75 / 100
~南方編~
第七十五話……北国の儀式
しおりを挟む今日の天気は晴れ。
お日様はときに暑く、蝶は舞った。
「ヴェロヴェマ~♪ お馬さん返してブヒ~♪」
「嫌です!」
きっぱりと断られるものの、ブタはヴェロヴェマに、件の馬を返してもらおうとしていた。
ちなみにヴェロヴェマという男は大の馬好きであり、武具好きであった。
それらの為には家財など簡単に売り払ってしまうほどで、家の人間はたいそう困っていた。
「だって、ヴェロヴェマのとこ、馬だけで18頭もいるブヒ」
「どれも私の妻のような存在なのですよ、殿は私から妻を奪うのですか?」
「ブヒ……」
ブタがとても困った顔をしたのを察したヴェロヴェマは、
「何かあったのですか? そもそも殿は馬なぞお好きではありますまい?」
と問うた。
ブタがヴェロヴェマに事情を話すと、
「断腸の思いですが……」
と、アルサン侯爵から頂いた最も良さそうな馬を返してくれたのである。
……で、現在。
倒れるブタの横で、ダースより事情を聴き、少しは冷静になったモロゾフ。あごひげに指を持っていくと。
「よし、その腰につけている棒での素振り300回で許してやろう!! あと、馬はちゃんとヴェロヴェマとやらに返しておけよ!」
「ブヒ!」
なんとか立ち上がり、ブタは返事をすると、いつもお腰にぶら下げているのヒノキの棒で素振りをはじめた。それをみたポコも近くに落ちていた枝で素振りをし始めたところ、
「そこのタヌキはせんでいい」
「ポコ?」
モロゾフは何日も洗っていなさそうな頭をかくと、
「他人の上に立つというのは、部下の10倍は努力するということだ」
「タヌキが一回素振りをすれば、ブタの素振りを10回増やしてやるぞ」
「ポコォォォ!?」
びっくりするポコにダースが小声でささやく、
「あなたが沢山素振りをすると、ひょっとして謀反の疑いでも掛けられますかね?」
Σ( ̄皿 ̄|||)
さらにびっくりしたポコはお茶を注いでくれたダースと一緒に、おとなしくモロゾフの恐ろしいしごきを見ることとなった。
その日の夕方。
大地にぐったりと大の字で寝転がるブタは歩けそうもなかった。が、ポコは体が小さくブタを背負えない。
仕方なく、ポコはブタの道具入れからロープを取り出し、ブタをグルグル巻きにしてンホール港のそばの倉庫まで苦労して引きずっていった。
さすがに屋敷にこの状態のブタを連れ帰るのも問題と感じたポコは、ブタと二匹で外泊をすると屋敷には伝え、倉庫で休むことにした。
翌朝。
「今日もモロゾフさんちに行くブヒ」
「ポコ?」
帰りのブタの搬送が大変だと悟ったポコは、急いで屋敷より荷車と怪力ロバの月英を連れてきた。
満身創痍のブタとモロゾフの家に行く。
――それから何日も何日もモロゾフのブタへのしごきは続いた。
多分ブタは当初の目的を忘れているんじゃないかとポコは思ったが、意地になっているブタを見て口にはしなかった。
夜間水練が終わった後で、
「ポコ、死にそう……」
ブタはそうポコに言うが、
「しゃべれてるから大丈夫ポコ」
ポコはそういい、怪しげなポーションやらをブタの口へツッコむ。
「まずいブヒ!」
「おい小僧、今何と言った?」
モロゾフがニヤニヤとブタに笑いかける。
「と……とても、おいしかったブヒ」
「よし、元気そうだな! 今夜もガンガン泳ぐぞ!!」
もちろんモロゾフは泳がない。最近は満面の笑顔でブタを見つめるモロゾフの姿がそこにはあった。
――今日も今日とてしごきは続いたある日。
「ポ……ポコ、死にそう」
「しゃべれてるから大丈夫ポコ」
ポコがそういい、あやしげなポーションやらをブタの口へツッコみ、慣れた手つきで飲ませた。
「小僧、これもやろう。いつまでも貴族が腰に棒きっれは寂しかろう」
モロゾフはブタとポコのもとへやってきて、とても重そうな大剣をブタに渡した。
翌日、ブタは珍しく老騎士に呼び出され、久しぶりにニャッポ村の村役場に顔をだした。
老騎士の執務室へポコとともに入ると、
「ブヒ!?」
「ポコ!?」
席についている老騎士の横には、ニヤニヤ笑っているしごきの鬼とその家人がいた。
老騎士は暫し耳をかいたあと、おもむろに顔を上げてほほ笑んだ。
「殿! おめでとうございます」
と告げられ、事情が呑み込めないブタとポコだったが、
「北方の軍人は、そのあるじに剣をまかせると、主従が成立するそうですよ」
と老騎士は告げ、再び穏やかに笑って見せた。
「北国の母なる連山に誓いまして、忠義を尽くしまする」
そう告げ、モロゾフとダースはブタの足元にひざまついた。
こののち、ブタは領内で最も足の速いでっぷり馬の月影をモロゾフに貸し出した。
しかしあまりにグーたらな馬だったために、馬の方からモロゾフの元を逃げ出しブタの元へ逃げ帰ったとのことである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる