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【第二章】赤い地球
第八十五話……ブロンズ枢機卿とリドリー枢機卿
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――フェーン星系攻略艦隊38隻が全滅した。
この報が入った時のルドミラ軍総司令部の落胆の様子は酷かったという。
辺境星域は危険宙域さえ突破できれば、占領作戦が成功する公算が高かったはずなのだ。
懸案の食糧問題が一気に解決したかもしれない。
しかし、一度は負けたとはいえ、ルドミラ軍事のTOPであるリドリー枢機卿はすぐさま第二次派兵を検討する。
内政側のTOPのブロンズ枢機卿との派閥競争があったためだ。
この戦役で負けたままでは、次の教皇選挙は負けたも同然だった。
リドリー枢機卿は実際、自ら陣頭に立って兵士を鼓舞し艦艇を編成。
大小102隻からなる大艦隊を作り上げた。
「小癪な異教徒どもめ、踏みつぶしてやる!」
「……そして、次の教皇はこの私!」
彼は右手の拳を強く握りしめていた。
――その後。
彼と彼の艦隊は危険宙域を進軍。
途中に現れた超巨大アメーバを次々に焼き払った。
第一次派兵部隊がアメーバに苦戦していたので、十分な対策をしてきていたのだ。
ハンニバルが布陣するフェーン星系外縁まで、あと3日という航程だった。
「長距離跳躍用意!」
「機関出力、準備良し!」
「目標フェーン星系外縁部!」
「航路計算完了しました!」
「良し!」
☆★☆★☆
――その2日前。
私ことヴェロヴェマは防御設備の建設を急いでいた。
先の戦いは勝利したが、第2波が来ないとも限らなかったからだ。
「提督! 暗号通信です!」
「誰からだ?」
突然、通信が来る。
「そ……それが、差出人は不明なのですが……」
「これをご覧ください」
「……!?」
私は通信担当士官からデータを受け取る。
そこには、次に来るであろうルドミラ教国軍の旗艦の予定航路が書かれていた。
更には、その旗艦の弱点と司令官が存在する司令艦橋の位置まで記してあった。
……しかも、位置データは逐一更新して送ると書いてあった。
「みんなはどう思う?」
「こ……、これは?」
幕僚たちを集め、データを見せた。
……皆、困惑した顔だ。
私の傍らで副官殿も訝しんでいる。
「……罠では?」
「罠かもしれない。しかし本当だったら、千載一遇のチャンスを逃すことになる」
……きっと、悩んでも無駄だ。
「よし! 罠である可能性も考慮しつつ、敵旗艦の撃破のチャンスを積極的にうかがうぞ!」
「「「了解!」」」
……データ通りなら敵は100隻以上。
旗艦を仕留められる機会は逃してはならなかった。
☆★☆★☆
――72時間後。
ルドミラ教国、閑静で高貴な風情の一室。
「……ブロンズ枢機卿様、リドリー枢機卿がお亡くなりになりました」
「そうか、そうか、遂に死におったか……」
ブロンズ枢機卿と呼ばれる男は赤いワインのはいったグラスを灯にかざす。
「はい、ハンニバルという艦の大出力砲を浴びて予定通り討ち死に……」
「……予定通り、か?」
ワインを一口飲み部下に問う。
「失礼いたしました。予定通りでなく『不運にも』でございます」
「そうじゃろう、そうじゃろう、うむ。下がってよいぞ」
部下の報告を聞いて、目を細めるブロンズ枢機卿は目を細めた。
「くくっく、辺境星域への航路をワシが見つけてしまったのが運の尽きじゃて……」
「出世欲に絡んで、未開の地なんぞを攻めるからじゃ! わはは!」
ルドミラ教国はこの後、突如フェーン星系に和平を提案。
