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~南方編~
第七十五話……北国の儀式
しおりを挟む今日の天気は晴れ。
お日様はときに暑く、蝶は舞った。
「ヴェロヴェマ~♪ お馬さん返してブヒ~♪」
「嫌です!」
きっぱりと断られるものの、ブタはヴェロヴェマに、件の馬を返してもらおうとしていた。
ちなみにヴェロヴェマという男は大の馬好きであり、武具好きであった。
それらの為には家財など簡単に売り払ってしまうほどで、家の人間はたいそう困っていた。
「だって、ヴェロヴェマのとこ、馬だけで18頭もいるブヒ」
「どれも私の妻のような存在なのですよ、殿は私から妻を奪うのですか?」
「ブヒ……」
ブタがとても困った顔をしたのを察したヴェロヴェマは、
「何かあったのですか? そもそも殿は馬なぞお好きではありますまい?」
と問うた。
ブタがヴェロヴェマに事情を話すと、
「断腸の思いですが……」
と、アルサン侯爵から頂いた最も良さそうな馬を返してくれたのである。
……で、現在。
倒れるブタの横で、ダースより事情を聴き、少しは冷静になったモロゾフ。あごひげに指を持っていくと。
「よし、その腰につけている棒での素振り300回で許してやろう!! あと、馬はちゃんとヴェロヴェマとやらに返しておけよ!」
「ブヒ!」
なんとか立ち上がり、ブタは返事をすると、いつもお腰にぶら下げているのヒノキの棒で素振りをはじめた。それをみたポコも近くに落ちていた枝で素振りをし始めたところ、
「そこのタヌキはせんでいい」
「ポコ?」
モロゾフは何日も洗っていなさそうな頭をかくと、
「他人の上に立つというのは、部下の10倍は努力するということだ」
「タヌキが一回素振りをすれば、ブタの素振りを10回増やしてやるぞ」
「ポコォォォ!?」
びっくりするポコにダースが小声でささやく、
「あなたが沢山素振りをすると、ひょっとして謀反の疑いでも掛けられますかね?」
Σ( ̄皿 ̄|||)
さらにびっくりしたポコはお茶を注いでくれたダースと一緒に、おとなしくモロゾフの恐ろしいしごきを見ることとなった。
その日の夕方。
大地にぐったりと大の字で寝転がるブタは歩けそうもなかった。が、ポコは体が小さくブタを背負えない。
仕方なく、ポコはブタの道具入れからロープを取り出し、ブタをグルグル巻きにしてンホール港のそばの倉庫まで苦労して引きずっていった。
さすがに屋敷にこの状態のブタを連れ帰るのも問題と感じたポコは、ブタと二匹で外泊をすると屋敷には伝え、倉庫で休むことにした。
翌朝。
「今日もモロゾフさんちに行くブヒ」
「ポコ?」
帰りのブタの搬送が大変だと悟ったポコは、急いで屋敷より荷車と怪力ロバの月英を連れてきた。
満身創痍のブタとモロゾフの家に行く。
――それから何日も何日もモロゾフのブタへのしごきは続いた。
多分ブタは当初の目的を忘れているんじゃないかとポコは思ったが、意地になっているブタを見て口にはしなかった。
夜間水練が終わった後で、
「ポコ、死にそう……」
ブタはそうポコに言うが、
「しゃべれてるから大丈夫ポコ」
ポコはそういい、怪しげなポーションやらをブタの口へツッコむ。
「まずいブヒ!」
「おい小僧、今何と言った?」
モロゾフがニヤニヤとブタに笑いかける。
「と……とても、おいしかったブヒ」
「よし、元気そうだな! 今夜もガンガン泳ぐぞ!!」
もちろんモロゾフは泳がない。最近は満面の笑顔でブタを見つめるモロゾフの姿がそこにはあった。
――今日も今日とてしごきは続いたある日。
「ポ……ポコ、死にそう」
「しゃべれてるから大丈夫ポコ」
ポコがそういい、あやしげなポーションやらをブタの口へツッコみ、慣れた手つきで飲ませた。
「小僧、これもやろう。いつまでも貴族が腰に棒きっれは寂しかろう」
モロゾフはブタとポコのもとへやってきて、とても重そうな大剣をブタに渡した。
翌日、ブタは珍しく老騎士に呼び出され、久しぶりにニャッポ村の村役場に顔をだした。
老騎士の執務室へポコとともに入ると、
「ブヒ!?」
「ポコ!?」
席についている老騎士の横には、ニヤニヤ笑っているしごきの鬼とその家人がいた。
老騎士は暫し耳をかいたあと、おもむろに顔を上げてほほ笑んだ。
「殿! おめでとうございます」
と告げられ、事情が呑み込めないブタとポコだったが、
「北方の軍人は、そのあるじに剣をまかせると、主従が成立するそうですよ」
と老騎士は告げ、再び穏やかに笑って見せた。
「北国の母なる連山に誓いまして、忠義を尽くしまする」
そう告げ、モロゾフとダースはブタの足元にひざまついた。
こののち、ブタは領内で最も足の速いでっぷり馬の月影をモロゾフに貸し出した。
しかしあまりにグーたらな馬だったために、馬の方からモロゾフの元を逃げ出しブタの元へ逃げ帰ったとのことである。
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