45 / 55
第四十五話……異次元潜航艇ケツアルコアトル
しおりを挟む
人間たちが居なくなった空間。
それは思ったよりも、無機質で静かなものではない。
厨房からは鍋を振る音が聞こえ、いい匂いがしてきた。
「オ待チドウサマ!」
「ありがとう」
晴信の前に、水耕栽培で育てられたと思われるネギがたっぷり入った炒飯が提供される。
美味しそうな湯気が上がり、スプーンですくうと香ばしい脂の香りが鼻を抜けた。
「御馳走様」
晴信は炒飯を食べ終え、水を飲む。
「ここには君しかいないの?」
「エエ、皆、動カナクナリマシタ。私ハヒトリボッチ。ソレヨリ貴方ハ何ヲシニ、コノアタリマデキタノデスカ? ココノマワリハ危険ナ宙域ナノニ……」
「ええっとね、ちょっと特殊な部品を探しに来たんだ」
晴信はこのロボットにサーペントの脅威を伝え、それに対する備えとして異次元潜航艇が欲しいと説明してみた。
それは、全く何かを期待するものでは無かったのだが……。
「……ナラバ、付イテキテクダサイ」
ロボットは晴信についてくるようにいう。
それに従い、晴信はおとなしくついていくことにした。
二つの部屋と三つの廊下を通った先は、大きな屋内ドックであった。
そこにはドレッドノートより一回り大きい宇宙船が停泊していた。
外殻部より、その接合部分は見当たらず、又、くまなく対レーザー用の鏡面装甲が施されており、素晴らしい技術で作られていることが一目で判った。
「凄い!」
「凄イデショウ! コノ船ハ【ケツアルコアトル】。異次元ニモ潜レマスヨ」
「!?」
晴信は思わず息をのんだ。
「コノ船ハサシアゲマスカラ、アノ、ロボットヲクダサイ」
「ディーのこと?」
「ハイ」
「それは出来ないよ。彼は大切な僕の友達なんだ」
晴信がそう言うと、ロボットは意外なことを言った。
「私ニモ友達ガ、欲シイ……」
「えっ? じゃあ僕と一緒に来たらいいよ! そうしない?」
「私ハ、コノ施設ノ料理人。外ニハ出ラレナイ仕様ナノデス」
「うーん、困ったなぁ……、とりあえず、ディーに会わせてよ」
「コチラデス」
ロボットは晴信を連れ、施設内の地下室へ案内する。
階段を降りると、格子戸の部屋の中にディーは閉じ込められていた。
「……あ、晴信! 助けて!」
「下手ニ動クト、施設ゴト爆破シマスヨ!」
ロボットは警告を鳴らしてきたが、思ったより晴信は冷静だった。
「……ねぇ、ディー、彼もいっしょにここを出る方法はないかな?」
晴信はロボットが一人で寂しい事。
よって、一緒に連れ出したいが、でもここを出られないことを説明した。
「私モ、外ノ世界ニ出タイ」
「困ったねぇ~」
その話を聞いて、ディーは幾分気分が落ち着く。
自分も一人で、こんなところに長い事いたら、とても寂しいだろうと思うからだ。
「ところで君の名前はなんていうの?」
晴信は思い出したように、ロボットに名前を聞いてみた。
「私ハ、R886-DZXデス」
ひょっとして名前がないのではないかと思ったが、名前はきちんとあった。
というか、多分それは型番というのだろうが……。
「じゃあ、今日から君はアールだ」
「私ノ名前ガ、アール?」
「そうだよ。気に食わない?」
「イエ、アリガトウゴザイマス。デスガ、ディーサンハ、返シマセンヨ」
晴信は何かを求めた訳では無かったが、アールは常に警戒感を露にする。
……ところが、そのアールから突如、焦げ臭いがしてきた。
「アア、嗚呼、アア……」
訳の分からないことを呟くアール。
どうやら、どこかの配線がショートしているようだ。
つまり、経年劣化の為の故障のようであった。
晴信は急いで地下室の階段を駆けあがった。
アールがここを研究所と言っていたから、彼を修理するキットなりなんなりが用意されているはずだった……。
「あった!」
晴信は緊急用の修理キットを見つけた。
それをもって大急ぎで地下室に戻る。
「アールしっかりするんだ!」
「アア、嗚呼、アア……」
晴信は急いでアールの外殻部を剥がし、焦げ臭い部位を探した。
