SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第七十八話……老紳士の囁き

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海辺の闇は深い。
まるで夕方の濃い霧が落ちて来たかのように。




「このような偽書は幾らでも作れるわ! 私の目を欺こうなど100年早い!」

 ブタがアルサン侯爵より頂いた親書を政庁の入り口を守る衛士に渡すも信じてもらえない。
 この衛士は品のある銀のアクセサリーをいくつか身に着けていた。
 現代の感覚だとアップル社製の製品を使っているイメージだろうか、出自の良さをどこかに感じさせた。

 そうこう押し問答を続けていると初老の執事めいた紳士が通りかかり、声を掛けてきた。


「リーリヤ様ではありませぬか?」

「「!?」」

 老紳士は腰を低くして応じた。


「ささ、どうぞこちらへ」

 衛士は目を白黒させたが、老紳士は一向に構うそぶりを見せず、リーリヤとそのお供の者たち(?)を政庁内へ案内した。


「ご結婚式以来でありますかな?」
「うん~♪」

 よく磨かれた大理石の廊下を歩く。
 ブタはよく覚えていなかったが、この老紳士はブタ達の結婚式のときにアルサン侯爵に従ってきた部下の一人なのだろうと思った。


「で、アイスマン子爵様はいずこに?」

 ……(´・ω・)(・ω・`)

「こちらにおわします」

 護衛の女騎士であるアーデルハイトがバツが悪そうに、10円ハゲが3つ見える貧相なブタを老紳士に丁寧に紹介した。


「ブ……ブタ、ブタ殿でしたか!?」

 老紳士はしどろもどろになりながら、その場を取り繕うのに精いっぱいな様子に早変わりし、ブタに丁寧に詫びた。
 たぶん結婚式でも内部には入っていなかったのだ、ブタはそう思った。


――コンコン。
 老紳士はある部屋の前で立ち止まり、扉をノックした。

「入れ」

 どこか間の抜けた中年女性の声が中よりして、ブタ達は老紳士に案内されて部屋に入った。
 部屋の中には執務中のアルサン侯爵がおり、眼鏡をかけて机の上の書類に忙しなく目を通していた。すこし間をおいて彼女は目を書類より上げる。


「お? リーリヤちゃん!」
「はい~♪」

 ここでもリーリヤは人気であり、アルサン侯爵は走り寄るリーリヤを抱きかかえた。


「で、アイスマン子爵殿はいずこに!?」

 アルサン侯爵が尋ねると、皆はバツが悪そうにブタへ視線を向けた。

Σ( ̄皿 ̄|||)

「ああ、そうであったな、アイスマン殿はブタであったな。だいぶ時間がたって忘れたのだ、許されよ」

 (;’∀’) まだ、式から三か月も立っていないが……。

 アルサン侯爵は『すまんすまん』といった感じで、舌を少しだし、照れながら笑ってみせた。

 アルサン侯爵の小さな執務室にて皆で楽しく歓談した。
 老紳士がとても上等そうなお茶も出してくれた。

 老紳士が恭しく退出したあと、2時間は皆で喋っていたであろうか。
 再び老紳士がノックをして恭しく入ってきた。


「侯爵様、子爵様、そろそろ作戦会議の時間になります」

 と告げてきた。落ち着いた中年淑女であるアルサン侯爵は控えめに左手を上げて、


「あいわかった」

 と静かに答えた。



――
 アルサン侯爵とブタはすでに席についているアルサン侯爵領諸将の前を通って席に着く。

「くさいくさい、田舎のブタの匂いがする」
「ほんにのう、ブタと同席など先祖に申し訳が立たぬわ」
「アルサン侯爵様も、よもやブタなどの助けがないと戦えぬとは」

 諸将は口々にそういったが、ブタには違和感があった。
 ブタが罵られることはよくあることだが、彼らには彼らの盟主であるアルサン侯爵を馬鹿にしている空気があったのだ。
 アルサン侯爵はハリコフ王国の海将軍であり、その序列は国王と宰相に次ぐ三番目。名誉と序列を重んじる貴族社会から考えれば少し変なことだった。


「まぁまぁ、みなさんそろそろ会議をはじめましょう」

 蒼い髪の中年の男が騒ぐ列席の諸将をなだめた。


「スプールアンス殿が仰るなら、ブタと同席でも」
「まぁ某も、スプールアンス軍政長が仰るなら」

 誰もアルサン侯爵の顔色は窺わないが、この蒼髪の男の言うことには従った。
 どうやらアルサン侯爵領の軍務においては、この蒼髪中年男であるスプールアンス軍政長が実力者のようだった。

 スプールアンスが議長となり、補給兵站、出征規模や東部反乱地域に対する布陣などが次々に決まっていった。

「で、アルサン侯爵様におかれましては、メナド海上群島砦にて我らの補給線を守っていただく」

 ようやく名前が出たと思ったら、前線から遠く離れた小島の防衛にて布陣してほしいとの旨だった。
 おおよそ主人に頼むような場所ではなかった。



「失礼します」

 先ほどの老紳士が諸将にお茶を供しており、ブタの処へもきてお茶のはいった器を静かに置いた。

「ブヒ!?」

 老紳士はブタの耳に何かをささやくと、ブタは突然気色ばんだ。

「せ、拙者もアルサン侯爵とともにメナドに布陣させていただきたく」

 突然に発言するブタ。

「「「!?」」」

 ずっと静かに黙っていたブタの存在を諸将は思い出し、


「そうですな、アイスマン殿はとくに戦力として考えておりませぬゆえ。女子(おなご)の下の世話でもして頂こう」

「「「わはは」」」

 下卑た笑いが会場を一気に占める。
 ブタは収まりが悪そうに頭をかいた。
 女子(おなご)とは彼らの主人であるアルサン侯爵そのものを指していることは明白だった。
 それにむかついたアーデルハイトはブタのお尻を陰で蹴り飛ばした。

「痛いよ」

 ブタは小さくそう呟くと、老紳士から頼まれた事案と、見返りに示された二つの事案に想いを馳せた。




――とくに一つはブタにとってとても大切な懸案事項であった。



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