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~友愛編~
第六十六話……【モロゾフ将軍記⑧】 ──冬は去る──
しおりを挟む春の足音に冬は去る。
王国の強兵も北国を去る。
「……馬鹿な!?」
「皇帝陛下の御為よ……」
トリグラフ帝国とハリコフ王国は停戦協議を進めていた。
王国が提示した前提条件には、味方兵士にも無慈悲だった戦争犯罪人『モロゾフ』の公職追放があった。
それさえ飲めば、対等な講和条件が帝国に提示されていたため、モロゾフ将軍は即時に追放処分となった……。
――
順次段階的な交渉が進められていくが、それは勇敢な兵たちではなく、理知的な文官の主役たる戦場に移行していった。
「将軍、名残惜しいですが……行きますか?」
「……あまりいい思い出も無いし、名残惜しくはないかな?」
そうにこやかに元将軍は親友の元司令に言葉を返し、雪解けの帝国領を去っていった。
――
「ぶひぶひ」
相変わらずブタ族の住民が多いニャッポ村では、村を挙げてのお祝いムードだった。
なにしろ、初代領主さまの結婚式である。
道には出店が立ち並び、美味しい匂いが立ち込め、酒臭い住民でごった返した。
厳しい冬が抜けたのも大きかった。
村はずれの畑には、黄金色の麦が収穫を待ちわびていた。
邪教の館別館で式を挙げた後。
村の最も大きな旅館を貸し切り盛大に披露宴が行われた。
披露宴の主役は、きれいに着飾り楽しそうなリーリヤと、大変緊張の面持ちのブタ。
見た目はまさにブタに真珠だった。
彼らの二人の後ろには、二代目の護衛隊長に抜擢されたンホール教騎士団団長を兼務するアーデルハイトが目を光らせる。
貴賓席上席には、ハロルド王太子代理キッシンジャー伯爵と、港湾自治都市アーベルム最高議会議長代理マイヤー外相。
二人は、この場で目の前の相手を厳しく牽制し合った。
キッシンジャー伯爵は王太子の側近で、実は反ドロー派だった。
このころになると、王太子の地位は確立されてきており、後ろ盾の大身ドロー公爵と側近達は水面下で争うようになっていた。
当然にブタ達の結婚式でも、自分たちの権勢の絶好のアピール場であったのだ。
……しかし。
「はい、リーリヤ様。ジュースですよ~♪」
「ありがと~♪」
Σ( ̄□ ̄|||)
「リ……リーリヤ様ですと!?」
キッシンジャー伯爵は目を剥いた。
幼い主人公たちにジュースを給仕している中年の女性は、名をアルサン侯爵という。
そう、大身の侯爵様が、所詮は田舎子爵夫婦に、甲斐甲斐しくお酌をしているのだ。
特に、アルサン侯爵の出席を知らされていなかったキッシンジャー伯爵は目を白黒させていた。
「はぃ~新郎様の一気飲み~♪」
「ぶひぃぃぃ!?」
政争に明け暮れる披露宴になると思っていた老騎士は胸をなでおろし、隣の席の義兄であるアガートラムと再び乾杯をした。
「ぶひぃぶひぃもう飲めないぶひぃ」
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