だが、故障していた部位は、人間の脳下垂体にも当たる重要部で、晴信には手の施しようがなかった。
他にも多数の修理痕があった。
きっとそれは、今まで自分で修理してきたのだろう……。
……嗚呼、ワタシガ終ワル。
ツマラナイ一生ダッタ。
アールは臨終の間際、そう思った。
だが、彼は数時間後に目を覚ますことになった。
「おはよう。目が覚めたかい?」
アールの眼の前。
若しくは視覚認知機器の前にはディーの姿があった。
「アレ? 私ハ壊レテシマッタノデハ?」
「……うん、壊れたんだけど、記憶メモリーは無事だったんだよ。でね、すぐに移植先を探した結果、ここになったんだ」
「ココハ、知ッテイルゾ!」
「そうだよ。アールが案内してくれたケツアルコアトルの艦橋コンピューターに移植したんだ。これからも宜しくね!」
晴信はそう言いにっこりと笑う。
「何しろ、アールがいないとこの船の動かし方も分からないからねぇ~」
ディーがランプを点滅させながら、そう続けた。
「皆サン。アリガトウ……」
異次元潜航艇【ケツアルコアトル】。
この日、晴信の手により、未知の研究所を発進。
一路、ゲルマー星系を目指した。
それは思ったよりも、無機質で静かなものではない。
厨房からは鍋を振る音が聞こえ、いい匂いがしてきた。
「オ待チドウサマ!」
「ありがとう」
晴信の前に、水耕栽培で育てられたと思われるネギがたっぷり入った炒飯が提供される。
美味しそうな湯気が上がり、スプーンですくうと香ばしい脂の香りが鼻を抜けた。
「御馳走様」
晴信は炒飯を食べ終え、水を飲む。
「ここには君しかいないの?」
「エエ、皆、動カナクナリマシタ。私ハヒトリボッチ。ソレヨリ貴方ハ何ヲシニ、コノアタリマデキタノデスカ? ココノマワリハ危険ナ宙域ナノニ……」
「ええっとね、ちょっと特殊な部品を探しに来たんだ」
晴信はこのロボットにサーペントの脅威を伝え、それに対する備えとして異次元潜航艇が欲しいと説明してみた。
それは、全く何かを期待するものでは無かったのだが……。
「……ナラバ、付イテキテクダサイ」
ロボットは晴信についてくるようにいう。
それに従い、晴信はおとなしくついていくことにした。
二つの部屋と三つの廊下を通った先は、大きな屋内ドックであった。
そこにはドレッドノートより一回り大きい宇宙船が停泊していた。
外殻部より、その接合部分は見当たらず、又、くまなく対レーザー用の鏡面装甲が施されており、素晴らしい技術で作られていることが一目で判った。
「凄い!」
「凄イデショウ! コノ船ハ【ケツアルコアトル】。異次元ニモ潜レマスヨ」
「!?」
晴信は思わず息をのんだ。
「コノ船ハサシアゲマスカラ、アノ、ロボットヲクダサイ」
「ディーのこと?」
「ハイ」
「それは出来ないよ。彼は大切な僕の友達なんだ」
晴信がそう言うと、ロボットは意外なことを言った。
「私ニモ友達ガ、欲シイ……」
「えっ? じゃあ僕と一緒に来たらいいよ! そうしない?」
「私ハ、コノ施設ノ料理人。外ニハ出ラレナイ仕様ナノデス」
「うーん、困ったなぁ……、とりあえず、ディーに会わせてよ」
「コチラデス」
ロボットは晴信を連れ、施設内の地下室へ案内する。
階段を降りると、格子戸の部屋の中にディーは閉じ込められていた。
「……あ、晴信! 助けて!」
「下手ニ動クト、施設ゴト爆破シマスヨ!」
ロボットは警告を鳴らしてきたが、思ったより晴信は冷静だった。
「……ねぇ、ディー、彼もいっしょにここを出る方法はないかな?」
晴信はロボットが一人で寂しい事。
よって、一緒に連れ出したいが、でもここを出られないことを説明した。
「私モ、外ノ世界ニ出タイ」
「困ったねぇ~」
その話を聞いて、ディーは幾分気分が落ち着く。
自分も一人で、こんなところに長い事いたら、とても寂しいだろうと思うからだ。
「ところで君の名前はなんていうの?」
晴信は思い出したように、ロボットに名前を聞いてみた。
