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~南方編~

第七十六話……東国の反乱

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今日の天気は雨。
エビ漁は豊漁で市場はにぎわう。




「こんなやつ、ワシは認めんぞ、義弟よ!」

 ブタ領定例の評定で、老騎士が元トリグラフ帝国の将軍としてモロゾフを紹介したところ、軍務役アガートラムは真っ先に批判した。


「そもそも部下を見捨てる残酷な将軍とか?」
「くわばら、くわばら」

 ブタ領麾下の者でも、老騎士とザムエルとヴェロヴェマ以外は皆、モロゾフに好意的では無かった。
 理由としてはあまり良い噂がないというほかに、よそ者の新参者を排除したい皆の気持ちも否定できなかった。


「わかりました。それでは何か皆様のお役に立てるようなものでもお持ちしましょう、御免」
「ブヒ?」

 そういってモロゾフはブタに一礼すると、会議室の席を立ち、外へ出て行ってしまった。

「あ……」

 老騎士が唖然とするも、

「義弟よ、次の議題は何だ?」

 とアガートラムに催促され、仕方なく次の議題に移ることとなった。
 老騎士はモロゾフの心配をするも、ダースがニコニコしているのをみて少し安心した。


「次はですな、実はアルサン侯爵から援軍のお願いが来ております」

「「「!?」」」

 一同は顔を見合わせた。アルサン侯爵は大身であり、ブタ領とは比べ物にならない国力と伝統を持った貴族家だった。また、領土を密に接しているわけでもない。ブタの婚礼の儀ですこし近しい間柄になったとはいえ、普通に考えれば『なぜ?』といった意見のほうが正しい筋であった。


「ごほん、実はですな……」
 老騎士の説明によると、ハリコフ王国がトリグラフ帝国との戦いで疲弊し、さらにはボルドー伯爵による南方戦線が開始されるのではないかという思惑もあり、王国にはこれ以上の余剰戦力はないとみた東部地域の豪族が一斉蜂起し次々に反乱の火を上げていったとのことだった。

 アルサン侯爵領はハリコフ王国の東の要に位置しており、アルサン侯爵は王都より反乱討伐の命を受けたものの如何せん心もとないとのことだった。


「これについて、どうしたものかと?」

 老騎士はブタ領の軍事の担当であるアガートラムへ話を向けた。


「アルサン侯爵を見捨てることなどできようはずがない! ワシは残酷将軍などとは呼ばれたくないでな、ワッハッハ」

 アガートラムは青い巨体を震わせて豪快に笑った。

「しかしな、ボルドー伯爵が気がかりでな、今回はワシが動かぬ方が良いだろう。ザムエルとヴェロヴェマ、行ってくれるか?」

 アガートラムはすこし体を小さくしたように見せ、頼むといったそぶりを見せたので、ザムエルとヴェロヴェマはニコリとして『承知』と頷いた。ここにブタ領は正式にアルサン侯爵を救援に向かうこととなった。



――
【アルサン侯爵救援部隊第一陣】……不足とみれば追加も検討中。

総大将……ブルー・アイスマン
参軍……アーデルハイト、ダース
実行部隊……ザムエル部隊1000名。ヴェロヴェマ部隊1000名。ウサ部隊500名。

総勢2500余。


 ……(´・ω・`) ウサ部隊!?

 ブタは軍役策定書を読んでびっくりした。ウサ部隊とは聞いたことがないのである。


「こ、これはなんでござる?」

 ブタが老騎士に尋ねたところ、

「ああ、殿がモロゾフ殿にしごかれていた時期に、ウサ様がお暇なので作った部隊だそうですよ。なにやら全員が魔法使いか、又は特技をおもちだそうですよ」

「ブヒ?」
「いやいや、お湯が沸かせるくらいの魔法だとか、多少字が巧い位の特技で入れるそうですよ」

「ブヒ……」




――
「それでは、出航ブヒ!」

 春の日差しを受けて、ンホール港よりブタ勢は船に乗り一路アルサン侯爵領を目指すこととなっていた。

「今回はウサの部隊が拙者を守ってくれるのは本当ブヒ?」

「まかせろウサ!」
「わらわにまかせよ!」
「あたちもがんばりゅ!」

 なんだか見覚えがあるちっこいのが二名混ざっているとブタがよく見ると、猫っぽい虎族のコダイ・リューと、なんともう一人はリーリヤだった。


Σ( ̄皿 ̄|||)

「駄目ブヒ! リーリヤは危ないから帰ってね」
「あたちもみんなと遊びにいぐ~えっぐ」

 リーリヤが泣き出しそうになったので、とりあえずブタは仕方なく連れていくことにした。
 その日は、黒い海から見上げると白い雲が美しく光っていた。




――
「奥方様ぁああ~」

屋敷の方から女官の悲鳴が聞こえた感じがしたブタだった。
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