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【第二章】赤い地球
第八十八話……3基合体!? 新型エルゴ機関AAA-1型
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――戦争の勝敗とは、時代の定規が支配する。
時に数であったり、時に質であったり、それを振り返ることができるのは、勝者という結果の物差しだけなのである。
我々の住む世界で行われた戦争で、50年以上も前の場合は、とにかく兵力の数と物資の差が勝敗に与える影響が大きかった。
……つまり数の歴史である。
しかし、現代はA国の一個の空母打撃軍や海兵隊戦車一個師団と対するのに、全世界の兵力を集めても敵わないとされている。
……つまり質の歴史である。
あくまでも質や量、盾や矛、どちらが勝つのかは、それぞれの時代の勝者が結果的に定めるのである。
……一体、この世界は何が勝敗を決めるのだろう?
質か、それとも量か、さてまた第三の要素か……。
「オーライ、オーライ」
「ストップ!」
準惑星ツーリアの第8ゲートでは、ハンニバルのエンジンの積み替えが忙しなく行われていた。
このツーリアの発掘した古代艦で手に入れたエルゴ機関と、以前に巨艦ハボクックから得たエルゴ機関の相性の良いもの、三つの機関を直列でつなぎ合わせた新機関、エルゴ機関AAA-1型である。
あまりにも贅沢にエルゴ機関を使うため、古代アヴァロンの記録の上でしか確認されないタイプのエンジン組成だった。
……この世界の機関は、旧来型の核融合型は短距離戦術跳躍ができない。
かつ、長距離跳躍後にエネルギー不足を8時間にわたって起し、その間はシールドを張れないなどの欠点があった。
つまり、長距離跳躍後に攻撃されると、全滅の恐れがあったのだ。
これに対して、エルゴ機関は戦術短距離跳躍が出来、機動性のある駆逐艦などの戦術短距離跳躍は恐ろしい威力を持つ。
しかも、長距離跳躍後にもエネルギー不足を起こさない為、とても優れた機関であった。
……が、その機関を作ることは未だにできず、今ではほとんどない古代アヴァロンの遺跡から発掘するしかない。
むしろ、これから新規のエルゴ機関の入手は困難とされている、とても貴重なものだった。
また、燃料は液体アダマンタイト化合物という特異な物質を必要としていた。
この二つの命題に答えを出したのは、およそ20年前のグングニル共和国の若き技術者達だった。
彼等は古代アヴァロンの遺跡からエルゴ機関本体ではなく、比較的汎用性の高い廃用部品を集め、それを補う部分のみを別途に現用技術で作ったのである。
こうして作られた部品を、さらに現用の核融合炉に埋め込み、ハイブリット型の核融合炉機関として量産を成立させた。
戦術短距離跳躍は辛うじてできないが、長距離跳躍を行ってもある程度のエネルギーの余裕を持たせることができたのは画期的だった。
この方法は今ではカリバーン帝国も採用しているが、欠点としては燃料が核燃料とアダマンタイト化合物の両方が多量にいることだった。
つまり、燃費が悪いということだが、それはそれとして最も多くの戦闘艦に用いられる機関形式で、通常型核融合炉型と称される。
今回、ハンニバルに搭載したものは、貴重なエルゴ機関を3つ接続したものであり、量を揃えるという戦力観点からは、おおよそかけ離れた戦術感であった……。
……いわば、3隻分の戦果を挙げなくてはならない。
超ハイスペックな機関出力を持つ艦となっていた。
☆★☆★☆
「試運転するクマ?」
「時間がないから、惑星リーリヤに向かいながらでいいかな?」
我々は惑星リーリヤの蛮王様に呼ばれているのだ。
できる限り急いだほうが良い……。
「わかったクマ! 機関の接続には気を付けるクマよ!」
「了解!」
ハンニバルはいつもの通り、エンジンスタートの際、曳航してくれる船を必要とする。
曳航艦が来るのを少し待った。
「第8ゲートオープン!」
洞窟に施された大きなシャッターが開かれる。
「補助機関始動開始!」
「……始動成功しました!」
「離陸開始!」
「了解!」
ハンニバルは曳航用の艦船二隻とともに、大気圏を急上昇。
成層圏を素早くぬけ、準惑星ツーリアの重力圏を無事に振り切った……。
「メインエンジン、スタンバイ!」
「曳航艦に伝達!」
……無事に起動できるか、運命の分かれ道だった。
艦の両脇のダクト内のファンが回り、宇宙空間のダークエネルギーを機関内に吸引、圧縮させる。
「……アルファエンジンシリンダー内、ガンマ線バースト確認!」
「同ベータエンジンシリンダー同じく!」
「ガンマシリンダーも反応確認しました!」
「三機関同期開始!」
「……アヴァロン式新型クラッチ制御可能域です!」
「同期、接続!」
「……せ、接続! 成功です!」
巨大な機関区画に直列配置されたエルゴ機関が点火し、そのエネルギーが結合される。
コンソールのモニター上に膨大なエネルギーが観測された。
「凄いですわ!」
「凄いポコ!」
その凄まじいエネルギーの数値に、幕僚たちも目を丸くする。
設計上は可能であったが、再現にて無事成功したのだった。
艦橋と機関区画では拍手と大きな歓声が上がった。
「何とかなりましたわね♪」
「なんとかなったポコ!」
「みんなのお陰だ! さぁ、急げ惑星リーリヤへ!」
「「「了解!」」」
ハンニバルはその後、連続で長距離跳躍を果たし、惑星リーリヤがあるエールパ星系を目指した。
その航行所要時間は、人類史上記録にないほどの短期間であり、機関の優秀さを見せつける一つの証左となって現れた……。
時に数であったり、時に質であったり、それを振り返ることができるのは、勝者という結果の物差しだけなのである。
我々の住む世界で行われた戦争で、50年以上も前の場合は、とにかく兵力の数と物資の差が勝敗に与える影響が大きかった。
……つまり数の歴史である。
しかし、現代はA国の一個の空母打撃軍や海兵隊戦車一個師団と対するのに、全世界の兵力を集めても敵わないとされている。
……つまり質の歴史である。
あくまでも質や量、盾や矛、どちらが勝つのかは、それぞれの時代の勝者が結果的に定めるのである。
……一体、この世界は何が勝敗を決めるのだろう?
