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~友愛編~

第六十七話……怪宴と子犬

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天気は曇りだけど、こころは晴れ。
そんな日もあってもいいよね。




――
「今度、通商協定でも如何ですか?」
「よ! よろこんで!」

 アルサン侯爵に尋ねられたブタが答える前に、熱心に聞き耳を立てていた老騎士が思わず返事をしてしまった。

 赤くなる老騎士。
 居並ぶ列席者は大いに笑った。


 ちなみに、このアルサン侯爵が親しくブタに盃を勧める場面は、ンホール司教のお抱え絵師によって描かれ、現在も邪教の館に大きく展示されている。

 ちなみにこの絵は、老騎士に言わせると『やたら額がデカいだけ』とのことだが。


「ああ、そうそう……、つまらないものですが」
 アルサン侯爵は持ってきた祝いの品を紹介した。

「ぶひぃ?」
「わ~い」

 リーリヤは素直に喜んだが、ブタは凹んだ。お返しが大変だからだ。


 ……次々に読まれる祝いの品の目録。
 目の前に紹介される美しい生地や、珍しい香料。見たことも無い宝石やら珊瑚も並んだ。

 お祝いの宝剣やら名馬などは、屋外に置かれた。


「ほ……ほう、これは見事な」
 刀剣好きのザムエルは、ブタ達のことを放り出し、宝剣の刀身を眺め、感嘆のため息をつく。

「こ……、この馬は」
 精悍な名馬たちに、目をハートマークにしたヴェロヴェマは、次々に勝手に馬を試し乗りしはじめていた。

 老騎士も『通商協定』という祝いの品に目がくらみ、アルサン侯爵のお抱え文官たちとどこかへ消えていった。


 お祝いの品に老臣(おとな)たちの目が眩むと、他の者たちのボルテージは一気に上がる。


「うるさいのがいなくなったぞ~」
「「「いやっほ~♪」」」

 ガンガンと鈍い木製の盃がぶつかり合う音が響き、怪炎のごとく披露宴は盛り上げる。


「さあさ~皆様方~お替わりの葡萄酒もお料理もたくさんありましてよ!!」

――宴席の真ん中で、アルサン侯爵はもはや主人公だった。


 ちなみに、この披露宴は後世に『アルサン侯爵の晩さん』と語り継がれ、リーリヤが終生不満に思っていたという。


 またこの日、ブタとリーリヤはモイスチャー技師が試作設計した800mのレールの上を、4頭立ての青銅製軌道車輪式装甲馬車にて村内をパレードした。

 祝う領民から次々に花々が投げ込まれ、軌道設備の開設も併せて盛大に祝われた。


 こののち、軌道馬車はニャッポ村からンホール港まで延伸。魚介などの資源を大量に運ぶルートを確立していった。




――数日後。

「わんわん」

 アルサン侯爵がリーリヤ個人にくれたもの、それは可愛い子犬。

 この時代、訓練された犬は家畜を狼からまもり、農作物からの獣害も減らした。また、狩りや戦においても八面六臂の大活躍をする犬までいた。

 それゆえ犬は、騎士などの武家にはなくてはならない重要な資産でもあったのだ。


 ……が、

「犬さん、お~き~て~よ」
リーリヤが毎朝イラつく。

 この犬はブタ家に来てからというもの、早寝遅起きを毎日満喫し、飼い主のリーリヤに『ノンビーリ』と名付けられることとなる。




――つかの間の平和。
 そう……、いつの世も平和はつかの間である。

 再びブタ領へ、猛々しくも勇ましい兵馬の足音が近づいていた。
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