上 下
62 / 148
【第一章】青い地球

第六十二話……赤い地球

しおりを挟む
「あのさ、前に私に電話かけてくれたときって、どうやってかけたの?」



「……これですが」



 クリームヒルトさんから小さな携帯電話を借りる。それは携帯電話というより少し前に流行ったPHSに似ていた。



 艦長室に戻り、借りた電話で登録されていた現実世界の自分の携帯にかける。





 …………。

 ……。





「おう? カズヤ無事だったか?」





――私の携帯にでたのは兄だった。



 ……何があったんだろう?





「今、ゲームからログアウトできないんだけど、どうなってるんだろ?」



「……てかさ、お前! ゲームの中から電話かけてんのかよ! 凄いな!」



 珍しく兄が驚く。

 そうだろうとも、私もびっくりだ……。





「いまさ、結構こっちは大変なのよ……」



「どうしたの?」



「実はさ……」



 どうやら、いまリアルの世界は大変らしい。

 話によると、N海溝に潜んでいたR国の戦略原子力潜水艦が故障して、爆発してしまったらしい。



 戦略核兵器を沢山搭載したままでだ。

 そのため海溝やプレートに物凄い圧力がかかって、地震や津波が発生して、火山も噴火したらしい。



 ……どうやらそのショックで停電したらしく、ゲーム機の生命アラートを確認した兄が私の入ったVRカプセルの様子を見に来てくれたらしい。





「……まあ、心配すんなって! このまま病院に運んでやるから!!」



 たいしたことなさそうに、兄は明るい声で答える。

 予備電源が切れているため、私の体ごとカプセルをこのVRゲーム機器と提携している大学病院に搬送するとのことだった。



 ……よく事情はわからないが、現実世界にしばらく帰れそうもない。



 私は電話を副官殿に返し、しばらくゲームの世界に滞在することに決めた。

 いわば、現在の私の体は医療機関にとっては格好の実験体の様だった。







☆★☆★☆



「なんかあったポコ?」



「元気がないニャ?」



 ……食事中にみんなに心配される。

 暗い気持ちでいてもしかたない。

 開き直るしかないよね。





「ハンニバルの次の改装計画なんだけど……」



 そう言って私は図面を開いた。

 次のハンニバルの姿はみんなの意見を聞くことにしたのだ。

 今まではコッソリと自宅のPCにて一人で設計していたのだが……、そもそもアパートにも帰れない事態だ。





「エンジンを沢山くっつけるメェ~♪」

「もうちょっと横幅をひろげませんこと?」



「砲塔も沢山配置するポコ♪」



 皆のご意見を聞いたら、どんどんと船は大きくなる。

 結局、ハボクックの残骸からエルゴ機関を二つ貰い、二つの船体をくっつけたような双胴戦艦とすることに決まった。

 ……よって、かなりの横幅になった。係留する宇宙港が限られてきそうな巨艦だった。





 衛星リーリヤの工廠で、飛行甲板を敷きなおし、クレーンにて砲塔を搭載するハンニバル。

 焼き入れをした多層装甲区画も取り付ける。



 とりあえず他にやることも無かったので、私は日々改装工事に全力を尽くしたのだった。







☆★☆★☆



――カリバーン歴852年10月。



 ハンニバルは所用と試験航海を兼ね、大要塞リヴァイアサンに向かっていた。





「また負けたポコ~!」

「勝ったクマ♪」



 食堂でお昼ご飯のサービスランチ争奪戦をしていると、副官殿の電話がなる。





「提督!」



「何?」



「お兄様から電話ですわ!」



 クリームヒルトさんから電話を借りて、慌てて通路の隅に行き、兄と話す。





「……カズヤ、お前さ、今どこ?」



「ゲームの中だよ?」



「……以前、その世界で地球を見たって言ってたろ?」



「言ったよ!」





「で、今も見えるか?」



「……え~っとね」



 そういえば今は、地球のような惑星が見えるワームホールがあるアルデンヌ星系の近くだった。





「……」

「……わかった、やってみるよ」



 私は兄との通話を終え、皆の元へ急ぎ戻る。







「みんな戦闘配置について!」



「いきなりどうしたポコ?」

「ここには敵なんていないニャ!」



「いいから、いいから」



 皆をせかすように、私も艦橋に戻る。

 そのあと、ハンニバルは例のワームホールのあるアルデンヌ星系にむかった。







☆★☆★☆



 アルデンヌ星系のワームホールの近くにワープアウトするハンニバル。



 そして、私はワームホールの向こう側を【羅針眼】で覗き込んだ。





『!?』



 ……地球が赤い?

