61 / 100
~友愛編~
第六十一話……【モロゾフ将軍記③】 ──王国参謀本部──
しおりを挟む
今日の天気は晴れ。
澄み渡る空。そろそろ春真っ盛り。
──戦争とはなぜ起きるのか?
よく上げられるのは、思想や利害関係の不一致だが、最も単純な理由は『相手が自分より弱い』からである。
歴史学者……マーチャン・アサイ
ハリコフ王国の北方に位置するトリグラフ帝国は、温暖で広大なアーバン穀倉地帯を持つ王国とは違い、不毛な寒冷地帯が延々と拡がる貧困国である。
おもな産業は、その貧しさに打ち勝つべく人々が鍛えた学問であったり、剣術であったりした。
ブタ領ニャッポ村の官吏たちがそうであるように、有能な学生たちは出自を差別されながらも、諸国の薄給下級官吏として登用されていた。
又、鋼のように鍛えた武人たちも、多くの諸国に精強なる兵士として就職していた。
彼らは得たお金そのものだけでなく、お金を小麦や米、野菜などの漬物、肉や魚の干物に交換して、長期休暇の際に帝国の家族のもとへ持ち帰った。
まさしく帝国の産業と資源は、『人』そのものであった。
だが、帝国自体は食料生産高が限られており、養われる人口も低い水準で推移していた。誰から見ても大国ハリコフに挑むことなど想像もつかなかった。
──が、彼らは、ハリコフ王国に挑んだのである。
当初、ハリコフ王国側としては、帝国は攻略しても旨味のない土地だった。むしろ安い労働力の供給地として見ていた。
しかしここ2年間、ハリコフ王国は不作続きの為、地方貴族と民衆の不満は王都に向いていた。
王都を取り仕切る宰相ドロー公爵は、その活路を外敵に求めた。
が、外敵なら何でもよいというわけでもなく、勝てそうな相手が求められた。まさか勝てない相手に国家の浮沈を賭けるわけにもいかない。
ドロー公爵は周辺事情を幕僚に調べさせ、その矛先をトリグラフ帝国に定めた。
すぐさま、王の最高諮問機関である六公侯会議に諮った。
ハリコフ王国の六公侯会議とは、侯爵以上の6名で行う秘密会議である。が、半分公然の秘密であり、ボロンフ辺境伯爵が侯爵に昇りたいのもこのためである。
……どのような裕福な組織だろうとも、中枢にいなければ旨味はない。と言ったところかもしれない。
六公侯会議は宰相ドローの案を全会一致で可決。
王の追認を受け、秘密裏に王国参謀本部へ通達された。その通達内容は、
『王国へ向けて、トリグラフ帝国が開戦を仕向けるようにせよ。しかる後、必ず勝て!』
……であった。
通達を受けた王国参謀本部はすぐさま作戦素案を作成し始めた。
ハリコフ王国参謀本部とは、軍の作戦統括と立案をする機関である。が、兵士の直接指揮権はなく、勤める参謀たちも貴族の次男以下という編成であった。
規則にも、兵士や領民を従える貴族の参与は許されておらず、あくまでも貴族たちの下につく実務機関に過ぎなかった。
──参謀本部の叡智が大いに試される時だった。
──
「殿! ご出陣の時間ですぞ!!」
家宰の老騎士がゲームで遊ぶブタをせかす。
ブタの好きなことは、【釣り】と【テレビゲーム】と【砂遊び】である。
釣りは最近、虎族のコダイ・リュ-と新たな定置網の開発に繋がった。
テレビゲームは、今のところ何も役に立っていない。
最後の砂遊びは、城つくりに波及していった。
バートルム砦での奪回戦以降、ブタはやたらと【城つくり】に執心した。
いろいろな書物を取り寄せ、絵図面を沢山作りポコと日夜討議した。
港湾自治都市アーベルムに対し大森林地帯の権利確約をとったため、ブタ勢は軍務役アガートラムを中心に大森林地帯の実効支配に移った。
仮に周囲の大領主が決めたとしても、在地領主は反発することは多く、武力による勢力圏の確保は必須だった。
なにしろ大森林の在地領主はモンスター達であり、人間の支配をより好まなかった。
この戦役で、ブタは多くの野戦城や砦を設計し、現場をポコと指揮をした。なにしろ巨人族のビットマンがいたので工事は比較的早かった。
アガートラムは敵を認めるとすぐさま後方のブタに連絡した。ブタ達は予定地に野戦陣地や砦を次々に構築、味方には安全な休息地を確保し、その建築物の数々は在地領主のモンスター達の戦意を砕いた。
砦のない側はいつ襲われるかわからず、体力と精神力を摩耗した。片や砦のある方は十分に休息が出来た。
もはや全く戦いにならなかった。
よって、在地のモンスター達は次々に休戦を申し出て、ブタの旗の下にどんどん臣従していった。
ニャッポ村から来た従軍文官たちが、ヴェロヴェマの指示のもとに彼らの支配地域を定め、徴税額や軍役動員数を記載した羊皮紙を作成した。その後ブタが署名捺印し、直接在地領主であるモンスター達に手渡した。
ここで特筆すべきは、臣従したものにウサ特製の銅剣が下賜された。ちなみに新品の銅は輝きがあり美しいものである。
人間にはあまり珍しいものではなかったが、モンスター達には喜ばれた。なにしろ一応は子爵さまからの特注の頂き物である。
人間から貰うと嫌だったかもしれないが、アイスマン辺境蛮族子爵はブタであった。
──そう、ブタだったのである。
「もう、おうちに帰って【教務員ファイター】したいだござる!」
……その願いは、ザムエルとヴェロヴェマの怖い笑顔によって打ち消された。
ブヒィぃぃ (´・ω・`)
澄み渡る空。そろそろ春真っ盛り。
──戦争とはなぜ起きるのか?