平和裏に国境線を定め、正式な国交と交易路を開くに至った。
☆★☆★☆
ツエルベルク星系、帝都バルバロッサ帝国軍最高執務室。
「今回はよくやってくれた」
「同盟国とはいえ、ルドミラにもあまり大きくなられても困るでな……」
大きな机をはさんで向こう側にはクレーメンス公爵元帥。
胸には勲章が山のようについている。
窓の外の帝都バルバロッサの軍港には、大きな船が行きかっている。
「はっ!」
私は敬礼をしたあと、不可解な情報についても説明をしようとした。
「……そんなことどうでも良かろう」
「はっ!」
元帥は少し不機嫌になり、右手で私の話を制した。
お前の完勝ということにしておけ、といった感じだった。
……その後、元帥はおもむろに椅子から立ち上がり、陽の刺す窓の方へコツコツと歩き、呟いた。
「少将への再昇進、おめでとう」
「有難うございます!」
私は感謝の意を告げて退室した。
窓からは涼し気な風と、燦燦とした光が入って来ていた。
☆★☆★☆
私は翌日の午前、宮廷に参内。
「……これからも朕の為に尽くせよ!」
「ははっ!」
ツエルベルク星系新帝都バルバロッサの皇帝謁見の間。
深紅の絨毯が敷かれた皇帝玉座の間において、私は皇帝直々に再び少将に任じられた。
ちゃんと『予備役』という言葉も除かれている。
「頼みにしておるぞ!」
少し大きくおなりになった皇帝に優しく肩を叩かれた。
まだ、あどけなさが残る少女ではあるのだが……。
――宮殿の外で皆が出迎えてくれる。
「おめでとうですわ♪」
「おめでとうポコ♪」
「出戻り少将ニャ♪」
「みんな、ありがとう!」
……その後。
皆と帝都のレストランで少将への昇進のお祝いをした。
2回目の少将昇進であるが……。
……『地獄の番犬』、最近自分につけられた渾名である。
こういう通り名がつくと一角の軍人の仲間入りらしい。
なんだか、少し気恥ずかしい感じもするのだが……。
――珍しく飲んだ、その日のワインは格別においしかった。
この報が入った時のルドミラ軍総司令部の落胆の様子は酷かったという。
辺境星域は危険宙域さえ突破できれば、占領作戦が成功する公算が高かったはずなのだ。
懸案の食糧問題が一気に解決したかもしれない。
しかし、一度は負けたとはいえ、ルドミラ軍事のTOPであるリドリー枢機卿はすぐさま第二次派兵を検討する。
内政側のTOPのブロンズ枢機卿との派閥競争があったためだ。
この戦役で負けたままでは、次の教皇選挙は負けたも同然だった。
リドリー枢機卿は実際、自ら陣頭に立って兵士を鼓舞し艦艇を編成。
大小102隻からなる大艦隊を作り上げた。
「小癪な異教徒どもめ、踏みつぶしてやる!」
「……そして、次の教皇はこの私!」
彼は右手の拳を強く握りしめていた。
――その後。
彼と彼の艦隊は危険宙域を進軍。
途中に現れた超巨大アメーバを次々に焼き払った。
第一次派兵部隊がアメーバに苦戦していたので、十分な対策をしてきていたのだ。
ハンニバルが布陣するフェーン星系外縁まで、あと3日という航程だった。
「長距離跳躍用意!」
「機関出力、準備良し!」
「目標フェーン星系外縁部!」
「航路計算完了しました!」
「良し!」
☆★☆★☆
――その2日前。
私ことヴェロヴェマは防御設備の建設を急いでいた。
先の戦いは勝利したが、第2波が来ないとも限らなかったからだ。
「提督! 暗号通信です!」
「誰からだ?」
突然、通信が来る。
「そ……それが、差出人は不明なのですが……」
「これをご覧ください」
「……!?」
私は通信担当士官からデータを受け取る。
そこには、次に来るであろうルドミラ教国軍の旗艦の予定航路が書かれていた。
