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~南方編~
第七十七話……港町ジャムシード
しおりを挟む朝焼けの海は美しい。
のちに雨が降ることがわかっていても。
日の出が美しい大海にて、荒々しく波を刻んで走るブタ船団旗艦エウロパ号と僚船群は、海図に印をされていた岩礁を左へ回頭した。
だんだんに整備された入り江が見えてきた。
「殿、海図の通りですと、ここがアルサン侯爵領東端の港町ジャムシードでございますな」
ヴェロヴェマは少し疑った意趣を覗かせた。
彼らは陸戦の勇士であって、海の上はやはり心なしか心配の様だった。ブタは珍しくそれを感じ取り、
「ちゃんと地図はあってるブヒ~♪」
とわざと明るく笑って見せたところ、船倉からザムエルが上がってきて、
「カッカッカ! そうでしょうとも、殿が天国と言えば、そこが地獄であってもそこは天国と思うのが臣と申すもの!」
ザムエルは大いに笑い、そして皆を和ませた。
「流石は伯父貴よの」
ヴェロヴェマは静かに『参った』といった表情でつぶやいた。
彼らに特に縁戚関係はないが、古くからのブタ家臣からザムエルは次第に伯父貴と慕われてきていた。
――接岸後。
「殿、私どもはこれから港湾事務所に行って入港手続きをしてまいります」
そう言ってザムエルとヴェロヴェマはブタ達と別れた。
ここは完全に人間の文化圏なので、骸骨姿のザムエルは鉄仮面に季節外れの厚手のフードといった格好だった。
ブタはジャムシードの政庁が開くまでには少し時間があったので、ウサたちと相談をし、朝の魚河岸を見て歩くことになった。
「いらっしゃい!」
威勢のいい女性の声が響く。
市場は活気にあふれており、とてもこれから戦が行われるような気配ではなかった。
「あ、あの……、このへんの戦とか、どういう情勢ブヒ?」
ブタが若い男の仲買人らしき男に尋ねた。
「戦? ああ、らしいね」
「でもさそれで特に我々の仕事が変わるわけでないしね」
若い男は忙しそうに箱を並べながら答えてくれた。
忙しない若い男が言うには、アルサン侯爵側も反乱勢力側もこの港の重要性は嫌というほどわかっており、とくに反乱勢力側の領主の中には漁業で生計を立てている漁師の親玉みたいな海賊領主もいるとのことだった。
当然、魚を現金化できるこの港の住民に矛は向けにくい。
更にはこの港町ジャムシードより東は、海の中に島がぽつぽつと続いている地勢らしい。
若い男は『忙しいから、またな』とブタに手振り、急いで魚の入った箱を担ぎ、仕事仲間のところへ戻っていった。
「ブヒ!?」
ブタがリーリヤたちの元へ戻ってみると、リーリヤとポコが小さな真珠のアクササリーまみれになっていた。
「ウサちゃんが買ってくれたの~♪」
「ぽこ~♪」
<(`^´)> 喜ぶ二人に、威張るウサギ。
「また来てね~」
真珠アクセサリーを扱う行商人のおばあちゃんが、笑顔で手を振りながら離れていった。
ちなみにウサはブタ領鉱山関連の最高責任者であるので、お小遣い制のブタよりよっぽどお金持ちだった。
「殿、こちらでしたか?」
ブタはリーリヤたちと早めのお昼をジャムシードの出店で食べていると、エーデルハイトがやってきて声を掛けてきた。
なにしろこの港町で二足歩行のブタは、彼女の主しかいない。
とても見つけやすかった。
「ザムエル殿とヴェロヴェマ殿は兵士の野営地を町はずれに造るから、先に政庁へ挨拶に行ってきてほしいとのことであります」
大勢の見知らぬ人達の前なので、報告後に珍しくきちんとした敬礼をする緊張の面持ちのエーデルハイトに少しブタは困惑しながら、
「わかったブヒ」
と短く答え、エーデルハイトも加わり、皆で楽しく食事を続けた。
「まいどあり!」
出店の親父の言葉に笑顔で答えると、ブタ達は町はずれの丘の上にある政庁を目指した。
政庁よりさらに一段高いところには防御用の城塞も見えた。隅部に張り出した石造りの四角い出隅がとても目立つ。
ちなみに防御施設とは高ければ高い処にある方が有用である。
視界としても上からは下が見下ろせるが、下からの逆はほぼない。
現代兵器においてもミサイルは高い処から飛ばした方が射程は長くなるし、レーダーの有効範囲も一般的に広くなる。
いわんや弓矢と投擲が主力の世界ならば、絶対的に有利と言ってもおかしくはなかった。
ブタは趣味でもあるこの後の防塞造りに思いを馳せながら政庁まで登った。
「止まれ!! 怪しいやつ」
政庁の門を見張る衛士の厳しい声が、政庁の敷地へ入ろうとしたブタ達を呼び止める。
護衛のアーデルハイト以外は、ブタとウサギとタヌキと猫と幼女なのだ。
とても『怪しくありません』とはいいがたい一行ではあった。
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