質か、それとも量か、さてまた第三の要素か……。
「オーライ、オーライ」
「ストップ!」
準惑星ツーリアの第8ゲートでは、ハンニバルのエンジンの積み替えが忙しなく行われていた。
このツーリアの発掘した古代艦で手に入れたエルゴ機関と、以前に巨艦ハボクックから得たエルゴ機関の相性の良いもの、三つの機関を直列でつなぎ合わせた新機関、エルゴ機関AAA-1型である。
あまりにも贅沢にエルゴ機関を使うため、古代アヴァロンの記録の上でしか確認されないタイプのエンジン組成だった。
……この世界の機関は、旧来型の核融合型は短距離戦術跳躍ができない。
かつ、長距離跳躍後にエネルギー不足を8時間にわたって起し、その間はシールドを張れないなどの欠点があった。
つまり、長距離跳躍後に攻撃されると、全滅の恐れがあったのだ。
これに対して、エルゴ機関は戦術短距離跳躍が出来、機動性のある駆逐艦などの戦術短距離跳躍は恐ろしい威力を持つ。
しかも、長距離跳躍後にもエネルギー不足を起こさない為、とても優れた機関であった。
……が、その機関を作ることは未だにできず、今ではほとんどない古代アヴァロンの遺跡から発掘するしかない。
むしろ、これから新規のエルゴ機関の入手は困難とされている、とても貴重なものだった。
また、燃料は液体アダマンタイト化合物という特異な物質を必要としていた。
この二つの命題に答えを出したのは、およそ20年前のグングニル共和国の若き技術者達だった。
彼等は古代アヴァロンの遺跡からエルゴ機関本体ではなく、比較的汎用性の高い廃用部品を集め、それを補う部分のみを別途に現用技術で作ったのである。
こうして作られた部品を、さらに現用の核融合炉に埋め込み、ハイブリット型の核融合炉機関として量産を成立させた。
戦術短距離跳躍は辛うじてできないが、長距離跳躍を行ってもある程度のエネルギーの余裕を持たせることができたのは画期的だった。
この方法は今ではカリバーン帝国も採用しているが、欠点としては燃料が核燃料とアダマンタイト化合物の両方が多量にいることだった。
つまり、燃費が悪いということだが、それはそれとして最も多くの戦闘艦に用いられる機関形式で、通常型核融合炉型と称される。
今回、ハンニバルに搭載したものは、貴重なエルゴ機関を3つ接続したものであり、量を揃えるという戦力観点からは、おおよそかけ離れた戦術感であった……。
……いわば、3隻分の戦果を挙げなくてはならない。
超ハイスペックな機関出力を持つ艦となっていた。
☆★☆★☆
「試運転するクマ?」
「時間がないから、惑星リーリヤに向かいながらでいいかな?」
我々は惑星リーリヤの蛮王様に呼ばれているのだ。
できる限り急いだほうが良い……。
「わかったクマ! 機関の接続には気を付けるクマよ!」
「了解!」
ハンニバルはいつもの通り、エンジンスタートの際、曳航してくれる船を必要とする。
曳航艦が来るのを少し待った。
「第8ゲートオープン!」
洞窟に施された大きなシャッターが開かれる。
「補助機関始動開始!」
「……始動成功しました!」
「離陸開始!」
「了解!」
ハンニバルは曳航用の艦船二隻とともに、大気圏を急上昇。
成層圏を素早くぬけ、準惑星ツーリアの重力圏を無事に振り切った……。
「メインエンジン、スタンバイ!」
「曳航艦に伝達!」
……無事に起動できるか、運命の分かれ道だった。
艦の両脇のダクト内のファンが回り、宇宙空間のダークエネルギーを機関内に吸引、圧縮させる。
「……アルファエンジンシリンダー内、ガンマ線バースト確認!」
「同ベータエンジンシリンダー同じく!」
「ガンマシリンダーも反応確認しました!」
「三機関同期開始!」
「……アヴァロン式新型クラッチ制御可能域です!」
「同期、接続!」
「……せ、接続! 成功です!」
巨大な機関区画に直列配置されたエルゴ機関が点火し、そのエネルギーが結合される。
コンソールのモニター上に膨大なエネルギーが観測された。
「凄いですわ!」
「凄いポコ!」
その凄まじいエネルギーの数値に、幕僚たちも目を丸くする。
設計上は可能であったが、再現にて無事成功したのだった。
艦橋と機関区画では拍手と大きな歓声が上がった。
「何とかなりましたわね♪」
「なんとかなったポコ!」
「みんなのお陰だ! さぁ、急げ惑星リーリヤへ!」
「「「了解!」」」
ハンニバルはその後、連続で長距離跳躍を果たし、惑星リーリヤがあるエールパ星系を目指した。
その航行所要時間は、人類史上記録にないほどの短期間であり、機関の優秀さを見せつける一つの証左となって現れた……。
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