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【第二章】赤い地球

第九十話……大要塞リヴァイアサンでの観艦式

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――宇宙戦艦。

 その巨大な威圧感は一種、神々しいものがある。



 全長400mを超える宇宙戦艦は、まさに巨大な塔や超高層ビルディングを横にしたような絶大な威容を誇る。



 戦闘時以外は、艦体サイドのディテールから星雲の如きライトが光る。



 その巨大な砲門から発射されるビームは、世界の全ての質量を蒸発させるであろう予感を抱かせる。

 着陸時は100を超えるサーチライトに照らされ、まさに空に浮かぶ城といった風貌であった……。



 装甲戦艦ハンニバル、かの船の全長はおよそ800m。

 カリバーン帝国でも有数の巨艦だった。





「第2埠頭、装甲戦艦ハンニバル入港オーライ!」

「管制へ! 誘導感謝する!」



 ハンニバルは帝国軍の皇帝臨席の観艦式に合わせ、巨大宇宙要塞リヴァイアサンに入港していた。



 ハンニバルの艦長は地獄の番犬ケルベロスことヴェロヴェマ少将。

 残虐な殲滅戦を得意とする、一つ目の巨人族の猛将である。



 彼がその巨体を幕僚と共にタラップに現すと、出迎えた将兵が一斉に敬礼で出迎えた。



 彼は幕僚たちと、敬礼をしながら会話を交わす。

 ……次の一大作戦の打ち合わせであろうか?







「リヴァイアサンの港は来たかったんだよな~♪」

「今日はラーメンが食べたいポコ♪」



「ここはパスタもおいしいらしいですわよ♪」





 ……。







☆★☆★☆



 重厚な赤絨毯に文武百官が居並ぶ中、観艦式と閲兵式は終了した。

 皇帝陛下はお元気なようでなによりである。





 私はリヴァイアサンの軍港の一角のテラスでぼーっとしていた。

 空を見ながらの煙草も旨かったのである。





「提督! お客様がおいでですわ!」

「はいはい」



 ……観艦式や閲兵式は軍の一大行事であることで、お客様も多い。



 殆どは挨拶だけの儀礼的なものであったが……。

 お客が待つホテルの一室へ向かう。





「初めまして……」



 翠の服を着たちょび髭を生やした中年の男から名刺を頂く。

 名刺には武器商人とある。





「武器は間に合ってますよ」



 時間を無駄にしては悪いと思い、最初に断っておいた。





「いえいえ、今日はそのような話ではございません」



 彼は周りを気にしたあと、一枚の紙切れを私に見せた。





「……ん!?」



 その紙には、【グングニル共和国中将の椅子は如何ですか!?】と書かれていた。





「いやいや、これはなんとも……」



 表情をごまかし、頭をかく。

 評価していただくのは嬉しいが、反応に困ったのだ。





「貴方は帝国で評価されているとは思いません。幕僚の皆様も……」



「はぁ……」



 生返事をする。





「はっきり申し上げて、リーゼンフェルト閣下のもとでは、貴方とその部下の皆さんは出世できませんよ!?」



 ……痛い所を突いてくる。

 確かにリーゼンフェルト大将にはよく思われていないのは事実だった。





「……しかし、裏切るってのはどうも性分にあいませんね……」



「今決める必要はありませんよ。いつでもご連絡をください」



 話を伺うに、彼は武器商人であることは事実であるらしいが、副業で人材エージェント関係もやっているらしかった……。





「逆にこちらが人材が欲しいですよ」



 笑ってそう答えると、



「そちらのほうもいつでもおっしゃって下さい」



 部屋にコーヒーを持ってきた砲術長に一言お礼を言った後、彼は怯える様子も無く堂々と帰っていった。





「中将の制服もよかったんじゃないですか?」



 同席していた副官殿が笑う。

 ……もう、帝国を裏切っちゃおうか?





「ははは、いつか中将になってみたいものだね……」



 私は笑うにとどめておいた。



 ……しかし、みんなの将来のこともある。

 昇進や人事は私だけの問題では無かった。







☆★☆★☆



――六時間後。



 リヴァイアサン要塞の会議室。

 作戦図が表示された重々しい電子モニターを挟み、武官がならんで座っている。





「諸君! 攻勢の好機が来た!」



 腕を組むリーゼンフェルト大将の横で、彼の幕僚が泡沫をとばし弁論する。



 国境線周辺のグングニル共和国の地方勢力が、帝国に寝返る話があるらしい。

 こちらが攻め込めば、反旗を翻してくれるという計画で、いわゆる内応というやつであった。





「……罠である可能性は?」

「情報部が裏をとっております」



 ……いつもの頼りにならない情報部、今回は大丈夫か?



 あくびをかみ殺しながら、時間が過ぎるのを待つ。





「ヴェロヴェマ少将! なにか意見はあるか?」



「……ぇ? は? いや、とくにありません……」

「そうか」



 黙って聞いていたら、突然指名された。

 ……メチャ焦った。



 聞いているふりをして、会議をサボるのには自信があったのに……、くそう、自信をなくすなぁ。



 いきなり指名されても、凄いことをいうのが名将だったりするが、どうやら私はこの世界でもタダのサボリらしい。





――作戦会議は順調に進み、共和国に対し攻撃を仕掛けることに決まった。



 そもそもこの観艦式と閲兵式自体が、今回の作戦の前段段階であったらしい。

 侵攻作戦に使う艦艇と将兵を予め集めた形となっていたのだ。







☆★☆★☆



 リヴァイアサン大要塞を出航した大小100余隻の艦艇は、作戦目標であるジョー・ウハン星系目指して一斉に長距離跳躍を行う。



 大量発生した時空振動が、周辺の脆い小惑星を破砕する。



 今回の作戦の総司令官としての初陣を果たすのはリーゼンフェルト大将。



 その指揮下の第六戦隊司令として、ヴェロヴェマ少将の名前があった。

 彼が帝国軍少将として武勲を立てられるのかは、神のみぞ知るところであった……。
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