更には、その旗艦の弱点と司令官が存在する司令艦橋の位置まで記してあった。
……しかも、位置データは逐一更新して送ると書いてあった。
「みんなはどう思う?」
「こ……、これは?」
幕僚たちを集め、データを見せた。
……皆、困惑した顔だ。
私の傍らで副官殿も訝しんでいる。
「……罠では?」
「罠かもしれない。しかし本当だったら、千載一遇のチャンスを逃すことになる」
……きっと、悩んでも無駄だ。
「よし! 罠である可能性も考慮しつつ、敵旗艦の撃破のチャンスを積極的にうかがうぞ!」
「「「了解!」」」
……データ通りなら敵は100隻以上。
旗艦を仕留められる機会は逃してはならなかった。
☆★☆★☆
――72時間後。
ルドミラ教国、閑静で高貴な風情の一室。
「……ブロンズ枢機卿様、リドリー枢機卿がお亡くなりになりました」
「そうか、そうか、遂に死におったか……」
ブロンズ枢機卿と呼ばれる男は赤いワインのはいったグラスを灯にかざす。
「はい、ハンニバルという艦の大出力砲を浴びて予定通り討ち死に……」
「……予定通り、か?」
ワインを一口飲み部下に問う。
「失礼いたしました。予定通りでなく『不運にも』でございます」
「そうじゃろう、そうじゃろう、うむ。下がってよいぞ」
部下の報告を聞いて、目を細めるブロンズ枢機卿は目を細めた。
「くくっく、辺境星域への航路をワシが見つけてしまったのが運の尽きじゃて……」
「出世欲に絡んで、未開の地なんぞを攻めるからじゃ! わはは!」
ルドミラ教国はこの後、突如フェーン星系に和平を提案。
平和裏に国境線を定め、正式な国交と交易路を開くに至った。
☆★☆★☆
ツエルベルク星系、帝都バルバロッサ帝国軍最高執務室。
「今回はよくやってくれた」
「同盟国とはいえ、ルドミラにもあまり大きくなられても困るでな……」
大きな机をはさんで向こう側にはクレーメンス公爵元帥。
胸には勲章が山のようについている。
窓の外の帝都バルバロッサの軍港には、大きな船が行きかっている。
「はっ!」
私は敬礼をしたあと、不可解な情報についても説明をしようとした。
「……そんなことどうでも良かろう」
「はっ!」
元帥は少し不機嫌になり、右手で私の話を制した。
お前の完勝ということにしておけ、といった感じだった。
……その後、元帥はおもむろに椅子から立ち上がり、陽の刺す窓の方へコツコツと歩き、呟いた。
「少将への再昇進、おめでとう」
「有難うございます!」
私は感謝の意を告げて退室した。
窓からは涼し気な風と、燦燦とした光が入って来ていた。
☆★☆★☆
私は翌日の午前、宮廷に参内。
「……これからも朕の為に尽くせよ!」
「ははっ!」
ツエルベルク星系新帝都バルバロッサの皇帝謁見の間。
深紅の絨毯が敷かれた皇帝玉座の間において、私は皇帝直々に再び少将に任じられた。
ちゃんと『予備役』という言葉も除かれている。
「頼みにしておるぞ!」
少し大きくおなりになった皇帝に優しく肩を叩かれた。
まだ、あどけなさが残る少女ではあるのだが……。
――宮殿の外で皆が出迎えてくれる。
「おめでとうですわ♪」
「おめでとうポコ♪」
「出戻り少将ニャ♪」
「みんな、ありがとう!」
……その後。
皆と帝都のレストランで少将への昇進のお祝いをした。
2回目の少将昇進であるが……。
……『地獄の番犬』、最近自分につけられた渾名である。
こういう通り名がつくと一角の軍人の仲間入りらしい。
なんだか、少し気恥ずかしい感じもするのだが……。
――珍しく飲んだ、その日のワインは格別においしかった。
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