SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~

黒鯛の刺身♪

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~友愛編~

第六十四話……【モロゾフ将軍記⑥】 ──新月の疲弊攻防戦──

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如何なる戦士も心が砕けるとただの人となる。

如何なる時も心が砕けぬ人を皆は勇者と称える。

(古の大魔法使いサマミ・フツザワ)




──ズズズゥゥゥーン
 スメルズ男爵は仕方なく兵糧攻めをあきらめ、攻勢に取り掛かった。
 まずはボロンフ辺境伯爵を通して王都に大金を献じ、広範囲大魔法を使える魔法使いを招聘した。

 広範囲大魔法とは、大変に詠唱時間がかかるものである。
 しかしながら今回の相手は城の中でじっとしているので、いくら詠唱に時間がかかっても問題はなかった。
 ちなみに、この広範囲大魔法と定義される類の魔法は意外と威力がない。
 相手の敷設している防御結界魔法のせいもあるが、さほどの打撃力はないのだ。
 もし大打撃の与えられる広範囲大魔法が使える大魔法使いが存在するなら、世界は彼に膝まづき、広く民衆に平和が届けられるはずであった。

 まぁ……偉大な魔法使いが真の平和主義者であるという前提であるが。


 スメルズ男爵の狙いは大魔法が奏でる大きな音にあった。
 威力はともかくとして、轟音が鳴り響けば、相手は眠ることが出来ず疲弊する。そうすれば早晩降伏だろうとの思惑だった。
 更には、投石器やバリスタなども製作出来次第次々に前線に投入された。ありとあらゆる物量が、この小さな帝国第113要塞に殺到していったのだった。




──
「ダース司令!どこにおられる!?」
 疲労困憊でひきつった顔の中年の下級指揮官が、城の地下にある指令室に入ってきた。
 彼は部屋の扉を開けるなりびっくりする。
 彼の上司であるダース司令は椅子にくつろぎ寝息をたてていたのだ。その安らかなる寝息は逆に中年指揮官を激高させた。

「なぜ寝てるんだ!?」
 ダース司令は、中年の下級指揮官に胸倉をつかまれ、揺り起こされた。

「ん? もう夜かね?」
「まだ昼だ! この腐れ司令官め!!」
 指令室から聞こえる怒声に驚いた衛士たちが駆け付け、中年指揮官は取り押さえられた。

「彼に休息を取らせなさい」
 ダース司令は傍にいた魔法使いに、睡眠魔法を掛けるように命じた。


──その晩。
 城の地下室でたっぷりと休息を取っていた100名の者を引き連れ、ダース司令は夜分に静かに城を出た。

 なにも轟音に迷惑しているのは城方だけではなかった。
 スメルズ男爵は、日ごろから夜襲に気を付けるよう厳命していた。が、疲労とえん戦気分の部下たちには説得力が乏しかった。
 人は概ね感情で動く動物である。感情を支配しきれる人間はもはや神に近い存在言っても差し支えない存在かも知れない。
 もはやスメルズ男爵の前線哨戒部隊は、幕舎で酒を飲み、博打にうつつを抜かしている体たらくだった。

 頃合いよくダース司令は、攻撃側の哨戒網を次々に突破。
 彼ら100名は今日のような新月の夜に備えた漆黒の防寒着に身を包んでいた。

 彼らは音をたてず、より深く進入を果たした。
 彼はこの日の作戦を『陰のように、影のように……』と教示していたと伝わる。
 彼は防御の厚いスメルズ男爵の幕舎をも迂回し、さらに浸透していった。




──翌朝。
 スメルズ男爵は、王都から招へいした広範囲大魔法使いが暗殺されたことを知った。証言によれば、近くの村で色恋沙汰に及んでいたのを殺害されたらしかった。

 男爵はすぐに緘口令を敷いたが、すぐに兵士たちの噂になった。
 更には、敵方ダースにより補給線が襲われたの、右翼総大将ボロンフ辺境伯爵が殺害されただの色々な噂が飛び交った。

 男爵は部下たちの顔をみると、疲労がたまり何もかも諦めたくなった表情を見せていた。日頃の勇壮なそれとはまったく異なっていた。


 その晩、夕飯を食べた兵たちが多数腹痛を訴えた旨の報告を受け、スメルズは敗北を確信した。

 ……毒だった。



──
 ブタたちはリーリヤを伴い、最近ウサが見つけた薄汚れた海岸で潮干狩りをした。

 生き物はとてもきれいなところにはあまり棲まない。むしろあまりにも自然に水が澄んでいた場合は、猛毒を警戒した方が良いと多くの冒険者は語っている。

 近くの崖で、竹のような植物で編んだカニ籠に餌をいれ、海中に仕掛けた。
 仕掛けたそれは、潮干狩りを楽しんだ後に回収し、ブタ達が中を覗くと大きなズワイガニがはいっていた。




 満面の笑顔で丸太小屋に帰ってきたブタ達であったが、鬼のような形相の老騎士が待ち構えていた。

「殿! お話がありまする!!」
 危険を察したウサたちは逃亡。ブタだけが取り残される。

 ……(´・ω・`)

「殿! 皆に内緒で妾をとるとは何事ですか!?」
 老騎士は怒鳴る。

「なんのことブヒ? 落ち着いてほしいブヒ」
 主君であるブタに指摘され、少し落ち着いた老騎士はブタと話をした。


 ……既に村中は『領主さまのお妾』の話で持ちきりだった。
 ブタは懸命に無実を訴えたが、老騎士は『村民の事実と領主の事実は別』と取り合わなかった。


「そ……そうですな! ここは力業で解決いたしますか!?」

 すこし違う方面へ期待したブタだったが、期待は見事に裏切られた。



「10日後に、リーリヤ姫と正式に結婚式ということで」

「ブヒィ!?」
「お嫌かな?」

 ニヤリとした老騎士に、ブタはただひたすらにウンウンと無言で頷き続けたのだった。
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