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第二十九話……新王ゼノンの圧政
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晴信はディーと準惑星ディーハウスの工場に来ていた。
この工場のことは、今も多くの人に内緒である。
「ディー、このパワーカプセルの一つはドレッドノートのエンジンに載せることに決めたよ」
「良いと思うよ」
晴信はディーとともにコーヒーを飲みながら話していた。
勿論、ディーが飲むのは機械油であるが。
先日の地下遺跡で手に入れたパワーカプセルの一つは、気圏戦闘艦であるドレッドノートに装備することになった。
――その日の晩。
ドックに停泊させたドレッドノートの装甲区画をクレーンで取り外し、内部にある核融合炉エンジンの隣にあるサブエンジンに、件のパワーカプセルをセットした。
この無尽蔵なエネルギー供給源に伴い、艦首主砲である長砲身レーザー砲と、砲塔主砲のレールガンの出力を引き上げる工事を同時に行った。
しかし、各種武装強化は大昔から定められた大気圏内での戦闘規約内に留められ、無重力空間を行き来する無制限武装の宇宙戦艦には立ち向かえない。
あくまで、大気圏内での最強艦へと換装が進められたのであった。
「これで出力が上がるはずだよね?」
「ただあがるだけじゃない。格段にだよ!」
そう言って、ディーは器用にブイサインを作った。
「……で、ハルノブ。もう一つは何の船につけるの?」
ディーが晴信に問う。
大方、タテナシにつけるのであろうと思っていたが、その予想は裏切られた。
「……えっとね。もう一つの取り付け先はもう決めてあるんだ」
「どの船?」
「船じゃない。君につけるんだ!」
「ぇ!?」
晴信が二個目のパワーカプセルを組み込むと決めたのは、ディーのメインバッテリーの替えであった。
確かにディーのバッテリーは不調で、度々不具合を起こしていた。
ただ、一介のロボットに、恒星クラスのエネルギーを捻出するカプセルを積載するという話は聞いたことが無い。
「いやいや、もったいないよ!」
「いいんだ。それともつけたくないの?」
「いや、あると嬉しいけど……」
そもそも晴信とディーは、様々な古代遺跡で貴重な部品を獲得しており、ディーに適合しそうな部品は片っ端からディーに組み込んでいた。
そのため、ディーはなかなかに優秀なロボットと化しており、以前に比べて格段の演算処理能力を獲得していた。
さらに電源が安定すればその分、演算性能も向上することが予測された。
「……でも、私は軍需兵器じゃないから、そんなに極端にはパワーアップはしないよ」
「うん、良いんだ。僕はディーが長い事、仲良く傍にいてほしいからね」
晴信はにっこりと笑う。
彼はこの世界に一人ぼっちで来ている。
その寂しさを紛らわしてくれる最大の存在はディーというロボットであったのだ。
その価値は、安易に他人が推し量れるものではない。
「じゃあ、スイッチを切るね」
「うん」
晴信はディーを改造台に載せ、メインスイッチにて電源を落とす。
簡易装甲外殻を外し、コア部品であるバッテリーを取り外した。
代わりにパワーカプセルを組み込み、複雑な電極配線を取り付けていった。
「……出来た」
何度もディーの改造をしている晴信にとって、今回の改造も容易なことだった。
すぐに電源スイッチを入れ、ディーは起動される。
「ただいま……」
「気分はどう?」
「うーん、温かい機械油が飲みたいかな?」
そう言ってディーはランプをチカチカさせて笑った。
バッテリーの交換は無事に成功したようであった。
今回のことをエネルギーの専門家の方が聞けば、ビックリほど贅沢なエネルギーカプセルの遣い方であった。
だが、これによりディーは、巨大な宇宙戦艦にエネルギーを供給することも可能な無限の補給システムへと化けていたのであった。
☆★☆★☆
ディーが凄まじい電源を獲得した、丁度この頃。
ゲルマー王国の主星アレクサンドルには、無謀な政策の暴風が吹き荒れていた。
ゲルマー王国の新しい王ゼノンは、高税率と高負担を主体とした強権的全体主義政策を推し進める。
そして優良企業は次々と国営化。
資産家たちの資産も逐一没収していった。
元々、過度な自由主義経済であったため、この政策は低所得層には当初一定の評価が為された。
しかし、それによって得た税は、福利厚生に一切使われることなく、急速な軍拡に湯水のごとく費やされた。
25年前に廃止された徴兵制も復活。
活力ある経済惑星アレクサンドルは一変。
軍事色一色の無機質な社会へと変貌していった。
これに怒った市民たちは、各地でデモを起こすが、強権的な王であるゼノンは、軍隊を用いて嬉々として鎮圧に乗りだしていったという。
この主星での変化を見た星系の有力者たちは、自由を奪われると危惧。
主星アレクサンドルを脱出し、星系各所の惑星で武装蜂起を行った。
これに地方の富裕層が加担し、中央政府との激しい対立軸を産んでいった。
この武装蜂起の一端が、惑星コローナの出来事であり、ゲルマー星系全体が暴力渦巻く混乱した社会へと陥っていった。
ゼノン王が王位について僅か6か月の混乱で、ゲルマー星系のGDPは実に約4割を喪失。
失業率に至っては30%を突破する地獄の有様となっていった。
この工場のことは、今も多くの人に内緒である。
「ディー、このパワーカプセルの一つはドレッドノートのエンジンに載せることに決めたよ」
「良いと思うよ」
晴信はディーとともにコーヒーを飲みながら話していた。
勿論、ディーが飲むのは機械油であるが。
先日の地下遺跡で手に入れたパワーカプセルの一つは、気圏戦闘艦であるドレッドノートに装備することになった。
――その日の晩。
ドックに停泊させたドレッドノートの装甲区画をクレーンで取り外し、内部にある核融合炉エンジンの隣にあるサブエンジンに、件のパワーカプセルをセットした。
この無尽蔵なエネルギー供給源に伴い、艦首主砲である長砲身レーザー砲と、砲塔主砲のレールガンの出力を引き上げる工事を同時に行った。
しかし、各種武装強化は大昔から定められた大気圏内での戦闘規約内に留められ、無重力空間を行き来する無制限武装の宇宙戦艦には立ち向かえない。
あくまで、大気圏内での最強艦へと換装が進められたのであった。
「これで出力が上がるはずだよね?」
「ただあがるだけじゃない。格段にだよ!」
そう言って、ディーは器用にブイサインを作った。
「……で、ハルノブ。もう一つは何の船につけるの?」
ディーが晴信に問う。
大方、タテナシにつけるのであろうと思っていたが、その予想は裏切られた。
「……えっとね。もう一つの取り付け先はもう決めてあるんだ」
「どの船?」
「船じゃない。君につけるんだ!」
「ぇ!?」
晴信が二個目のパワーカプセルを組み込むと決めたのは、ディーのメインバッテリーの替えであった。
確かにディーのバッテリーは不調で、度々不具合を起こしていた。
ただ、一介のロボットに、恒星クラスのエネルギーを捻出するカプセルを積載するという話は聞いたことが無い。
「いやいや、もったいないよ!」
「いいんだ。それともつけたくないの?」
「いや、あると嬉しいけど……」
そもそも晴信とディーは、様々な古代遺跡で貴重な部品を獲得しており、ディーに適合しそうな部品は片っ端からディーに組み込んでいた。
そのため、ディーはなかなかに優秀なロボットと化しており、以前に比べて格段の演算処理能力を獲得していた。
さらに電源が安定すればその分、演算性能も向上することが予測された。
「……でも、私は軍需兵器じゃないから、そんなに極端にはパワーアップはしないよ」
「うん、良いんだ。僕はディーが長い事、仲良く傍にいてほしいからね」
晴信はにっこりと笑う。
彼はこの世界に一人ぼっちで来ている。
その寂しさを紛らわしてくれる最大の存在はディーというロボットであったのだ。
その価値は、安易に他人が推し量れるものではない。
「じゃあ、スイッチを切るね」
「うん」
晴信はディーを改造台に載せ、メインスイッチにて電源を落とす。
簡易装甲外殻を外し、コア部品であるバッテリーを取り外した。
代わりにパワーカプセルを組み込み、複雑な電極配線を取り付けていった。
「……出来た」
何度もディーの改造をしている晴信にとって、今回の改造も容易なことだった。
すぐに電源スイッチを入れ、ディーは起動される。
「ただいま……」
「気分はどう?」
「うーん、温かい機械油が飲みたいかな?」
そう言ってディーはランプをチカチカさせて笑った。
バッテリーの交換は無事に成功したようであった。
今回のことをエネルギーの専門家の方が聞けば、ビックリほど贅沢なエネルギーカプセルの遣い方であった。
だが、これによりディーは、巨大な宇宙戦艦にエネルギーを供給することも可能な無限の補給システムへと化けていたのであった。
☆★☆★☆
ディーが凄まじい電源を獲得した、丁度この頃。
ゲルマー王国の主星アレクサンドルには、無謀な政策の暴風が吹き荒れていた。
ゲルマー王国の新しい王ゼノンは、高税率と高負担を主体とした強権的全体主義政策を推し進める。
そして優良企業は次々と国営化。
資産家たちの資産も逐一没収していった。
元々、過度な自由主義経済であったため、この政策は低所得層には当初一定の評価が為された。
しかし、それによって得た税は、福利厚生に一切使われることなく、急速な軍拡に湯水のごとく費やされた。
25年前に廃止された徴兵制も復活。
活力ある経済惑星アレクサンドルは一変。
軍事色一色の無機質な社会へと変貌していった。
これに怒った市民たちは、各地でデモを起こすが、強権的な王であるゼノンは、軍隊を用いて嬉々として鎮圧に乗りだしていったという。
この主星での変化を見た星系の有力者たちは、自由を奪われると危惧。
主星アレクサンドルを脱出し、星系各所の惑星で武装蜂起を行った。
これに地方の富裕層が加担し、中央政府との激しい対立軸を産んでいった。
この武装蜂起の一端が、惑星コローナの出来事であり、ゲルマー星系全体が暴力渦巻く混乱した社会へと陥っていった。
ゼノン王が王位について僅か6か月の混乱で、ゲルマー星系のGDPは実に約4割を喪失。
失業率に至っては30%を突破する地獄の有様となっていった。
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