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第三十九話……ステレス型ドレッドノート

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「これで邪魔するモノが無くなった。我が王国の地上部隊で敵を蹂躙せよ!」

「はっ」

 遊撃生物兵器サーペントにより、各惑星の宇宙戦力は無力化した。
 各惑星に分散している宇宙戦力と違い、地上戦力はゼノン王が治める主星アレクサンドラに集中していたのだ。

 ゼノン王は麾下の地上兵力を、惑星ベネティクタ、惑星コローナ、惑星エーレントラウトへ進出させた。
 この図式は過去に地上戦力が優勢だったとある人間勢力が使った戦略で、そのときもサーペントが使用されたということだった。
 何はともあれサーペントの宇宙遊弋で、敵地上部隊を宇宙空間で迎撃できず、この世界の戦線は常に地上にて興るという図式が慣例になろうとしていたのだった。



☆★☆★☆


「敵地上部隊、防衛施設の合間を縫って降下してきます!」

「やむを得ん! 地上にて迎撃せよ!」

「はっ」

 惑星コローナの司令部においては、老将ザムエルの怒号ともいえる指令が飛び交う。
 惑星コローナ臨時政府が保有する地上戦力は3万。
 それに対し、ゼノン王が差し向けた地上兵力は15万だった。

 ただ戦力というモノは人数だけではない。
 装備の優劣や指揮の有無など、幅広い指標があった。
 しかし、その指標の何れもが、コローナ側に著しく有利という者では無かった。

 ……戦線での兵力の多少は、真綿で首を絞めるようにコローナ側を圧迫していくのであった。



☆★☆★☆

――そんな頃。
 晴信とディーの姿は、準惑星ディーにあった。

 この施設は晴信の療養に適しているからというのが一義的な理由で、もう一つはサーペント対策の構築であった。

「宇宙船はともかく、気圏戦闘艦くらいはサーペントに襲われたくないよね……」

 晴信は車椅子にて呟く。
 宇宙戦艦などはともかくとして、戦力をセーブして用いる気圏戦闘艦くらいは、サーペントを気にせず航行したいというのが彼の要望だったのだ。

「……ですねぇ、何とかしてみたいものです……」

 ディーは人間たちの叡智が詰まった量子電算機のデータをくまなく探す。
 そうすると2~3の隠蔽用の装甲システムのデータがあがってきた。

「……その材料とは」

 ディーが装甲の材料を検索すると、以前に戦ったスライムが載っていたのだ。

「……げ?」

「うあぁ」

 モニター危機を覗き込んだ晴信も声を漏らす。
 あの極めて臭いスライム、量子電算機のデータによるとサーペント唯一嫌いな宇宙生物だそうだ。

 しかし、宇宙空間に匂いはしない。
 晴信がコローナにサーペントに会わずに帰ってこられたのは、きっとこのスライムのせいだったのだ。
 どうやら、存在自体が嫌いらしい。

「宇宙戦艦はともかく、気圏戦闘艦のエネルギー量ならこの分量のスライムで大丈夫そうだね……」

「他の船の安全のために、このスライム増殖するの!?」

 晴信はディーに問うた。

「いやあ、このスライム自体が危険だから、増殖は後回しにした方が良いかも?」

「……うん」

 晴信はこのスライムの強烈な臭さが忘れられない。
 だが、堅固な試験管にはいったこのピンク色のゼリー状の生物が、サーペントからドレッドノートを守ってくれると思うと、不思議な感じがしたのだった……。

「平和キライ! オ前ラ殺ス!」

 試験管の中から物騒な小さな声が発せられる。
 ……が、その発言も、試験管の中で無力化された状態ではユニークな冗談に聞こえるのであった。



☆★☆★☆

「晴信、二番の鋼板を持ってきて!」

「了解」

――翌日。
 晴信とディーはスライム以外でのサーペント対策をしていた。

 既存の複合セラミック装甲の上に、エネルギー吸収素材をコーティングした鋼板を施すのだ。
 大型クレーンが動き、各種溶接アームがテキパキと仕事をこなしていった。
 核融合炉機関から漏れ出す僅かなエネルギーも外に漏らさないような工夫が、ドレッドノートの外壁に施されていったのだった。

 錆止めの上に、最終塗装を施し、認識番号などを記す。
 ステルス型のドレットノートの完成だった。

「出来た!」

「ふう、疲れた!」

 晴信とディーは、ささやかに完成を祝う。
 彼等の他には、自我を持たぬ作業量ロボットだけが、無機質にテキパキと働いているだけだった。

 ちなみに、エネルギーを漏らさぬよう施した装甲は、なにもサーペントだけに有効なものでは無かった。
 対各種センサーにも隠蔽効果があるものだったのだ。
 それら敵からの発見を遅らせ、敵からの先制攻撃を受けにくくする効用があった。


【システム通知】……惑星コローナから通信です。

 晴信は艦橋のモニターを開く。
 それは惑星コローナからの超高速通信だった。

 立体映像通信システムのモニターにカンスケの上半身が3D描写で映る。
 過剰な映像情報量と思えるものだが、これが太古の人間たちが好んだ通信方式だったのだ。

「社長、傷の具合は如何ですか?」

「まぁまぁだよ」

「申し訳ないのですが、惑星コローナの戦線が思わしくありません。是非加勢して頂きたいのですが……」

「もちろん、行くよ!」

「有難うございます! 子細は地形データなども作戦に添付してきますので目を通してください」

「わかった」

「……」

 カンスケの申し訳なさそうな表情が浮かぶ。
 こういうところは、立体映像情報システムも捨てたものじゃないと晴信は思う。

「ブリュンヒルデは元気?」

「……ええ」

 こんどは晴信が少し気を遣った。
 晴信は少し彼女を避けているところがあったのだ。


――翌日。
 ドレッドノートは準惑星ディーを出立。
 一路、惑星コローナを目指した。
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