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~南方編~
第八十五話……メナド砦攻防戦【後編】
しおりを挟む今日の天気は曇り。
大忙しで、天気どころじゃない。
「どうしたブヒ!?」
昼食を摂り終えたブタが伝令兵に尋ねる。
「西側の船着き場のお味方、敵方に降伏の由!! 敵方を先導してこちらに侵攻中!」
Σ( ̄皿 ̄|||) ぶひぃぃい!?
この時、ブタはウサの部隊とともに必死に裏切者たちを押し返すが、砦を守る人員は大きく減り、2500名に満たなくなった。
さらにはコチラの砦の構造を知る者が多く裏切ったのも大きかった。
この日よりブタ達は、より厳しい戦いを余儀なくされつつあった。
――それから十日間、ブタ達2500名は日が昇り始めてから、沈むまで必死に戦いつづけた。
その多くが傷つき、倒れ、また疲弊していった。
休んでは戦い、そしてまた剣を握りしめながらも、その日の糧を必死に腹一杯ほおばった。
「ブヒィィィ……」
ブタは自分のふがいなさに怒った。もっと自分に力があればと。
しかしながら、ブタはモロゾフに鍛えられた成果を実感していた。
疲れ切っているはずなのに体が動く。疲れ切っているはずなのに食事が食べられる。疲れ切っているはずなのに、冷静な判断が出来ていたのであった。
……が、それもあと何日続くだろう、という頃。
――ズズウゥゥウン
天を切り裂くような轟音が響く。
城内で休んでいた傷病兵も飛び起きるような音だった。
音がする方向を皆で見ると、敵船が炎とともに真っ二つに割れていた。
「ブヒ!? 龍殺し?」
ブタは味方の大砲の存在を思い出した。
「我が方の龍殺しは、全弾撃ち尽くしておりますが!?」
近くの衛兵が答える。ブタ勢は龍殺しはもとより、コダイ・リューの大魔法など、ありとあらゆるものを総動員し、そして使い果たしていたのだ。今更残していた奥の手とかあるわけがなかった。
――ズゥゥゥン
また、敵の大型船が破片をバラまきながら大破し、轟音とともに沈んだ。
敵も味方も聞いたことのないような大きな音に驚き、たじろぎながら音のする方向へ目を向けた。
敵の指揮官級が乗る大型船が次々に破壊されると、さすがにメナド砦を固く包囲していた敵船団の陣形も綻び始め、包囲網が瓦解していった。恐怖に逃げまどう船さえ散見された。
「味方!?」
ブタ勢の中で、今回初めての出陣に疲れ切った若者が、希望を込めた言葉をつぶやく。
多数の軍船が現れ、東方反乱軍に襲い掛かっている。
反乱軍は背後から襲われ浮足立っていた。
しかし、包囲網を破って現れた超大型船はハリコフ王国のものではなかった。
大きな帆には、見慣れない双竜の姿が描かれている。
ゆっくりと、そして着実に砦に近づいてきているようだ。
「あれは、トリグラフ帝国の紋章ですぞ!」
遠眼鏡を覗く、ザムエルが教えてくれた。
ブタはザムエルから遠眼鏡を借りて、超大型船を視野に捉えると、甲板にてこちらに向けて親しげに手を振るガッシリとした男が見えた。何かを叫んでいるようだ。
誰だろう? ブタは少し考えたあと、『ああ……』と呟きながら思い出した。
シゴキの鬼、モロゾフだった。
老騎士が強く推薦した老将が助けに駆け付けてくれたのだ。
……嬉しい、とても。
助かった。
ブタはこのとき初めて、モロゾフに対して温かい親近感がわいた。
少なくとも、皆が言う残酷な男は、こんな大海の孤島まで自分たちを助けには来てくれないのだ。
――絶海の孤島を守りきった勇者たちから次々に歓声が沸く。
戦士達の疲れ切った精神に滋養が注ぎ込まれる。
――涙を流しながら、負傷兵を励ます隊長たち。
還れる。そう、絶体絶命からの帰還を喜べる日が、すぐそこまで来ていたのだ。
……その日、ブタのみならず、戦いの鬼ヴェロヴェマの頬にも一筋の涙が光った。
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