宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪

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【第二章】赤い地球

第九十二話……占領政策、民衆の要求!!

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「よろしくお願いします」



「よろしくお願いします」







 ……いつもの営業所の風景か。

 同僚が電話口で必死に顧客に頼み込んでいるのだろう……。



 ……うん?

 そういえば私は、会社にはもう出てなかったよな?

 ここはそもそもどこだ?





 私は重たい眼を開くと、そこはハンニバルの艦長室だった。

 私は少し寝ていたらしい。





『提督!お願いします!』

『よろしくお願いします!』



 モニターに多くの方が映っている。

 何かの陳情のようだった。





「……これ、何なの?」



 副官殿を呼んで尋ねる。





「……あ、お休み中に回線がつながっておりましたか、申し訳ありません」

「こちらは食料プラントの建設依頼の皆様でございます!」



「え? なんでハンニバルに……!?」



 ハンニバルは現在、ジョー・ウハン星系に進駐していた。

 ハンニバルは海上停泊型なので、とある地方都市の入り江に間借りして停泊していたのだった。



 先日の戦いで、畑などの農業プラントが全壊したために、農業プラントの建設依頼に周辺の民衆の皆さんが私に陳情に来ているらしかった。





「提督がアルデンヌ星系の惑星カイなどで、食料量産をなさっているのが今朝のTVで放映されたらしいのですわ……」



 ……え? TVってすごい威力だね。





 私は陳情に来ている皆さんの代表者を艦に招き入れた。

 村長さんや市長さんといったところだろうか……。





「お初にお目にかかります、少将閣下!」

「閣下はおやめ下さい、皆さまは軍人ではありませんから」



 へりくだり揉み手状態の地方自治の政治家様たち。





「では、こうに申し上げましょう、ハンニバル開発公社社長!」



 ……軍には用がなくて、開発公社に用があるのだな?





「要件をお伺いしましょう」



 副官殿がお客さん4人と私にお茶を入れてくれる。





「率直に申し上げましょう、食料が足りません! 援助してください!」



「……いや、私にも余分があるわけではないのですが?」



 あまりにも率直で驚く。



 実は食料プラント要請ではなく、食料そのものの要求だった。

 この船は軍政の配給担当係でもないのだが……。





「いやいや、手広く商売をされているからには富はいくらでもお持ちでしょう? 早く援助して下さい!」



 ……彼らはハンニバル開発公社が沢山の借金を抱えているのを知らないのだろう。

 実は私個人も借金があるのだが……。



 各種資産が借金の抵当に入っていることを説明し、余剰物資はないことを告げる。





「うそだ! 君は嘘をついているに違いない!」

「今すぐ食料を供給しなさい! 民が飢えているのですよ!」



 ……半ば恐喝されてしまった。

 このまま追い払うと、暴動が起きそうな雰囲気だった。





「……これくらいなら、すぐにご用意できますが」



 電卓を叩き提示する。

 今回は連れてきていないドラグニル陸戦隊用の予備食料が、艦内にあったのを思い出した。

 ……それをとりあえず供出することにした。





「ちっ! あるならさっさとだせよ! この腐れ軍人!」

「本当はもっと持っているんだろ! 明日はもっと用意しとけよ!」



 お客様は捨て台詞を吐いて、食料を持ち帰った。

 彼等は彼等で大変なのだろうが、こちらとしては少し悲しくなった。



 帰ったら、アルベルトに食料の件で怒られるだろうなぁ……。







☆★☆★☆



――その晩。



「美味しいポコ♪」

「釣りたては美味しいクマ♪」



「おいしいですわね♪」



 ハンニバルの食堂にて、クマ整備長と整備班員たちが昼間に釣ってくれたお魚の刺身を、皆で頂いていると……。







――ドドォォォン



 山の向こう側で爆発が起きた。





「晩飯中止! 総員配置に付け!」



 今は占領地なので、油断大敵だった。

 お皿を置き、急いで装甲服を着て、艦橋に上がる。





「何事だ!?」



「隣町に停泊している、第七戦隊の宿営地で暴動が発生しました!」



 顔面を蒼白させた情報担当士官が、こちらを向いて答える。





「閣下! 我々も退避すべきです!」

「民衆の要望は過大なものです、今の我々には応じきれません!」



 内政担当のヨハンさんが進言してきた。



 司令部に占領地放棄とみなされないように、幕僚たちと相談し、この惑星の衛星軌道上に離脱することにした。



「各艦にも伝達! 至急衛星軌道上まで退避せよ!」

「了解!」



「ハンニバル発進!」



 我が第六戦隊はすぐさま、衛星軌道上まで退避した。

 眼下には暴徒と化した民衆が、街に次々に火を付けている。



 ……これに伴い、辛うじて残っていた各種インフラやプラントも廃墟となった。



 カリバーン帝国軍は民衆に与える食料を大量に持ってきていたが、それは惑星地上軍と一緒にグングニル共和国軍の無差別攻撃にて、陸上で灰にされていた。



 民衆側からすればあずかり知らないことではあったのだが……。







☆★☆★☆



「くそう! グングニル共和国の奴らめ!」

「卑怯なり!」



 リーゼンフェルト大将のいる司令部は怒りに包まれていた。

 占領したジョー・ウハン星系のあちこちで反乱が起きていたのだ。





「食料の輸送はどうなっている?」

「総司令部に頼みましたが、輸送だけであと2週間はかかるとのことです!」



「くそう!」



 リーゼンフェルト大将にもあと2週間も待てないことは明白だった。





「やむを得ん、占領地を放棄して撤兵する!」



「し、……しかし」

「このままでは、兵も飢える! それが分からんのか!」



 リーゼンフェルト大将は幕僚を一喝した。

 兵站が整わなければ、いかなる占領地を維持するなど不可能だったのだ。





 ……結局。

 カリバーン帝国軍はジョー・ウハン星系において、艦隊戦では敵艦船28隻を撃沈破する大戦果を挙げながら、星系占領は諦めることとなる。



 占領地政策の失敗は、既に戦死していた惑星地上軍責任者のモロドフ中将とされ、艦隊戦大勝利の功績でリーゼンフェルト大将は上級大将に昇進した。





 リーゼンフェルト上級大将はこの件を決して忘れず、以後グングニル共和国の民間輸送船団めがけて特務潜航艇部隊を大量に派遣。

 多くの食料と物資を焼き払うことに執心した。





 ……こうして銀河は混迷の色合いをより強めていった。

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