SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第九十二話……ブタ領大会議

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今日の天気は雨。
ここは雨が多い地方だという。




 ポコが山狩りにいそしんでいるとき。ニャッポ村では臨時の会議が開かれていた。ハリコフ王が崩御したのだが、ブタが開発業者に拉致されていたために今まで開けなかったのだ。


「まずは、国王陛下がご崩御された件ですが……」

 議長を務める老騎士が重々しく口を開いた。
 王都ルドミラから遠く離れたこの地だが、やんごとない身分がより力を持つのも中央から離れた地であることが多い。
 政争に敗れた貴族が地方にて力をつけ逆襲に転じる場合も、地方において如何にやんごとない中央の血筋が力を持つのである。


「zzz……」

 重たい議案に静まり返る一同であったが、この茸族であるブタ領内務役ンホール司教の寝息が皆の本音を代弁した。
 いかにやんごとない血筋が地方に影響力があるといっても、それはやはり人間においてだった。ブタ領においてはキノコ族やオーク族など魔族が住民の大半を占めていた。またブタ領の人間族の住民の8割は最近のトリグラフ帝国からの移民であり、彼らはハリコフ王のことなどどうでもよかった。

 この一見重大な議案は、『王都にブタの名前で弔辞をおくる』という無難な線でまとまった。


「え~っと、他に何かある方は?」

 急ぎブタを捜索し、諸将も招集し、会議を開いた老騎士であったが、なんだか空振りに終わった雰囲気が漂っていた。

「あ、意見いいブヒ?」

「ど、どうぞ」

 そもそも領主であるブタが、彼の家宰に発言の許可を求めるという不思議な形となったが、彼は元の世界ではダダの中学生である。

「お馬さんの増産と、騎兵部隊の設立をお願いするブヒ!!」

 ブタは詳細事案をまとめた書類を老騎士にわたした。そこには騎兵のみで構成された部隊の運用と、それを可能にする馬の増産が記されていた。
 この素案は、ブタが先日開発地で馬に追いかけられた経験を契機に、経験豊富なモロゾフやダースに相談をし、かついろいろと調べて作ったものだった。

「お、それは良い考えですな。是非私をその騎兵部隊の部隊長に!!」

 書類を覗き込んだお馬大好きヴェロヴェマが、珍しく他の参加に先んじて意見を述べた。

「いや、某こそが、この騎兵部隊の隊長に!」

「いやいや、俺だろう?」

「いやいや、ワシだ!!」

 雪崩を打ったように、アガートラムの大森林に居する諸将が手を挙げた。

 ハリコフ王国は遊牧民が支配する王朝ではなく、農耕を主体とする国家である。必然的に騎乗兵の割合は低く、総兵力の10%に満たない。そもそも騎乗兵は武術のみならず学問も収める支配階級の常勤エリート兵であった。
 よってそれを一手に引き受ける部隊を指揮したいのは皆同じだった。


「ま、まぁ、皆さま落ち着いて、この案件は次の機会に!!」

 白熱し、盛り上がる諸将を抑えきれないと見た議長である老騎士は、議案を継続審議するという形で流し、この場をやっとのことで落ち着けた。


「この他になにかある方?」

「ブヒ!!」

 ブタがまたもや手を上げる。老騎士はハンカチで汗をぬぐいつつ『またお前か?』みないな不謹慎な眼差しを向けた。

「ぞうぞ」

「ロバを育てるブヒ!!」

 ブタは先日強制労働させられた現場監督の言葉をもとに、いろいろと調べ、ロバを推した。
 しかし、ブタ領軍務役アガートラムが異を唱えた。

「わははは! ロバを育てるだと? 我々オーク族の食料を案じてくださるので?」

 ちなみに、このアガートラムはオーク族の頂点であるハイオーク族族長をも務める大身であった。ブタとは昔に『豚豚同盟』を結んだ盟友といった経緯もあり、また家宰である老騎士の義兄にあたる。
 よってブタ領でのアガートラムの存在は大きく、ぞんざいな態度も目立った。

「あ、食べちゃうんじゃなくて、荷物とかをいろいろ運んでもらうブヒ」

 ブタ領には、ロバは自生していない。ちなみに馬もほとんどいなかった。なぜなら大森林地帯のモンスター達が餌として食べてしまっていたからだ。
 ブタに提出された書類を読んだ老騎士とンホール司教は、ロバの活用に益ありと判断。アガートラムらの反対を押し切って『ロバを食べることを禁止する』法律を策定。議場紛糾の末に可決し、ロバと馬の育成に道を開いた。


「……えと、もう終わりでよろしいか?」

「もうひとつ、いいブヒ?」

 窓の外は日が暮れかかっており、老騎士は『まだあんのかよ!?』みたいな白い眼をブタに突き刺した。が、ブタは残念ながらとても鈍感であった。

「どうぞ……」

「水筒をみんなに持たせるブヒ!!」

 ブタが提案したのは、行軍する兵士に公費で水筒か水入れ袋を持たせることだった。
 これもブタが開発地でのどが渇き、つらい思いをした経験に基づいてのことである。

「賛成!!」
「大賛成!」
「異議なし!!」

 次々におこる賛意にビックリする老騎士だったが、実は皆が水入れに合法的に酒をしのばせることを思いついての賛意であったことが後になって判明した。


「もう、……よろしいか?」

「もひとつ、あるブヒ!!」

Σ( ̄皿 ̄|||) まだあるんかい!?


 今日はなぜか天を衝くほど会議に熱心なブタに、老騎士はへとへとになっていった。
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