SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第九十五話……奇襲失敗!?

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「人は見たいものを見、信じたいものを信じるものだ」

――偉大なるローマのスケベなハゲ。







 日が昇る。

 我々は敵地に取り残された。

 愛馬は傷ついたため、泣く泣く放棄。

 私の足はどうやら折れており、同僚たちも一様に怪我をしていた。



 草原に伏せる。

 周囲に遮蔽物がないため、敵が我々を探しているのがはっきり見える。





「み……みず」



 追手の矢を背中に受けた重篤な友に水を含ませた。

 水も欲しい。

 しかし、敗残兵が水を求めて川に出てくるのを、敵は手ぐすね引いて待ち構えているだろう。





 再び日が暮れる。

 敵兵も一旦帰ったようだ。

 我々は何としても敬愛する主人の下へと逃げ帰らねばならない。



 郷里を同じくする同僚と剣を杖とし、老人のように北へ北へと歩く。

 草の道を歩く我々の足取りはとても重い。



 明かりが見える。人家の様だ。

 我々は皆疲れ傷つき、そして腹が減っている。

 そして明日糧食にありつけるという保証はどこにもない。





「静かにしろ!」



 私は輩とともに剣を片手に人家を襲った。

 中には怯える老夫婦。



「食料はどこだ!?」



 震えあがる老婦人が指さした先の食料を奪った。





 我々は今まで自分を誇り高い騎士だと思ってきた。

 領民に慕われ、自らを誇りに思ったものだ。

 弱者から収奪する奴等はクズだと常々得意げに吹聴していたものだ。



 しかし、今日の我々の所業はそのクズそのものだ。

 老夫婦が大切にしていたであろう鳥を締め上げ、貴重な卵も頂いた。

 いや、奪ったのだ。





 そのあと、我々は火をたいた。

 初夏であるが、夜風は肌寒く、重傷者は『寒い』と震え出すのだ。

 そもそも、炎なしには夜間にオオカミや化け物どもから身を守ることは出来ない。





――しかし運命の時は来る。



 ピー。



 高らかに鳴る笛の音。落武者狩りだ。

 やはり火をたいたのは不味かったのだろうか?





 我々は籠の中に一匹だけとっておいた伝書鳩に、この現状を記した書簡を持たせはばたかせた。





 わが主、領主様は無事に奇襲に成功したのであろうか?

 包囲を縮めてくるであろう追手に、我々は再び剣を握りしめた。







――

「お食事でございます」



 ボルドーはこの日も朝食に手が付かなかった。

 テーブルの上の野菜スープが冷える。





 先日、彼は華々しい奇襲に成功したかに見えた。

 彼はハリコフが定める夜襲距離である通常行軍距離1日分の5割増しの距離から奇襲を敢行した。

 その結果、敵の警戒は緩く夜襲自体は成功したのだが……。



 敵地に付くまでの夜間強行軍で半数が脱落したのだ。

 出撃騎兵600名に対し、戦死3名。帰還兵276名。全体の5割を移動中に損耗するという結果になった。





 少し考えて欲しい。現代日本の我々は今、沢山の灯りの下に暮らしている。

 もし、夜に明かり一つない真夜中のアフリカの原野を、全速力で走ったらどうなるだろう?

 石につまずいたり、窪地に足を取られ捻挫するかもしれない。

 さらに、そのような条件で馬に跨り鞭を打ち、疾駆したならどうなるであろうか?

 不意に落馬でもしたら痛いでは済まない。



 筆者は昔、凄い田舎に住んでいた。夜の山道で濃霧に襲われ、乱反射でヘッドライトが全く役に立たなくなったり、そもそもヘッドライトが故障し、補助灯で漆黒の闇の中を文字通り手探りで徐行したことがある。自転車並みの速度でも事故を起こすだろう。







「……」



「……」



 ボルドーの左隣で朝食をとるコンスタンスにはボルドーの気持ちが手に取るように分かった。

 騎乗する騎士と言えば一般的に領内の有力者や、領主に先代より仕える者たちである。主家からすれば信頼できる親戚も多かった。それは時に領主の学友であり、遊び友達であり、いわゆる竹馬の友だった。

 それを一回の勝利と引き換えに5割も失ったのだ。

 精神的な損失というのが最も大きいが、騎乗する騎士たちは兵力の多数を占める歩兵たちを率いるベテラン下級指揮官である。すぐに補充が出来るものでは到底なかった。

 ちなみに前線の下級指揮官の2割以上を失うと戦線が崩壊するという説もある。



 ボルドーは悔やんだ挙句、一つの結論に達した。自分が小さいころ本で読んだ『先人たちの英雄的奇襲談義には、きっと語られない部分がある』のだろうと。







「これからどうなさいますか?」



 コンスタンスがボルドーの顔を覗き込むように尋ねてきた。ボルドーは周りに心配されるほどの間、俯いて考えていたようである。





「もはや、野戦はできようもない。城にて王都からの援軍を待とう」



「はい。それがよろしいかと……」





 その日、ボルドー上級伯爵は、ハリコフ王国王都ルドミラに援軍を要請する早馬を出した。



 空には未だ暗雲が立ち込めていた。

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