宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪

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【第一章】青い地球

第六十二話……赤い地球

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「あのさ、前に私に電話かけてくれたときって、どうやってかけたの?」



「……これですが」



 クリームヒルトさんから小さな携帯電話を借りる。それは携帯電話というより少し前に流行ったPHSに似ていた。



 艦長室に戻り、借りた電話で登録されていた現実世界の自分の携帯にかける。





 …………。

 ……。





「おう? カズヤ無事だったか?」





――私の携帯にでたのは兄だった。



 ……何があったんだろう?





「今、ゲームからログアウトできないんだけど、どうなってるんだろ?」



「……てかさ、お前! ゲームの中から電話かけてんのかよ! 凄いな!」



 珍しく兄が驚く。

 そうだろうとも、私もびっくりだ……。





「いまさ、結構こっちは大変なのよ……」



「どうしたの?」



「実はさ……」



 どうやら、いまリアルの世界は大変らしい。

 話によると、N海溝に潜んでいたR国の戦略原子力潜水艦が故障して、爆発してしまったらしい。



 戦略核兵器を沢山搭載したままでだ。

 そのため海溝やプレートに物凄い圧力がかかって、地震や津波が発生して、火山も噴火したらしい。



 ……どうやらそのショックで停電したらしく、ゲーム機の生命アラートを確認した兄が私の入ったVRカプセルの様子を見に来てくれたらしい。





「……まあ、心配すんなって! このまま病院に運んでやるから!!」



 たいしたことなさそうに、兄は明るい声で答える。

 予備電源が切れているため、私の体ごとカプセルをこのVRゲーム機器と提携している大学病院に搬送するとのことだった。



 ……よく事情はわからないが、現実世界にしばらく帰れそうもない。



 私は電話を副官殿に返し、しばらくゲームの世界に滞在することに決めた。

 いわば、現在の私の体は医療機関にとっては格好の実験体の様だった。







☆★☆★☆



「なんかあったポコ?」



「元気がないニャ?」



 ……食事中にみんなに心配される。

 暗い気持ちでいてもしかたない。

 開き直るしかないよね。





「ハンニバルの次の改装計画なんだけど……」



 そう言って私は図面を開いた。

 次のハンニバルの姿はみんなの意見を聞くことにしたのだ。

 今まではコッソリと自宅のPCにて一人で設計していたのだが……、そもそもアパートにも帰れない事態だ。





「エンジンを沢山くっつけるメェ~♪」

「もうちょっと横幅をひろげませんこと?」



「砲塔も沢山配置するポコ♪」



 皆のご意見を聞いたら、どんどんと船は大きくなる。

 結局、ハボクックの残骸からエルゴ機関を二つ貰い、二つの船体をくっつけたような双胴戦艦とすることに決まった。

 ……よって、かなりの横幅になった。係留する宇宙港が限られてきそうな巨艦だった。





 衛星リーリヤの工廠で、飛行甲板を敷きなおし、クレーンにて砲塔を搭載するハンニバル。

 焼き入れをした多層装甲区画も取り付ける。



 とりあえず他にやることも無かったので、私は日々改装工事に全力を尽くしたのだった。







☆★☆★☆



――カリバーン歴852年10月。



 ハンニバルは所用と試験航海を兼ね、大要塞リヴァイアサンに向かっていた。





「また負けたポコ~!」

「勝ったクマ♪」



 食堂でお昼ご飯のサービスランチ争奪戦をしていると、副官殿の電話がなる。





「提督!」



「何?」



「お兄様から電話ですわ!」



 クリームヒルトさんから電話を借りて、慌てて通路の隅に行き、兄と話す。





「……カズヤ、お前さ、今どこ?」



「ゲームの中だよ?」



「……以前、その世界で地球を見たって言ってたろ?」



「言ったよ!」





「で、今も見えるか?」



「……え~っとね」



 そういえば今は、地球のような惑星が見えるワームホールがあるアルデンヌ星系の近くだった。





「……」

「……わかった、やってみるよ」



 私は兄との通話を終え、皆の元へ急ぎ戻る。







「みんな戦闘配置について!」



「いきなりどうしたポコ?」

「ここには敵なんていないニャ!」



「いいから、いいから」



 皆をせかすように、私も艦橋に戻る。

 そのあと、ハンニバルは例のワームホールのあるアルデンヌ星系にむかった。







☆★☆★☆



 アルデンヌ星系のワームホールの近くにワープアウトするハンニバル。



 そして、私はワームホールの向こう側を【羅針眼】で覗き込んだ。





『!?』



 ……地球が赤い?

 いや、地球に落下しようとしている小惑星が赤く光っているだけだった。





「……本当に、この向こう側が現実ならば……」



「マイクロ・クエーサー砲発射用意!!」



「エネルギー充填上限3%」



「ガンマ線バースト確認!」

「方位射角調整良し!」



「生体認証開始!」

「生体連動照準良し!」



 私の眼の動きに随時、ミクロ以下の単位で砲の照準が連動する。





「エネルギーは0.236%に調整」

「了解!」



 小惑星の頑丈さから、命中した時の爆発予想半径に至るまで、私には予測できた。

 これが新しい能力である【魔眼】の力だった。





 私のもう一つのスキル【羅針眼】も今まさに地球に落下しようとしていた小惑星を捉える。



 二つのスキルを使うのは体にこたえる。

 ……頭が割れるように痛い。





「照準良し! 同期成功!」

「マイクロ・クエーサー砲発射!!」



 ハンニバルから放たれた光軸は、ワームホールを抜け地球の近くの小惑星に直撃。

 小惑星を分子以下の単位に粉々にした後、光軸は虚空の彼方へと消え去った。







 『……せ、成功した……』





 私は極度の疲労で、その場に崩れ落ちる。





――異次元の私がまさしく地球の歴史に介入することになった日だった。









【第一章・了】
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