「私ハ、R886-DZXデス」
ひょっとして名前がないのではないかと思ったが、名前はきちんとあった。
というか、多分それは型番というのだろうが……。
「じゃあ、今日から君はアールだ」
「私ノ名前ガ、アール?」
「そうだよ。気に食わない?」
「イエ、アリガトウゴザイマス。デスガ、ディーサンハ、返シマセンヨ」
晴信は何かを求めた訳では無かったが、アールは常に警戒感を露にする。
……ところが、そのアールから突如、焦げ臭いがしてきた。
「アア、嗚呼、アア……」
訳の分からないことを呟くアール。
どうやら、どこかの配線がショートしているようだ。
つまり、経年劣化の為の故障のようであった。
晴信は急いで地下室の階段を駆けあがった。
アールがここを研究所と言っていたから、彼を修理するキットなりなんなりが用意されているはずだった……。
「あった!」
晴信は緊急用の修理キットを見つけた。
それをもって大急ぎで地下室に戻る。
「アールしっかりするんだ!」
「アア、嗚呼、アア……」
晴信は急いでアールの外殻部を剥がし、焦げ臭い部位を探した。
だが、故障していた部位は、人間の脳下垂体にも当たる重要部で、晴信には手の施しようがなかった。
他にも多数の修理痕があった。
きっとそれは、今まで自分で修理してきたのだろう……。
……嗚呼、ワタシガ終ワル。
ツマラナイ一生ダッタ。
アールは臨終の間際、そう思った。
だが、彼は数時間後に目を覚ますことになった。
「おはよう。目が覚めたかい?」
アールの眼の前。
若しくは視覚認知機器の前にはディーの姿があった。
「アレ? 私ハ壊レテシマッタノデハ?」
「……うん、壊れたんだけど、記憶メモリーは無事だったんだよ。でね、すぐに移植先を探した結果、ここになったんだ」
「ココハ、知ッテイルゾ!」
「そうだよ。アールが案内してくれたケツアルコアトルの艦橋コンピューターに移植したんだ。これからも宜しくね!」
晴信はそう言いにっこりと笑う。
「何しろ、アールがいないとこの船の動かし方も分からないからねぇ~」
ディーがランプを点滅させながら、そう続けた。
「皆サン。アリガトウ……」
異次元潜航艇【ケツアルコアトル】。
この日、晴信の手により、未知の研究所を発進。
一路、ゲルマー星系を目指した。
10
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する
紫電のチュウニー
SF
宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。
各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な
技術を生み出す惑星、地球。
その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。
彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。
この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。
青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。
数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
Mobile Panzer SADAME【機動甲装さだめ】
暁・真理亜
SF
偽りの平和が崩れた、再び戦火はこの大陸に吹き荒れていく。
滅びゆく世界に、全てが崩れ去った。
閉じゆく心、冷えてゆく魂、
少年たちは、運命の波に洗われている。
駆け抜ける嵐、青ざめた瞳
そして彼は、確かに見えた、
迷いの中に咲いた絶望の花を。
「君は、生き延びることができるか?」
*他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる