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第三十三話……撤退

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 準惑星ディーにある晴信の工場。
 この工場は、ほとんどすべてのモノを作ることが出来る。

 ……が、あくまで材料あってのことだ。
 また、未知のものは設計図が必要のモノもあった。

 それゆえ、晴信は古代文明の遺跡潜り、未知の希少金属を集めたり、古代の書籍を漁ったりしていたのであった。

 今回の南極の遺跡も晴信に益をもたらした。
 それは今後の製造過程に生かされていくであろう……。



☆★☆★☆

「これどうしよ……」

 ドレッドノートに戻った晴信は、小さな試験管を手にしていた。
 透明なガラスの中身は、先日の凶悪なスライムの破片であった。
 ちなみに恐ろしく臭い。

「嫌がらせに使うくらいしかないんじゃないですかね?」

 半ば笑って答えるディー。

「でもさ、こいつは電磁防壁を作れる生物なんだよ」

「そうだったね」

 ディーも臭さで忘れてしまうとこだったが、この未知なる生物、自らを守るためなら、電磁防壁を張れるという傑物だったのだ。

「船に塗ると強くなるかな?」

 晴信が苦笑いしてディーに聞く。

「臭さで、どの港にも入港させてもらえなくなるよ」

「やっぱりかぁ……」

 この凄まじい謎の力を持つスライム。
 弱点はやはり匂いであった。

「まぁ、使い道は今度で良いか! うん、そうしよう!」

「そうだね」

 結局このスライムは、ドレッドノートにある冷凍庫で保存されることになった。
 長い間、常温だと増殖肥大する可能性があったためだ。



☆★☆★☆

――その頃。
 マエダ少将率いる地上部隊は、あいかわらず地上戦に苦戦していた。
 むしろ、敵に押されているといった状況であった。


「閣下! 第二防衛戦も突破されました!」

「閣下、第二航空隊も稼働率が水準に達しません」

「補給部隊から連絡、泥濘地帯にて予定が三日遅れるとのことです」

 惑星エーレントラウトは寒冷惑星。
 皆、そう聞いて臨んできたのだが、かの惑星の赤道上の夏場は、雨季に一年分の雨がふるといった惨状であった。
 寒冷用の装備は充実してきたが、まさか多湿型気候帯の装備がいるとは、惑星コローナの司令部も思いもしなかったのだ。


 マエダ少将は幕僚を集めて言った。

「これはコローナ本星の補給部の失態だ。我々が責を負うところではない!」

「閣下、ではどうなさると!?」

「無論、撤退だ!」

 幕僚たちは、お互いの顔を見合わせる。

「それでは、エーレントラウトの政府を見捨てることになりませぬか? まずはコローナ司令部の判断を仰ぐべきでは?」

 老齢の参謀がマエダ少将に意見した。

「貴様、名前を何といったか? 階級は?」

「リストであります。階級は少佐であります、閣下!」

「名前を憶えてやろう。……では、死ね!」

「え!?」

 リスト少佐は周りの参謀たちに羽交い絞めにされ、致死性の毒物を注射された。
 まもなく、彼は泡を吹いて冷たくなってしまった。

「リスト少佐は体調が悪いそうだ。だれか医務室に運んでやれ!」

「はっ!」

 リスト少佐は、すぐに作戦室から連れ出される。

 このマエダ少将の異様ともとれる行動に、参謀たちは誰も違和感を覚えない。
 それもそのはず、彼は腹心以外の幕僚を認めないという方針だったのだ。

「人事担当の馬鹿どもが、毎月の賄賂をなんだと思っているのだ!」

 彼は誰ともなく悪態をつく。
 少なくとも、彼の皆を恐れさせる実行力は折り紙付きのものだった。
 むしろ、彼の才覚は、軍人というより政治家の類かもしれなかったが……。


「まぁいい。全軍撤退するぞ!」

「はっ、……しかしコローナ本星にはなんと連絡しましょう?」

「以前と同じく、通信機の不具合という理由で詳細を伝えるな!」

「了解であります!」

「あと……」

「まだあるのか!?」

 凄く嫌そうにマエダ少将は答える。

「……いえ、南極に派遣した飯富大佐のことは如何しましょう?」

「お前は馬鹿だな、それこそこの撤退の真の目的だ。奴は王族とのコネがある。ここで確実に死んで貰うのだ!」

 その発言に流石の幕僚たちも青くなる。

「……いえ、置き去りにするのは分かりますが、確実に死ぬかどうかは……」

 マエダ少将はニッっと笑い、発言した幕僚の肩を叩く。

「お前の部隊がアイツを確実に殺して来い!」

「はっ!? わかりました」

 そう答えた幕僚。
 断りたかったが、断れば自分が殺されると判って、素直に素早く返事を返したのだった。


――この二時間後。

「撤退! 撤収せよ!」

 惑星コローナの部隊全軍に撤収の命令を発動された。
 連絡を受けた前線部隊は、武器や装備一切を投げ捨て、一目散に惑星揚陸艦のある泊地へと退避していく。

 ……それもそのはず。
 この戦場は自分たちの星ではない。
 未知の惑星に置いていかれてしまっては、なにがあるかわかったものではないと言ったところだった。

 逃げ帰る者に装備は要らないものだが、このとき置いていった主力戦車や気圏戦闘機が、全て敵方である反政府軍に接収された。
 しかも、あの新鋭戦機であるゴーレムもである。

 これにより、惑星エーレントラウト政府軍は、惑星コローナからの援軍を失うだけでなく、さらなる苦戦の理由に苛まれることとなったのだった。
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