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第四十八話……砂漠の衛星

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『入港を許可します! 第八番ゲートへ』

「了解!」

 晴信の乗る連絡船は、惑星コローナを周回する宇宙コロニーの一つタイタンへ到着した。
 準惑星ディーからさほど遠くないが、サーペント対策で機関出力を抑えざるを得ず、かなりの時間を費やしての到着であった。

 晴信は宇宙港に降り立ち、手短にあったタクシーに乗りつけ、惑星間ギルドへ向かった。

 惑星間ギルドとは、ゲルマー王国やスラー帝国といったことに囚われない超法的な商組合である。
 その取扱いの内容は、食料品から武器や違法麻薬といったものまで、本当に幅広く取り扱われていた。


 晴信はタクシー運転手にお金を払い、惑星間ギルドの建物へと入った。

「いらっしゃいませ。ギルドカードはお持ちですか?」

 係員の女性にギルドカードの提示を求められる。
 晴信のカードはDランク。
 中堅どころのお客さんといったところだ。

 本来の業績規模はBランク以上あってもおかしくないが、ミハタ社があまりギルドを通さない取引を主としているので、この程度に収まっていた。

「こちらでお待ちください」

 晴信は殺風景ながら、小さな個室に通された。
 10分ほどたつと、中年男性のギルド員が来て応対してくれた。

「ご用は何ですかな?」

「実は傭兵を雇いたいのです。できれば飛行機に乗れるパイロットが……」

「傭兵ですか……、それは難しいご相談ですね」

 中年の男は険しい顔をしながら説明してくれた。

「昨今はですね、ゲルマー王室と貴族たちの抗争が激しくて、傭兵は引っ張りだこなんですよ。それこそ飛行機に乗れるものは、大金を用意して頂いてもご案内できるかどうかはわかりません」

「へぇ」

 晴信ははじめて知ったかのように頷いたが、何のことはない。
 ほぼ自分たちが当事者であった。

「そこをなんとか、お願いします」

 晴信は中年の男に、高純度の金貨5枚をそっと握らせる。
 前世の地球では、1枚10万円をくだらない品である。

「こ、これは……。うーん、困りましたな」

 困ったと言いながら、この男の顔が笑みに変わる。
 この世界に限らず、妖しい商取引には賄賂がつきものだ。
 この時の晴信は、王道を貫いたと言える。

「決して私が渡したとは言わないでくださいね……」

「もちろんですとも」

 ギルド員は、見たこともない宙域の暗号めいた航路図を手渡してくれた。
 一目見ただけでは分からないが、きっと意味のあるものなのだろう。
 晴信は御礼を言い、ギルドをあとにしたのであった。



☆★☆★☆

――二日後。

 晴信はタイタンの宇宙港にある喫茶店で、ディーを待っていた。
 晴信には例の航路図が何かわからず、結局ディーを呼んだのであった。


「お待たせ!」

 昼過ぎにディーはやって来た。

「マスター! 上質の機械油を一つ」

「畏まりました」

 晴信はディーの好物を頼み、相棒の機嫌を取った。

「この航路図なんだけど……」

「了解!」

 ディーは晴信から航路図を受け取り、早速解析にかかった。


「意外と遠くないです。航路図は惑星ベネディクタの周辺を描いています」

「なんだ、意外と近所だね」

 ディーの解析によると、航路図はジンメル公爵が治める惑星ベネディクタの第六衛星への航路が暗号で記されていたとのことだった。
 つまり同じゲルマー星系の中であり、星系外に飛び出すといったリスクはなかった。

「……だけど、惑星ベネディクタに衛星って6つもあったっけ?」

「ありません」

 晴信の疑問に、ディーが困ったように答えた。
 あの惑星には、衛星が5個しかないはずであり、6個目の衛星の存在は知られていなかったのだ。

 ……もしかしたら、ジンメル公爵家の秘密の園かもしれない。
 危険な臭いが多少したが、好奇心がそれを上回る晴信だった。

「よし、いってみよう!」

「はい」

 晴信の乗った連絡艇は、コロニーであるタイタンを飛び出し、一路存在がはっきりしない衛星へと向かった。



☆★☆★☆

 航路図に描かれた衛星は、他の衛星とは違って、惑星からかなり離れた場所を公転していた。
 きっと、それが知られていない一つの原因であろう。
 そして、上空から見ると、砂漠が一面に広がる貧しそうな天体であった。

『着陸します』

 自動着陸システムに任せ、晴信の乗る連絡艇は地表に降り立つ。

『大気中酸素、適量。放射線濃度、適量……』

 どうやら保護服を着ずとも、外に出られそうだ。
 晴信とディーは、砂がまいあがる荒れ地に四輪バギーを降ろす。
 そして、慎重に歩を進めたのだった。

 気温はさほど熱くはないが、とにかく砂嵐で視界の悪い大地であった。
 走れど走れど、何もない。
 延々と砂漠が広がる大地。

 ……ジンメル公爵家は、なぜこんな不毛な衛星を隠しているのだろう。
 晴信がそう不安に思った瞬間。

 赤いレーザー光線が、晴信とディーが乗るバギーを捉えた。
 それは対人用のレーザーライフルのものだった。
 二発、三発と立て続けに食らい、バギーは故障して止まってしまう。


「手を挙げろ!」

 やってきたのは、巧妙に砂漠地帯に偽装したドワーフ族の戦士たち。
 何故戦士かとわかるかと言えば、彼等の顔には無数の古傷が彫り込まれていたのだ。


「こっちへこい!」

 晴信とディーは捕縛され、目隠しをされて、どこかへと連行されてしまった……。
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