 いや、地球に落下しようとしている小惑星が赤く光っているだけだった。





「……本当に、この向こう側が現実ならば……」



「マイクロ・クエーサー砲発射用意!!」



「エネルギー充填上限3%」



「ガンマ線バースト確認!」

「方位射角調整良し!」



「生体認証開始!」

「生体連動照準良し!」



 私の眼の動きに随時、ミクロ以下の単位で砲の照準が連動する。





「エネルギーは0.236%に調整」

「了解!」



 小惑星の頑丈さから、命中した時の爆発予想半径に至るまで、私には予測できた。

 これが新しい能力である【魔眼】の力だった。





 私のもう一つのスキル【羅針眼】も今まさに地球に落下しようとしていた小惑星を捉える。



 二つのスキルを使うのは体にこたえる。

 ……頭が割れるように痛い。





「照準良し! 同期成功!」

「マイクロ・クエーサー砲発射!!」



 ハンニバルから放たれた光軸は、ワームホールを抜け地球の近くの小惑星に直撃。

 小惑星を分子以下の単位に粉々にした後、光軸は虚空の彼方へと消え去った。







 『……せ、成功した……』





 私は極度の疲労で、その場に崩れ落ちる。





――異次元の私がまさしく地球の歴史に介入することになった日だった。









【第一章・了】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人命弾

みらいつりびと
SF
敵宇宙軍艦にダメージを与えられるのは人命弾だけ……。 人間を砲弾に変えるのは、地球人類種の保存のためにはやむを得ない選択なのだ。 敵ケイ素人類と戦う唯一にして無二の手段。 そう心に言い聞かせて、モモ・ヤマグチは人命弾工場で働いている。 だが、恋人トモ・ミウラのもとに召集令状が届いて、ついにモモは泣いた。 トモを自分の目の前で人命弾に変えなくてはならないなんて、そんなのあんまりだ……。 宇宙戦争短編小説、全3話。残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

Geo Fleet~星砕く拳聖と滅びの龍姫~

武無由乃
SF
時は遥か果てに飛んで――、西暦3300年代。 天の川銀河全体に人類の生活圏が広がった時代にあって、最も最初に開拓されたジオ星系は、いわゆる”地球帝国”より明確に独立した状態にあった。宇宙海賊を名乗る五つの武力集団に分割支配されたジオ星系にあって、遥か宇宙の果てを目指す青年・ジオ=フレアバードは未だ地上でチンピラ相手に燻っていた。 そんな彼はある日、宇宙へ旅立つ切っ掛けとなるある少女と出会う。最初の宇宙開拓者ジオの名を受け継いだ少年と、”滅びの龍”の忌み名を持つ少女の宇宙冒険物語。 ※ 【Chapter -1】は設定解説のための章なので、飛ばして読んでいただいても構いません。 ※ 以下は宇宙の領域を示す名称についての簡単な解説です。 ※ 以下の名称解説はこの作品内だけの設定です。 「宙域、星域」:  どちらも特定の星の周辺宇宙を指す名称。  星域は主に人類生活圏の範囲を指し、宙域はもっと大雑把な領域、すなわち生活圏でない区域も含む。 「星系」:  特定の恒星を中心とした領域、転じて、特定の人類生存可能惑星を中心とした、移住可能惑星群の存在する領域。  太陽系だけはそのまま太陽系と呼ばれるが、あくまでもそれは特例であり、前提として人類生活領域を中心とした呼び方がなされる。  各星系の名称は宇宙開拓者によるものであり、各中心惑星もその開拓者の名がつけられるのが通例となっている。  以上のことから、恒星自体にはナンバーだけが振られている場合も多く、特定惑星圏の”太陽”と呼ばれることが普通に起こっている。 「ジオ星系」:  初めて人類が降り立った地球外の地球型惑星ジオを主星とした移住可能惑星群の総称。  本来、そういった惑星は、特定恒星系の何番惑星と呼ばれるはずであったが、ジオの功績を残すべく惑星に開拓者の名が与えられた。  それ以降、その慣習に従った他の開拓者も、他の開拓領域における第一惑星に自らの名を刻み、それが後にジオ星系をはじめとする各星系の名前の始まりとなったのである。 「星団、星群」:  未だ未開拓、もしくは移住可能惑星が存在しない恒星系の惑星群を示す言葉。  開拓者の名がついていないので「星系」とは呼ばれない。

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

月夜の理科部

嶌田あき
青春
 優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。  そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。  理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。  競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。  5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。  皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。

処理中です...