97 / 100
~南方編~
第九十七話……激突! ハンスロルの戦い【前編】
しおりを挟む今日の天気は曇り。
トンボが飛ぶ。木漏れ日が暑い。
「との! 家宰どのがお呼びですぞ」
「今行くブヒ」
アーデルハイトに言われ、釣り竿を片付けたブタはニャッポ村の会議室へ出向くことになった。
ブタはニャッポ村までの道を、牛の【月影】のひく荷台に揺られのんびりと進む。荷台から見る景色には蒼く光る稲が奇麗に風に揺れていた。
――ニャッポ村の会議室。
ガヤガヤとうるさく、中には葡萄酒をあおる者までいる始末。
「静かにせんか!!」
議長である老騎士が度々キレる。そもそもブタ領の幹部たちは、だいたいがモンスターかならず者たちである。会議場は何時も賑やかだった。
「――では、王国領ハンスロルへの援軍を賛成多数により可決致します」
特に反対がないので、いつも次々と案件が通る。皆は議題よりも賭け事に夢中だ。
ボルドーにより援軍を要請された王都は、とりあえずハンスロルに近いブタ達に先に援軍に行ってくれとのことだった。
断れる案件でもなく、派兵が決まり、部隊案が揃う。
【第一陣】指揮官 アイスマン・ブルー
第一部隊・ウサ 300名・混成種族の低級魔法使い。
第二部隊・ポコ 25名・サイクロプス……3~4m級。
第三部隊・アーデルハイト 15名・ブタの警護……ここにグスタフも含まれる。
【第二陣】指揮官 ザムエル
第一部隊・ザムエル直卒 1000名・オーク族。
第二部隊・ヴェロヴェマ 1000名・スケルトン族。
【第三陣】指揮官 モロゾフ
第一部隊・モロゾフ直卒 1000名・トリグラフ帝国からの移民……普段は農民など。
第二部隊・ダース 1000名・トリグラフ帝国からの移民……普段は農民など。
「で……、今回の総大将はリーリヤ殿です」
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ?
「では、今回拙者はリーリヤの部下ブヒ?」
心配そうに老騎士に聞くブタだったが、
「そうです!!」
(´・ω・`) ち~ん。
アガートラムが既に北へ出陣しており、老騎士とンホール司教が留守番と考えると妥当な編成だった。
しかし幼児であるリーリヤが総大将という点だけは、やはり皆が騒々しくなったのだが、
「まっ、いっか」
とブタが了承してしまったので不問になった。
ブタはンホール港の自宅に帰り、飼い犬である【ノンビーリ】をご近所さんへ預けるなど、あわただしく準備をした。
「しんぱ~ちゅ!」
それから二日後、総大将リーリヤの元気な掛け声の下、ブタ達は南進していった。
――王国領ハンスロル。
アーベルムの中央政府より議長代理のヘンシェル伯爵という者が、ボルドー討伐の為に兵士一万名を率いて北上してきた。よってローレンスたちアーベルム北部諸侯はそれに合流し指揮下にはいる。その後、ボルドーが立て籠るハンスロルの城を包囲することになった。
「はやく攻めたてんか!!」
栄華を極める商業都市の伯爵にふさわしく豪華な宝石をちりばめた服を纏うヘンシェルが、ローレンスたちを叱責していた。
「しかし、相手は堀も深くしておりますので……」
現場指揮官の欠員が多いボルドーは、野戦を諦め全力で城を強化していた。素人が一見しても夥しい数の柵が並び、無理に攻めるのは大変そうだった。
「かまわん!! どうせ先頭に立つのはみすぼらしい農兵だろう? 早く兵を進めぬか!!」
ヘンシェル伯爵はアーベルムの国家元首たる最高議長リエンツォの代理であった。ローレンスたちが逆らえる相手ではないのだが、ヘンシェルの部隊はローレンスたちの部隊の遥か後ろの安全な位置に布陣しており戦闘に参加する気配はなかった。
「せめて、ヘンシェル殿の部隊も一緒に城攻めしては頂けまいか?」
ローレンスはそう言い、食い下がったのだが、
「下らぬことを申すな。ここはお前たちの地元だろう? 早く持ち場へ帰って攻撃せよ!! ひょっとして逆らうのか?」
「い……いえ、そういう訳では」
きつそうな性格のヘンシェル伯爵にすごまれたローレンスたちは、トボトボと自陣に帰っていった。
「無理攻めはお味方にも被害がでませぬか?」
ローレンスが帰った後、ヘンシェルの家臣がそう尋ねると、
「ふん、やつらにも摩耗してもらわねばの。あやつ等は状況次第でまた裏切るであろうしの」
ヘンシェルは苦虫を噛み潰したようにそうつぶやいた。
しかしその後、兵を失いたくないローレンス達のやる気のない城攻めが続く。さりとてヘンシェルも堅城の様相を見せる城へ近づきたくもなく、全く進展がないまま10日が過ぎた。
「敵の援軍が参りました! 兵数およそ4500」
駆けこんできた伝令が、幕舎の中で寛ぐヘンシェルに告げた。敵の援軍とはブタ達のことであった。
「ふふふ、小賢しい。そのような寡兵で何ができようものか!?」
……この時点で。
【ハリコフ王国側】
ボルドー上級伯爵 ……約3000名(城に籠城中)
アイスマン辺境蛮族子爵 ……約4500名
【アーベルム辺境自治都市政府側】
ヘンシェル伯爵 ……約一万名
ローレンス辺境伯爵 ……約8000名 (城を包囲中)
ヘンシェルは難しい城攻めをローレンス達に任せ、自分たちは半数以下のブタ達を野戦で撃退することにした。
その後、ブタとヘンシェルは近くを流れる川を挟んで対陣した。
どちらも川を渡るほうが不利を悟っており、睨みあいになった。
しばらくして、ブタ側から小部隊が川の手間まで前進してきた。
そこから口に大きな漏斗を手にして騒ぐ男がいた。モロゾフである。
「我々は、正統なアーベルム国家元首リーリヤ様を擁する軍である。リーリヤ様の後ろ立てはトリグラフ帝国の先代皇帝トリグラフ2世である。その証拠にトリグラフ帝国の子爵であるブルー・アイスマン殿もご臨席である!!」
「は……はじめまして」
ブタがゆっくり歩み出て、手を振り挨拶をする。
彼にとっては学校の学級会以来の恥ずかしさだったが、
「あの小賢しいブタを撃て!」
「ブヒ~!?」
対岸から矢が飛んできて、ブタは逃げることになったが、リーリヤがアーベルムの前国家主席であるメーメロ議長の娘だということはアーベルムの貴族なら誰でも知っていた。
現国家主席のリエンツォは、クーデターによる首班就任のため正統性が弱かった。意外な場面でそれを突かれた形となったヘンシェル伯爵は対応を迫られる形となったのである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる