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~南方編~
第八十七話……ザムエル復活
しおりを挟む今日の天気は雨。
だけどみんな体が痒かったので、丁度いい。
アルサン候領は古くはアルサン侯国と呼ばれていた独立国である。アーバン穀倉地帯を制した歴代王朝に自治を許可された形で統治を行っていた。
東方の諸群島を港町ジャムシードが結び長く栄えていた。
時が移り変わり、ハリコフ王国がアーバン穀倉地帯を制した時。ハリコフ王国の準王族の地位と引き換えに、正式にハリコフ王国の侯爵として幕下に入ることとなった。
それはとくに問題はないように思われたが、ハリコフの神聖教会がアルサン候領に教会をたて始めた時にあることが発覚する。
歴代のアルサン侯国の主は、性も名も無く忌み名であるアルサンを名乗る。実はこれが問題発覚の発端だった。実はアルサンとは遠く死霊使い(ネクロマンサー)の子孫だったのだ。
ネクロマンサーを容認できないハリコフ神聖教会は、あろうことか時のアルサン侯爵を公開諮問にかけてしまう。もちろん遠い祖先がネクロマンサーというだけで時のアルサンの主が死霊を使えたわけではなかった。
ハリコフ王家が仲裁に乗り出し事なきを得た形となったが、ハリコフ神聖教会の自尊心は傷ついたため、アルサン候領の家臣たちに信仰の名のもとに当主であるアルサンを蔑むよう教化していったのだ。
それは今にも尾を引いており、軍政長スプールアンスをはじめ現当主のアルサン侯爵に忠誠心の低い家臣が多いのはそのためだった。
世界のすべての統治者がそうであるように、ハリコフ王国とハリコフ神聖教会の関係も微妙である。
それはさておき、そのような家柄であるアルサン侯爵の宝物庫は、侯爵家執事のレオナルドが管理していた。
「ほう、これが伝説の秘薬か?」
晩餐が終わり寛ぐ上帝も興味津々である。
「はい、肉芽の秘薬にございます……」
レオナルドは上帝に小さな壺を見せたあと、ブタに渡した。
「お約束の品です」
「ブヒ」
ブタはポンと蓋をあけ、隣でぼんやりしていたザムエルに内容物である液体を振りかけた。
「あ……徐々に掛けてくださいね」
言うのが遅いブヒ~Σ( ̄皿 ̄|||)
「!?」
謎の液体をかけられたザムエル。
途端、骸骨で形成された体に黒い蒸気が湧き出る。
ジュゥゥゥ……。
黒い気体の中、骨から赤いものが芽吹く。
「痛いですぞぉぉぉ!?」
焼けるような熱がザムエルより湧き出る。
モクモクモク。
黒い蒸気が白色にかわるころには、赤い芽は次々に筋肉を構成し始め、皮膚ができ、体毛が生えそろっていった。
「伯父貴……人間では無かったのですか?」
オーク族のヴェロヴェマが言うのも変だが、ザムエルは人間の躯だと思われていた。が、秘薬により肉体を得たそれは獣人だった。
「おお……、懐かしい我が体。殿、感謝いたしますぞ!!」
上帝も目を見開いて一部始終を見守ったそれは、骸骨戦士ザムエルが獣人戦士ザムエルに蘇った瞬間だった。ザムエルは皆の好奇の視線を他所に、嬉しそうに手を握ったり開いたりして生身の体の感覚を愉しんでいた。
ちなみに、ザムエルはこのあと深夜まで喜び勇んでお酒を沢山飲んだ。
彼は骸骨の体だったときに、飲んだ酒が下にこぼれるのをとても気にしていたのだ。
このため、このブタからのプレゼントに、ザムエルは終生感謝したと伝わっている。
――
「こちらでございます」
ザムエルが楽しくヴェロヴェマたちとお酒を飲んでいるころ。ブタはレオナルドに案内されて、メナド砦の暗い地下室にいた。
その存在を教わり、ついにこの日をブタは迎える。
小さな木製のテーブルに置かれた水晶玉。ブタは齧りつく様に水晶玉を覗き込んだ。
「どうぞごゆっくり」
ブタの後ろでレオナルドはドアを閉め、静かに去る。
「ブルーや元気だったかい?」
ブタが水晶玉の中で目にしたのは、懐かしい彼の祖母の笑顔だった。
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