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第五十一話……反ゼノン王連合の結成

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――三週間前。

 一隻の小型宇宙船が惑星コローナ後に降り立った。
 その船の船籍は星間ギルド。
 それはゲルマー星系のみならず、その他星系とも取引する超国家的商団体であった。


「ようこそいらっしゃいました!」

 宇宙港で惑星コローナ政府関係者が出迎える相手は、星間ギルドの理事であった。


「どうぞこちらへ、首長のブリュンヒルデがお待ちしております」

「うむ」

 理事は宇宙港から車に乗り、惑星コローナの政府の建物へと案内された。


「ようこそ、ハンス理事。お会いできてうれしいですわ!」

「あはは、ブリュンヒルデお嬢様も大きくなられましたな」

 この理事、実はブリュンヒルデと面識がある。
 それはブリュンヒルデがまだ小さな一人の王族であった頃の話であるが……。

 コローナ政府は、理事を最恵国の待遇の晩餐会でもてなした。
 その後、秘密裏に重要案件での会議が行われたのであった。



☆★☆★☆

「えっ!? 私に王になれと!?」

「ええ。さらに言えば、これは惑星間ギルドだけの要望ではございません。惑星ベネティクタや惑星エーレントラウト、それに付随する宇宙コロニーの首長全ての要請であります」

 理事の話の要諦はこうであった。

 惑星間ギルドは、各惑星間の交易で主な利益を上げている。
 しかし、ゲルマー王国が放った宇宙海獣サーペントにより、急激な貿易額の低迷に陥っていた。

 それは、惑星間ギルドだけでなく、ギルドからの多大な租税を資金源とする各惑星などの政府をも困らせていたのだ。
 もはや、ギルドにとってゲルマー王国は瓦解してほしい存在であった。

 その反王国の盟主として、ゲルマー王国の攻撃をいち早く跳ね除け、独立を早々と独立を勝ち得た惑星コローナの首長に白羽の矢が立ったのだった。

「……しかし、ゼノン王に勝つにも、あのサーペントが邪魔なのです」

 ブリュンヒルデは暗い顔をしてみせる。
 彼女は根っからの王族だ。
 政治的交渉や判断にも優れるものを持っていた。


「お嬢様、誰もただでは星系の王座にはつけませんよ。誰も成し得ない大きな功績を為してこそ、新たな王朝を築ける始祖になれるのです」

「……」

 ブリュンヒルデもハンス理事も、お互いの利益の為の考えを巡らせる。

 ゲルマー星系内では、ゼノン王に続く戦力を持つのはこの惑星コローナ。
 その戦力すべてを注ぎ込めば、宇宙海獣サーペントを倒せるかもしれない。
 これは両者の共通の認識であった。

 さらに言えば、サーペントを倒した後には惑星コローナの戦力も瓦解するだろう。
 そうなれば、惑星コローナの優位性は崩壊し、反王国の実際の盟主は惑星間ギルドになるであろうと……。

 ……ここまでの計画性があってのギルドの申し出であろう、彼女はそう判断した。
 彼女は平和を望んでいた。

 だが、その平和を責任もって構築するには、自らが率先して先頭に立たねばならない。
 なぜなら、戦争は惑星間ギルドにとっても甘い汁。
 彼等はサーペントだけが無くなり、さらに戦争が継続した方が儲かるのだ。

 よって、絶対に主導権を惑星間ギルドになぞに渡してはならないと思っていた。
 だからと言って、ここで自ら盟主の座を断るのも悪手であった。


 ……長いの沈黙の後。
 彼女は重い口をようやく開いた。

「わかりました。お望み通りサーペントを駆除いたしましょう。ですが、王座の約束ゆめゆめお忘れなきよう……」

「わかりました。今後とも惑星間ギルドは、反ゼノン連盟を応援させていただきます」

 惑星間ギルドの理事のハンスは恭しく返礼した。


 ハンス理事はこう思っていた。

 彼女の力の根源は晴信という男の存在。
 だが、彼は慈善事業の為にほぼすべての財産を使い切った。

 ここで、惑星コローナの戦力をサーペントにぶつければ、そのダメージは再起出来ないものとなろう……。
 その後の宇宙戦力は、反ゼノン連盟側はゼノン王を滅ぼすほどの力はない。
 そこで両者を巧く戦わせ、惑星間ギルドに多大なる利益を上げさせて貰うことにする。

 その利益を発言力に変えて、彼は次の理事長選挙に勝利する予定だった。


 ハンス理事は口元に笑みを隠しながら、惑星コローナの地を後にした。
 晴信というオトコにもはや力はない、その点だけを間違えて……。

 お互いの思惑はともかくとして、こうして【反ゼノン王連合】は結成されたのだった。



☆★☆★☆

「お嬢様、わが軍にサーペントを倒す力なぞありませんぞ! 万が一倒したとしてもその時、我が軍は壊滅しておりましょう」

 会議が終わった後、老臣のザムエルはブリュンヒルデにそう助言した。

「だからと言って、ゲルマー星系の正式な王座につけるチャンスをみすみす逃すわけにはいかないわ!」

「……では、どうなさいます!?」

「晴信様にお願いするのよ!」

「は? かの方の船タテナシは我が軍の支配下にありますが?」

「……いえ、彼はきっともっと強い船を作れるはずよ!」

 これはブリュンヒルデの想像というより、願望に近かった。
 もちろん、彼等はケツアルコアトルの存在を知らない。
 さらに言えば、ケツアルコアトル自体も、晴信が完全に作ったものではないのであるが……。


 ……きっと、晴信様ならなんとかしてくれるに違いない。

 そんな思い込みに似た願望を胸に秘めながら、彼女は超光速通信室に向かった。
 通信相手は、そう、晴信であった。
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