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【第一章】青い地球

第三十三話……青い海と緑の木々の楽園

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「第6防衛衛星準備良し!」



「ハンニバルはE-86ブロックの守備を担当せよ!」

「了解!」



「復唱を忘れるな! ヴェロヴェマ大佐!」

「はっ! E-86守備担当、了解!」



「ヴェロヴェマって大佐殿か、出世おめでとう!」

「ありがとう! バニラ中佐!」



「無駄口を叩くな! ヘガクサイ!」

「了解!」



 我々の乗るハンニバルは、ツイト子爵の指揮下にてワイマール星系の守備に就いていた。

 ツイト子爵はクラン・シェリオの臨時のクラン長だ。

 よって、守備部隊はワイマール星系艦隊とマールボロ星系艦隊と我がエールパ星系艦隊の混成軍だった。





 我がエールパ星系艦隊からは、ハンニバルと新造艦4隻のみで参加していた。

 ある程度の戦力をエールパ星系に残しての出陣だった。





 ワイマール星系は14隻の戦闘艦で防衛の布陣を敷いていた。

 事前情報によると、この星系に共和国艦隊が攻め寄せてくるはずだった。





 古来より、攻撃側は守備側の3倍の兵力が要る。

 ここの世界において、それが通用するかどうかは謎だが、前もって防衛設備を構築してあるので簡単には負けないはずだった。







「女神ルドミラを崇める連中にとっては、ここは聖地でな……」



 ふと、隣の席で佇む老将が呟く。



「……聖地ですか?」



「ああ、詳しくは知らんがな」

「話によると、どうやらこの辺りに青い海と緑の木々の楽園があるらしいぞ」



「はぁ……」



 私が生返事したのには訳がある。



 確かに、このワイマール星系は帝国の防衛の要だが、熱核戦争の影響が大きい地域であり、荒んだ濃硫酸の海と枯れた木々しかなかった。



 このワイマール星系は、軍事的価値はあるが、経済的価値はかなり低い星系だったのだ。





「敵艦隊出現の模様、長距離跳躍の時空振動を確認しました!」



「了解! 全艦出撃!」

「総力で水際迎撃せよ!」



「「「了解」」」



 宇宙空間で水際などないのだが、エルゴエンジンを持たない艦船の長距離跳躍後は、エネルギー不足により戦闘力がかなり落ちるのだ。

 星系外縁でこの状態の敵艦を迎撃することを、この世界では水際防衛と呼んだ。





「敵艦隊6隻を確認!」



「6隻か、余裕だな。ハンニバル以外前進!」

「ハンニバルは後方より支援しろ!」



「「「了解」」」



 装甲戦艦が後衛というのも珍しいが、ツイト子爵の意図は解る。



 彼は私が嫌いであり、私がこれ以上出世するのを阻みたいのだ。

 楽勝の戦いなら、私を参加させたくないのだろう。



 男性の嫉妬は、女性のそれより激しいのかもしれない……。





 戦況は随時好転。

 地形優位と数でも勝る。

 我が方の優勢は確定していた。



「よぉし、次元断層砲を用意しろ!」

「了解!」



 ツイト子爵は実験兵器である次元断裂砲を持ち出した。

 小型宇宙船舶4隻が全長630mの重砲を曳航する。





 ……もう勝ちは確定だけど、ツイト子爵は新兵器を使いたいのだろうなぁ、と私は思う。







「次元断裂砲準備良し!」

「OK! 全艦、敵集団より離脱せよ!」



「「「了解」」」







――次元断裂砲の超砲身の先端が青白く光る。





『よろしくお願いします』



「……ん!?」



「どうしました? 艦長?」



「……いや、最近空耳が聞こえてね……」



「疲れ気味ポコ?」





 瀕死の共和国艦隊が、次元断裂砲の凄まじいエネルギーバーストを受ける。

 装甲が砂山のように崩れ、艦体が踏まれた空き缶のように潰れる。



 青く光る次元の断層の亀裂に、敵の旗艦が呑み込まれた。

 なんだかその瞬間の映像だけが、脳裏に刻まれた……。







☆★☆★☆



 ワイマール星系の防衛成功後。

 私は現実世界に向けてログアウトした。





 現実世界はもう夜だった。

 窓から見る月が奇麗だ。





 ……お腹が空いたな。

 私はコンビニにお弁当を買いに行く。





 悩んだ末、奮発してカツ重弁当にした。

 縁起を担いで『カツ』にしたのだ。



 VRゲームで勝てますように……、っと。

 今日はコーヒーをやめて、野菜ジュースを買おう。





 レジ前に置いてあるテレビのニュース映像が、ふと目に入る。



『月面に宇宙船のようなものが映っていますね』

『確かにそのようにも見えますね』



 ニュースキャスターがなにやら解説している。

 どうやら、お月様に不思議なモノが存在しているらしい……。

 すぐに、テレビ画面に映像が拡大された。





――ぇ!?





 そこに映し出されたのは、先ほどのVRゲーム内で、次元断裂砲の直撃を受けた共和国軍の旗艦の壊れた姿だった。

 かなり崩壊しているが、間違いない。

 何しろ3時間前に見た映像だったからだ。





 私は急いでお会計を済まし、家へとひた走った……。



 ……私の頭上の満月は美しく光っており、帰り道は優しく照らされていた。

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