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~南方編~
第百話……SA・ピエンス【最終話】
しおりを挟む「なぜそこまでするブヒ!?」
ハンスロルの戦いの前、モロゾフが立てた作戦は相手を完膚なきまでに叩くためのものであった。
「この地域の民は利に聡い。我等が不利と見るやいつ裏切るとも限りませぬ。よって心を獲る戦いをせねばならぬのです」
図面には戦う前から、勝利したあとに如何に徹底的に追撃するかが検討されていたのだ。
「ここまでする必要があるブヒ?」
ブタにはモロゾフの真意がわからず首をかしげる。
「そうお思いになるのが人の道、君主の道です。ですからこの戦いの指揮は殿ではなく私が執るのです」
ブタが寝た後もモロゾフは作戦立案に励み、人生最後の睡眠をとることはなかった。
――戦後、ブタのもとへは近隣在地領主が次々に恭順の意を伝えに来た。
モロゾフの読み通り、アーベルムが誇る親衛隊や勇者オーキンレック男爵を正面から散々に打ち破ったことは大きかった。策を弄して勝ってもこれほどの成果は無かったであろう。
敗報はアーベルム全体に伝播し、これを機に情勢は一気にリエンツォ議長に不利になっていった。
その後、シルベストレ山岳辺境伯爵の元に身を潜めていたメンデム将軍が、行方不明と言われていたネーメロを推し立てて突如挙兵。
「クーデターを起こし、アーベルムの議会を蔑ろにしたリエンツォを討て!!」
これに賛同したシルベストレ山岳辺境伯爵をはじめ、おおくのアーベルム西部諸侯がメンデム将軍に従い連合軍を結成し、一路アーベルムの都ピエンスに迫った。
ブタはリーリヤにザムエルやヴェロヴェマなどの精鋭部隊を付け、メンデム将軍の元へ送る。
その後ブタは僅かな手勢を引き連れ、北から来たハリコフ王国からの援軍【王国混成第六師団】と合流。彼らとともにボルドーが立ても籠るハンスロルに入城する。
そこへ起死回生の戦況挽回を狙うリエンツォがアーベルム東部諸侯を引き連れ、北部諸侯と合流し一時はハンスロルの城の占領に成功する。
この時のハリコフ王国軍は信じられないくらい弱く、【王国混成第六師団】はほとんど戦わずに城を捨てて逃走し、後詰に来ていた【王国第五師団】は有利な高地から一歩も動かなかった。
【よろしければ、この場面はプロローグ①を御参照ください】
しかし、アーベルム港湾自治都市の首都ピエンスがメンデム将軍たちに降伏したことを知ると、リエンツォに従っていた貴族たちは次々にメンデム将軍に降伏。身の危険を察したリエンツォはどこかへ逃走した。
――この一か月後。
ブタはボルドーと共に首都ピエンスに入城。民衆より歓迎を受けた。
このころのハリコフ王国は内戦で財政がひっ迫しており、優良な外貨を求めていた。それに際し、ボルドーは属州ハンスロルをアーベルムに返還するのと引き換えに、アーベルム正金貨50万枚の譲渡と正金貨100万枚分の借款を取り付けた。
しかし、お金がない理由で領地を返還するのは格好が悪いため、ボルドーがブタに土地を引き渡し、ブタがアーベルムから受け取った金貨をボルドーに引き渡すという形をとった。
首都ピエンスにて、アーベルムの民衆の前で、ブタとボルドーによるハンスロルの地の返還約定が交わされた。
「ブヒ!?」
ブタがうっかりサインをする場所を間違えて温かい失笑を買ったが、ここに【ハンスロルの和約】が成立し、ハリコフ王国とアーベルム港湾自治都市は相互不可侵を誓った。
この政治的成果を背景に、ボルドーは予定通り王女レオンティーヌと結婚。王族となり宰相補宮中伯にまで任じられるが、突如『皆が幸せに暮らせる王国の建設』を掲げ【ハリコフ正統王国】を樹立し自らが王位に就く。未だ王位を誰にするか暗闘していた王都の貴族たちに激震が走った。
一方。港湾自治都市アーベルムのネーメロ議長は、今回の混乱の責任をとり国家元首たる議長職を辞した。
その後の選挙で議長に当選したのは、なんと今回の件で人気沸騰中のリーリヤだった。アーベルム史上最速の議長就任、若干6歳。
流石にマズイということで、ネーメロが議長代行となり実質的な政務を執り行うことになる。
――秋の収穫祭が終わり。
年が明けて1月。
「汝、ブルー・アイスマンは貧しいときも病める時もリーリヤを助けると誓うか?」
「誓うブヒ!」
アーベルムの大会議場には、酒の匂いが抜けないブタ領の面々も駆け付けていた。
「よろしい。我がアーベルム最高議会は汝をリーリヤ・ピエンスの夫として認める。明日からは、ブルー・ピエンスと名乗られるがよかろう!」
――万雷の拍手の下、人前式は閉幕した。
……(´・ω・`)
でね、ブルー君はね、ネーメロさん家の婿養子になったポコよ。
なんだか由緒正しいピエンス家だっけ?
それからね、ブルー君にはSAって称号を貰えたみたいポコ。
SAって何かって?
Second・AceかService・Aceだっけ?
分かんないけど、アーベルム復活の縁の下の力持ちって聞いたと思うポコ。
ぇ? 今のブルー君?
今日はコッソリお仕事を抜け出して一緒に釣りをしてたポコ。
久しぶりに今、丸太小屋でウサと3匹で仲良く寝てるポコよ。
なんだか懐かしくて、ちょっぴり嬉しいポコ。
「むにゃむにゃ……、母ちゃん、拙者はそんなにトンカツ食べれないブヒ」
幸せそうな3匹の寝顔を場違いな自販機が優しく見つめていた。
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