SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第八十九話……稀有なる客人

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今日の空は澄み渡る碧。
晴天です。




 ブタはアルサン侯爵と再会を約し笑顔で別れ、ジャムシードの港を後にした。帰路の船上でみな笑顔であるが、今回の戦いは特に厳しかった。皆一様に日焼けし、無精ひげも伸びた。



――しばしの船旅の後。

 ンホール港でブタ達を出迎えた家宰ヘーデルホッヘと軍務役アガートラムは驚いた。なにしろトリグラフ帝国の先の皇帝が、お忍びでエウロパ号に乗っていたのだ。

 当然のように、上帝は領主であるブタより先に堂々と上陸し、出迎えのものたちへ手を振り応える。
 さらに上帝は唖然とするアガートラムの肩をポンと叩く。

「おぬし、ガタイが良いのぉ、励めよ」

「は、はい……」
 蒼き巨躯で鳴らすハイオーク族族長アガートラムは声が上ずる。

「おぬしは、ひげの形が良くない。励め」
 老騎士は慌ててひげを触り確かめる。

 上帝は意気揚々に、出迎えたもの全てにねぎらいの言葉をかけていき、それと同じ数だけの困惑が産まれた。


 その晩にはブタ達の帰還祝いと上帝陛下の歓迎式典を兼ねた。

 ちなみに、この度のアルサン候領での戦いの勲功第一はアーデルハイトであった。
 彼女は前線に出たい気持ちを常に抑え、アルサン侯爵やリーリヤたち非戦闘員の警護に終始務め、そして無事に守り抜いたことが評価された。
 晩餐を前に、ア―デルハイトは上帝より賛辞を贈られ、直筆の感状も頂く。ブタが形式上、上帝の家臣に列されたので、ブタの家臣であるアーデルハイトも一応は上帝陛下の陪臣ということらしい。

 勲功第二位は、モロゾフ。上帝という巨大な救援軍を呼び込みこの戦いを制したのだ。本来なら間違いなく勲功第一であるが、新入りということで周りの嫉妬に配慮し、辞退したと思われた。


 
――その後、沢山のお酒と豪華な食事が運ばれる。

「これは、これは旨いぞ!!」
 上帝陛下が感嘆の声を上げる。もはやブタ領名物のエビフライである。


「もう一個たべて」

「うむ」

 いつのまにか上帝陛下の膝の上にご機嫌でリーリヤがのっている。


「先生! どうぞ!!」

「え?」

 モロゾフのことを毛嫌いしていたアガートラムが一転、モロゾフのことを先生と呼び恭しくお酌をしている。実はオーク族は誇り高い反面、権威にめっぽう弱かった。
 上帝陛下の昔の股肱の臣であったモロゾフは、むさ苦しいハイオークの群れに次々にお酌をされていく。


「俺の酒が飲めねぇってのか?」
 ……(メ´・ω・) ぁん?  (’∀’;) ぃぇぃぇ……。。。
 体が復活して、お酒が美味しくなったザムエルの今後の課題は、宴席での部下へのパワハラの様だ。


ヾ(゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこうさぶひぃ~♪

 久しぶりに楽しく皆とはしゃぐブタ達。


 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) ぱ~ん ☆彡

 残念ながら、誰かがウサにお酒を飲ませたようだった。


 とにもかくにも偉い人が来たので、田舎者であるブタ領の面々ははしゃいだ。
 この日のことをンホール司教は好きな絵にして残している。

 題名は『偉大なる司教とそのしもべたち』であった。



 翌朝、老騎士は上帝のことを内緒にしたかったが、ニャッポ村は田舎ですぐに噂は広まってしまった。


「朕は嬉しいぞ!」

 沿道の村人から親切にされた時の上帝の態度が、いちいち空気が読めていなかったのも原因で耳目を集める。
 やんごとない衣をまとい、自称『朕』である。誰だって道化師かその他の可能性がわかるというものだ。

 ちなみにニャッポ村に伝わる伝奇で、王と記載された人が出てきたら、それはハリコフ王でもなければブタでもなく、異国の上帝であるこの人である。


「ほぉ、ぬしら下種どもはかようなものを食べるのか?」
 市場で不思議そうに野菜を眺める上帝陛下。親しみがある尊大な態度で村民に接する。

「お偉い方、これもいけますぜ!!」

「下種が食べるものは、やはり生臭いのぉ」

 魚屋に心で笑われながら、魚を触る上帝陛下。
 きっと彼は長い人生において食べてきた魚の全体像を、人生の後半である今学んでいるのだ。
 

 彼のような人が市井を眺める場合、やはり馬上であることが常だ。
 しかし時には、

「何をしておるのだ、ブタ殿」

 ブタは貴重なお小遣いである銀貨を落としてしまい、ポコと一緒に荷車の下に入った銀貨の救出活動の最中だった。

「えと……」

 木の枝を片手にもじもじと動揺するブタとタヌキ。
 実はこの後、木の枝を片手に這いつくばり、3人で銀貨救出活動をやってしまうことになった。
 
 もちろん後日、このことは『庶民より目線が低かった稀有な王』とおもしろおかしく描かれた。
 これを見ていて止めなかったのは、ンホール司教であり、一部始終を書き留めたのも彼である。

 
 その三日後、異国の上帝である彼は、ブタ領領民に絶大な人気のまま北国へ船路についた。



 それから一か月後。ブタ領は小麦の刈り入れが終わり、米の直播行っていたころ。


「ご注進! ご注進!」
 ブタ領北端に詰める関所から伝令が駆けこむ。




――ハリコフ王死す。


 ブタ領のみならず、ハリコフ全土に激震が走った。
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