SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~南方編~

第七十一話……外交官戦争

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今日の天気は豪雨。
暗鬱な空の下に荒波が勢いよく湧いていた。


――
 老騎士の執務室の明かりは、今日も蝋燭が一本だけが灯る。


「は?」
「で、あるから、正軍である我らの当地での費用だ! 有難く納めよ!」

 美しい緑に染め上げた軍装の女騎士が老騎士に詰め寄る、彼女はボルドー伯爵の麾下の外務担当の部将で、名をコンスタンスといった。

「し……、しかしいくら何でもこの額は?」

 老騎士はあまりの額の大きさに狼狽していた。ただ、美しい将兵を維持するには、やはりその美しさに見合うだけのコストがかかることは薄々理解していた。


「正規の王軍の行軍に伴う費用は、その土地を収める領主の責任! まさか知らぬわけではありますまい!?」
 
 薄明りしかない執務室で、コンスタンスはその美しい目を見開いて、老騎士に詰め寄る。


「少しお待ちあれ」
 老騎士は横に控えていたトリグラフ帝国出身の若き文官たちに目配せした。


――
 急ぎ作られた文章を見ながら老騎士は慌てた。

「えっと、今年の春の小麦の取れ高が極めて不作でして……」

「家宰様、こちらも」
「家宰さま、こちらもどうぞ」

 文官たちが次々に持ってくる書類に記載された数字をもとに、老騎士はコンスタンスにいちいち説明していった。極めてくどく、そしてまわりくどくに。
 最初は聞き入っていたコンスタンスだが、次第にイラつきはじめ、ついには激高した。


「もうよいわ! 二割割り引いてやる! それ以上はまかりならんぞ!」

 老騎士は資料の水面からゆっくりと目を上げると、

「承知」

 と静かに告げた。

 コンスタンスがニャッポ村役場をから出ていくのを確認すると、老騎士は若き文官たちにサムズアップして見せ、彼らを慰安するべく夜のニャッポ村の酒場へ消えていった。


――消し忘れた蝋燭の炎は、求愛しに来た蛾の体を焼き尽くし、自身も暗闇として消えた。




――
 ブタ領の会計は老騎士が作成している。
 作成した帳簿を、ブタがろくに見ずサインや判を押す形だった。

 ……が、ブタにクローディス商会の技師モイスチャー博士が家庭教師につくと一変した。
 ブタは知識が多少つくと、きちんと監査し始めたのだ。
 ブタは目ざとく老騎士の失策を次々に見つけ、そのたびに月のお小遣いの増額を要求した。

 その後、モイスチャー技師は忙しくなった為に、ブタの家庭教師の任を離れたが、老騎士はとても安堵したという。

――ちなみにブタは終生お小遣い制だったと言われている。


 さて、ブタのお小遣いがどこへ消えるかと言うと、巨人族の大食漢ビットマンのお腹の中である。彼のお腹が減ると、その要請はポコを通してブタへ、そして老騎士へと波及していったのだった。

 しかしながら、巨人族ビットマンのお陰で街道が整備され、鉄鉱山開発も軌道に乗っていった。整備された街道を通して運ばれた鉱石はンホール港近郊の工場へ運ばれ、次々に頑丈な農具へと姿を変えていった。

 また、この農具は海路を通してアルサン侯爵領へと運ばれ、その代金で良質な小麦を輸入した。
 その上質な小麦は、クローディス商館が経営するパン工場でパンへと加工し、次々に海路を通して米作主力地帯の港湾自治都市アーベルムへと輸出されていった。


「パンと言えばアイスマン領」
「アイスマン領と言えば良質小麦の産地」

 と、アーベルムではもてはやされたが、ブタ領ではまだ上質な小麦の栽培は技術的にも不可能であり、アルサン侯爵領の上質小麦はブタ領を通して遥か南方での評価を高めていった。



 そんなブタ領の活況を、小高い丘の上でボルドー伯爵はぼんやりと眺めていた。


「ふふふ……ブタ子爵め、なかなかやりおるわ」

 伯爵は名残惜しそうに振り返ると、純白の愛馬と、そして麾下の部隊たちへ合図をおくり、南方域めざして大森林地帯へと進発していった。


 ……この後、ボルドー伯爵とアイスマン子爵は因縁の間柄になっていくのではあるが、今の彼らはそのことを知る由もなかった。




――

「やた~♪」
 リーリヤは女官の言いつけも聞かず、今日もブタ達と魚釣りである。

 仕掛けていたカニ籠も、次々に引き上げ中を覗く。

「大漁ブヒ~♪」

 ポコが元気なガザミに指を挟まれるトラブルはあったが、ウサが極めて早く復讐し今日も彼らはある意味絶好調だった。しかし、


「この方々は、毎日何をやっているのだ!」

 護衛長の女騎士アーデルハイトは憤っていた。

「昨日は潮干狩りで、一昨日はサケ釣り。その前は海獣狩り」

 彼女はとても退屈していた。


 ……が、翌日。

「やったぞぉ~!!」
 今日のアーデルハイトは蒸気帆船エウロパ号の人だった。

 護衛の任をかなぐり捨て、得意の弓術で小型の海獣を次々に仕留めた。
 この種の海獣は毛皮が高く売れ、肉も脂身が多いが、塩漬けに加工するとおいしく食べられるものだった。

 彼女の自慢の武術のお陰で、甲板上は仕留めた海獣で雑踏としていた。
 運ぶシーオーク達が可哀そうなくらいに。


「殿! ご覧あれ!!」

 今度はンホール司教も認めた槍術で、中型の海獣を一匹仕留めた。が、


「釣れたブヒィィ!!」
「負けないポコ!」

「ぬぅぅぅ~今日の殿の関心事はシマアジ殿かぁ!?」


――女騎士アーデルハイト。
 彼女も段々とブタ達の文化に毒されつつあった。

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