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第二十四話……王弟ゼノン

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 貴族会議の参加メンバーは一様に驚きを隠さない。
 が、機械の体の男の顔は、確かに王の弟のものだったのだ。


「……こ、これは失礼いたしました」

 一同は思い出したように、一様にひれ伏した。

「うむ、……でだ。我が王になるのに不満の者はいるか?」

 唐突な質問に、貴族たちは焦り、顔を見合わせた。

「いえ、それは……」

「どうなんだ?」

 王弟は低い声で凄んだ。

「……も、問題ありません」

 先王の血族で、跡を継げるような血の濃い有力者は他に存在しなかった。
 そのため、貴族たちは先の王の弟であるゼノンの即位に渋々同意したのであった。

 貴族達は王の即位を認める証書に次々にサインした。
 そうした後に、突然、会議室に武装兵たちが雪崩れ込んできた。

「手を挙げろ!」

 この武装兵はアンゲラー辺境伯の私兵であった。


「者ども、王の初めての命令を伝える。アンゲラー以外の貴族の領地を没収。そして身柄は一族もろとも拘禁とする!」

「ぇ!? 何ですと?」
「それはあまりにもご無体な……」

「ええい、王の命令じゃ! 者ども連れていけ!」

「はっ!」

「……は、はなせ! 無礼者!」

 こうして貴族たちは、首都星に住まわせていた家族と共に拘禁。
 領土を没収され、没収された領土は全て新王のものとなった。



☆★☆★☆

――翌日。

『我が新しき王、ゼノンである……』

 晴信は惑星間放送によって、新王の即位の会見を見ていた。

『……新公布として、アンゲラー辺境伯を宰相に任じる。更にアンゲラー辺境伯領以外の貴族領は王のものとする!』

「……え?」

 晴信は絶句した。
 それはこの星系に住まうほとんどのものが、同じ反応だったに違いない。
 何故ならば、ゲルマー王国とは実際には、自治領を持つ貴族たちによる連邦制と言っていい国家だったのだ。
 その貴族たちを拘禁し、所領を没収したことに多くの国民は驚いた。

「これから、どうなるんでしょうねぇ?」

 ディーも不安そうだ。
 勿論、晴信も不安である。

 放送での発言者は、新宰相であるアンゲラーに替わった。

『各惑星における臣民には安心して欲しい。すぐに各惑星に王の代理である執行官を派遣する!』

 どうやら拘禁された貴族たちの所領には、王のもとから代官が派遣されてくるらしい。

「嫌だなぁ……」

 事業体【ミハタ】を経営する晴信としては、新しい統治者である執行官に挨拶するのが億劫だった。

「仕方ないですよ。ご機嫌くらいはとらないと」

 機械油を飲みながらディーがそう言う。
 賄賂をわたせという訳ではないが、新しい行政官とパイプを作るのは事業者としては必須の事案であった。



☆★☆★☆

 新王の命令は素直には通らなかった。

 貴族達の自治領である各惑星には、主の貴族達がいなくても新王の支配に抗する勢力が多数出没。
 それを鎮圧しようとする治安当局との間に争いがおこり、内戦を思わせるような混乱があちらこちらに起こった。

 それは、晴信が事業展開する惑星コローナにおいても例外ではなく、一気に治安状態が悪くなり、人々が出歩くのを避けるようになっていた。


――新王の即位の一週間後。
 晴信のもとへ、カンスケがやって来た。

「社長! お客様をお連れしました」

「……はぁい」

 晴信は嫌々返事をする。
 多分新しい王の関係者であろうと晴信は思った。

 とても面倒くさく億劫であった。
 晴信は嫌々ながらに応接間に顔を出した。


「飯富社長、初めまして」

「……は、初めまして。どうぞお座りください」

 晴信は応接間にて、挨拶をしてきた相手に戸惑った。
 それは小さな女の子だったのだ。
 女の子と言っても人間ではなく、猫のような獣人の姿である。

 一体何用だろうか。
 カンスケがわざわざ連れてきたのだから、ただの女の子ではあるまい。
 晴信の頭はぐるぐると思案が巡る。


「無礼者!」

 晴信が椅子に座ろうとすると、小さな女の子に付く侍女のような女性に怒られた。

「このお方は、先々代の王の孫。ブリュンヒルデ様でございますよ!」

「ぇ!? それは失礼いたしました。私、この惑星で事業を営んでいる飯富と申します」

 晴信は慌てて身を但し、敬意をもって応じた。


「構わなくてよ、晴信様。どうぞお掛けになって」

 ……は、晴信様?
 王族に『様』扱いされて、ますます晴信は訳が分からなくなった。


「ところで晴信様は、この世界から戦乱を無くしたいと思ってらっしゃるというのは本当ですか?」

「ああ、ええまぁ、理想論かもしれませんが……」

「では、それには何が必要だとお思いですか?」

 王族の姫は興味深そうに聞いてきた。

「力ですかね?」

「それは大切ですわ。でも、力だけで大丈夫でしょうか?」

「う~ん」

 晴信は目線を天井にあげて悩んだ。
 かといって天井に答えが書いてあるわけでもない。

「わかりません」

 正直に晴信が答えると、王族の姫が言葉をつづけた。

「それはですね、大義名分でございますわ!」

「大義名分!? 確かに私にはそれはありませんね!」

 晴信は納得と言うように言葉を返した。

「……で、わたくしには力がありません。そして、晴信様には『大義名分』がありません。ですから、お互いに組むことにメリットがあると思うのです」

「……な、なるほど」

 晴信に力がそれほどあるわけでもないが、この混乱時に王族の姫に力がなさそうなのは事実だと思われた。

「……で、ですね」

 カンスケが突然口を挟んでくる。

「お二人に政略結婚していただこうかと……」

 カンスケはそう言い、ニンマリと笑ったが、晴信はあいた口がふさがらなかった……。
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