。

 長い距離を探査してきた甲斐があったというものだった。







「あれはなんだポコ?」

「!?」



 タヌキ砲術長が指さす遥か向こうに、大型の人工的な飛来物が見える。

 ……しかし、生命反応らしきものがない。





「自立型AI型ドローンですかね?」

「……星間条約に違反クマ?」



 ……この世界は機械生命体の反乱を恐れるため、自立型AIの使用は厳しく規制されていたのだった。





 そもそもが、ここは未開の地であったために、人の気配がしない。

 人がいないところに、機械だけが棲んでいるというのは、星間条約に違反していた。





「攻撃はしてきませんわね」

「どうするポコ?」



「……うーん」



 ……私達には、有益な資源以外にも調査する対象があるようだった。







☆★☆★☆



――翌日。



「ドラグニル陸戦隊、整列!」

「番号! 1・2・3……」



 アルベルト王子とバフォメットさんにも頼んで、昨日のドローンの件を調査する部隊を編成することにした。



 アルベルト王子が率いるドラグニル陸戦隊は、ファンタジー世界に出てくるような二足歩行の小型龍族であるリザードマンで構成されている。

 彼らはカリバーン帝国有数の戦闘種族だ。

 さらに、装甲車4台と戦車2台も動員する。



 クマ整備長とハンニバルの普通の乗組員に見送られ、私は調査隊として編成されたドラグニル陸戦隊300名を率いて、昨日見かけたドローンの方角へと歩を進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

現実的理想彼女

kuro-yo
SF
恋人が欲しい男の話。 ※オチはありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

処理中です...