SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第八十四話……メナド砦攻防戦【前編】

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今日の天気は晴れ。
だけど、まわりは敵、敵、そして敵。




「炎龍の末裔共よ! 今再び、木霊の輩が百万と押し寄せん! これを皆の万感の勇気をもって薙ぎ払え!!」

「「「オオォー!!!」」」

 城方、3500名がブタの号令に勇ましく応じた。

 今日この日に歴戦の勇士たちを見降せる高台に立つのは、ザムエルでもヴェロヴェマでも無くブタであった。その意気や高く、数で勝る敵を飲み込むほどだったという。



――三日前。
 ブタが老騎士よりの手紙を受け取った翌日、驚愕の報が入る。

 なんと、当方反乱軍に対して作戦行動を行っていたスプールアンス軍政長以下主だったものは皆ジャムシード港に撤退しているとのことだった。
 
 そして、いまだに兵の多くは撤退中のため、アルサン侯爵はメナド砦にて、敵を引き付けて食い止めて欲しいとのことだった。
 家臣が主に対して殿(しんがり)を頼むという前代未聞の方策だった。
 
 この報に際して、アルサン侯爵はその場で倒れ、床に伏せってしまった。
 彼女は以前に前線苦戦の報に際し、麾下の直轄軍5000名のうち4000余名を援軍として派遣していたのだ。
 今、彼女を守る兵は僅か1000名に満たない。



 よってメナド砦に残る兵力は、ブタ勢2500名にアルサン侯爵麾下1000名の総勢3500名のみだった。

 退却すべきか、それとも退却する味方の為に踏みとどまるべきかを議論しているうちに、おおよそ4万の兵員を擁する船団に包囲されてしまったのだ。



 3500対40000

 
 メナド砦には食料も十分で、敵方からすれば早く取り除きたい要衝であり、兵力差を活かした激しい力攻めが予想された。
 ここに壮絶なるブタ達の防御戦が幕を開けるのである。



――
 勇壮に銅鑼や太鼓を打ち鳴らし、旗を靡かせ大船で乗り付けた東方反乱軍は、メナド砦に近づくと小舟に乗り換えてブタ達に迫った。

 崖の上にそびえるメナド砦のブタ達から見ると、黒い蟻のように沢山の者たちが、地鳴りのような声を上げて押し寄せてくる。皆、膝が震えた。

 眼下の敵は小舟で押し寄せるが、浅瀬に乱杭を施してあったために、船を降り腰まで海水に浸りながらも攻め寄せてきた。

「今ブヒ!!」

 ブタの合図で赤い旗が上がる。
 次々に油の入った壺が、次々に海面に叩きつけられ火が付いた。文字通りメナド砦南側一帯は火の海と化した。
 反乱軍とはいえ、多くは普段は農業を営む貧しい者たちだった。
 戦いで手柄を上げれば、愛する家族の暮らしが楽になるはずだった。が、現実は炎の中で腰まで水に浸かったままで身動きが取れず、炎は衣服を伝い顔にまで迫ってきた。
 

 そこはまさに、阿鼻叫喚の世界が繰り広げられる。

 大方の者が、炎に焼かれるのを良しとせず、逃げまどい、味方の船に助けを請うた。が、船に乗る者も炎が怖く、味方を打ち捨て我先に退散した。
 その惨状を見た勇敢なもの数名は、前方に活路を見出し、砦がそびえる断崖を登ろうとした。

「向かってくるものだけブヒ!!」

 ブタの号令一下、登ってくる勇敢なものたちだけに矢が浴びせられる。彼らは無慈悲にハリネズミのような姿になって滑落していった。
 それは以前に、峻険な地に建つバートルム砦の麓の断崖を、先頭を切って登っていたブタそのものの姿だった。
 それゆえ、ブタは逆に攻めてくるものの気持ちが手に取るようにわかり、経験という絶対的なスキルの元、敵の波状攻撃を次々に跳ね返し、尋常ならざる被害を与えていった。

 生れながらに名将はおらず、唯一経験こそが凡庸な人物を、稀有な名将に育てるのである。



――
 比較的斜面の緩く、敵からすれば攻めやすい北側の防備を担当したのはヴェロヴェマだった。
 東方反乱軍は辛くも上陸を果たすも、足元には割れた花瓶の破片が散らばっていた。皆あまり気に留めなかったが、花瓶の破片に紛れて返しのついた釣り針のようなものが盛大に撒かれていたのだった。

「痛い!?」
 
 踏んでも、さして痛くなかったのであるが、それは針に痺れ薬が塗られていたからであり、針が刺さった者が10歩も歩くと次第に足首が動かなくなり、うずくまる者が続出した。

「元気に動いている奴だけ狙え!!」

 ヴェロヴェマの静かで冷たい指示の下、動けている者へ容赦なく矢の雨が降り注いだ。こちらも漏れなく毒矢だった。


 ブタ勢はなぜこれほどまでに毒に精通したか、という疑問がある。それは今回ウサが連れてきた才能が中途半端な魔法使い達や、変わった一芸に秀でた技術者たちの知恵と力の結晶だった。
 それは毒のみならず、抜けにくい矢じりから、燃えにくい板塀まで、多岐にわたる地味な芸当が光った。

 東方反乱軍は、メナド砦に押し寄せるたびに甚大なる被害を出して後退した。砦の東側を担当するザムエルなどは、時に打って出て敵を薙ぎ払うほどの優勢を勝ち得ている。

 このままの勢いでいけば、ブタ達は何十年もこの砦を守れるのではないかと思われる勢いのまま数日がたった。


――が、戦局の変化は、砦の西側で唐突に起こる。

 砦の西側は船着き場を有しており、設備は良かった。よって、アルサン侯爵の兵士1000名に任せられていたのだ。
 しかし、その船着き場で火の手が次々に上がったのである。
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