SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第八十二話……作戦限界の把握

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今日の海は曇り。
通りすがりの漁師がそろそろ嵐が来ると告げてきた。




――
「メンデム将軍が我が方の遊撃部隊を攻撃に向かう様です!!」

「ふむ」

 黄土色の麻でできた幕舎の中で、銀髪蒼眼の男はまるで関心がないといった感じで、優雅に器の中に入ったお茶の匂いをかいでいた。

「ボルドー伯爵殿! 何を悠長なことを! 我が配下の手の者は正規部隊ではありませぬ。メンデム将軍の攻撃を受けてはひとたまりもないのですぞ!」

 豪奢な椅子にて寛ぐボルドー伯爵に対して、アーベルム北部諸侯の一人ジョーンズ男爵は唾を飛ばし、まくし立てる。

「ジョーンズ男爵殿、お茶が冷めますぞ。それに彼らがくるのは後2日はかかるのです」

「なぜですか!?」

 ひげが立派な壮年の男爵の顔は真っ赤だ。

「癖ですよ……」

「クセ、だと??」

 ボルドー伯爵は急かすなといった感じで左手をあげ、お茶を一口口に含み鼻に抜ける香りを愉しみながら説明し始めた。

 メンデム将軍は英才と称えられているわけではないが、兵と民衆にソコソコに人気がある。兵には無理をさせないし、現地の民に対して強制的に徴収することも無い。
 よって入念に食料や飼葉などの補給物資を用意する。輸送用の馬車なども用立て、積み込みも合わせると出立に1日はかかってしまうのだ。
 なおかつ彼は必ず輜重部隊とともに行軍する。補給物資を大切に守るためだ。そのために行軍速度は極めて遅く、且つ測定しやすい。重い荷馬車がどれだけの速度でどれだけの距離を進むかを計算すればいいからだ。
 したがって現在、アーベルムの中央政府管轄の行商人を襲っているジョーンズ男爵の遊撃隊が、いつまでに退避したらいいのかが正確に割り出せていたのだ。


 一通り説明した後、ボルドー伯爵は机の上にお茶の入った上等な陶器の器を置く。彼の器には美しい龍が描かれている。

「尚、もし攻撃を受けても、メンデム将軍は決して補給の届きにくい地まで追撃してきません。私の情報を信じてください」

 すこし営業がかったスマイルで応じ、更に右手を挙げて従卒を呼ぶ。
 そして従卒が手にしてきた地図を机に広げ、丁寧に指で指し示しながらジョーンズ男爵や他の北部諸侯にわかるように説明していった。


 このようにメンデム将軍の用兵は、予想到達時間から作戦範囲までが正確に分かってしまうスタイルだった。民衆や兵卒に優しい用兵ではあったが、それゆえにボルドー伯爵の予想範囲にしか動けておらず、この後も一方的に苦戦を強いられていくのであった。


――政の正道を歩む君主たちが、なぜ将軍や用兵家をもちいるのか。それは戦争そのものが正道ではなく、ときには拙速や詭道を用いるものだったからかもしれない。

 このころの吟遊詩人たちは、用兵や立ち振る舞いも優雅なボルドー伯爵を、サファイアに喩えて歌って周っていた。それを聞いたブタ領の農民たちが『ウチの領主様はどうなんだ?』と問うたところ、『ブタは食えるが宝石は食えぬ』などと皮肉を謳い、好評を博したそうである。




――
 そのころブタ達はというと、遥か東方に位置するメナド島海上砦の防備増設がひと段落していた。
 

 ……しかしである、

「ごはんができまちたよ~♪」
「ごはんできましたウサ~♪」

 こともあろうに、コダイ・リューが近場でエビを大量に採ってきたため、食事は毎日エビフライ地獄が続いていた。
 最初はアルサン侯爵も『おいしいですわ!』と褒めてくれていたが、さすがにリーリヤとウサの特製エビフライ毎日3食コースに怯えるようになっていった。
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