よく上げられるのは、思想や利害関係の不一致だが、最も単純な理由は『相手が自分より弱い』からである。
歴史学者……マーチャン・アサイ
ハリコフ王国の北方に位置するトリグラフ帝国は、温暖で広大なアーバン穀倉地帯を持つ王国とは違い、不毛な寒冷地帯が延々と拡がる貧困国である。
おもな産業は、その貧しさに打ち勝つべく人々が鍛えた学問であったり、剣術であったりした。
ブタ領ニャッポ村の官吏たちがそうであるように、有能な学生たちは出自を差別されながらも、諸国の薄給下級官吏として登用されていた。
又、鋼のように鍛えた武人たちも、多くの諸国に精強なる兵士として就職していた。
彼らは得たお金そのものだけでなく、お金を小麦や米、野菜などの漬物、肉や魚の干物に交換して、長期休暇の際に帝国の家族のもとへ持ち帰った。
まさしく帝国の産業と資源は、『人』そのものであった。
だが、帝国自体は食料生産高が限られており、養われる人口も低い水準で推移していた。誰から見ても大国ハリコフに挑むことなど想像もつかなかった。
──が、彼らは、ハリコフ王国に挑んだのである。
当初、ハリコフ王国側としては、帝国は攻略しても旨味のない土地だった。むしろ安い労働力の供給地として見ていた。
しかしここ2年間、ハリコフ王国は不作続きの為、地方貴族と民衆の不満は王都に向いていた。
王都を取り仕切る宰相ドロー公爵は、その活路を外敵に求めた。
が、外敵なら何でもよいというわけでもなく、勝てそうな相手が求められた。まさか勝てない相手に国家の浮沈を賭けるわけにもいかない。
ドロー公爵は周辺事情を幕僚に調べさせ、その矛先をトリグラフ帝国に定めた。
すぐさま、王の最高諮問機関である六公侯会議に諮った。
ハリコフ王国の六公侯会議とは、侯爵以上の6名で行う秘密会議である。が、半分公然の秘密であり、ボロンフ辺境伯爵が侯爵に昇りたいのもこのためである。
……どのような裕福な組織だろうとも、中枢にいなければ旨味はない。と言ったところかもしれない。
六公侯会議は宰相ドローの案を全会一致で可決。
王の追認を受け、秘密裏に王国参謀本部へ通達された。その通達内容は、
『王国へ向けて、トリグラフ帝国が開戦を仕向けるようにせよ。しかる後、必ず勝て!』
……であった。
通達を受けた王国参謀本部はすぐさま作戦素案を作成し始めた。
ハリコフ王国参謀本部とは、軍の作戦統括と立案をする機関である。が、兵士の直接指揮権はなく、勤める参謀たちも貴族の次男以下という編成であった。
規則にも、兵士や領民を従える貴族の参与は許されておらず、あくまでも貴族たちの下につく実務機関に過ぎなかった。
──参謀本部の叡智が大いに試される時だった。
──
「殿! ご出陣の時間ですぞ!!」
家宰の老騎士がゲームで遊ぶブタをせかす。
ブタの好きなことは、【釣り】と【テレビゲーム】と【砂遊び】である。
釣りは最近、虎族のコダイ・リュ-と新たな定置網の開発に繋がった。
テレビゲームは、今のところ何も役に立っていない。
最後の砂遊びは、城つくりに波及していった。
バートルム砦での奪回戦以降、ブタはやたらと【城つくり】に執心した。
いろいろな書物を取り寄せ、絵図面を沢山作りポコと日夜討議した。
港湾自治都市アーベルムに対し大森林地帯の権利確約をとったため、ブタ勢は軍務役アガートラムを中心に大森林地帯の実効支配に移った。
仮に周囲の大領主が決めたとしても、在地領主は反発することは多く、武力による勢力圏の確保は必須だった。
なにしろ大森林の在地領主はモンスター達であり、人間の支配をより好まなかった。
この戦役で、ブタは多くの野戦城や砦を設計し、現場をポコと指揮をした。なにしろ巨人族のビットマンがいたので工事は比較的早かった。
アガートラムは敵を認めるとすぐさま後方のブタに連絡した。ブタ達は予定地に野戦陣地や砦を次々に構築、味方には安全な休息地を確保し、その建築物の数々は在地領主のモンスター達の戦意を砕いた。
砦のない側はいつ襲われるかわからず、体力と精神力を摩耗した。片や砦のある方は十分に休息が出来た。
もはや全く戦いにならなかった。
よって、在地のモンスター達は次々に休戦を申し出て、ブタの旗の下にどんどん臣従していった。
ニャッポ村から来た従軍文官たちが、ヴェロヴェマの指示のもとに彼らの支配地域を定め、徴税額や軍役動員数を記載した羊皮紙を作成した。その後ブタが署名捺印し、直接在地領主であるモンスター達に手渡した。
ここで特筆すべきは、臣従したものにウサ特製の銅剣が下賜された。ちなみに新品の銅は輝きがあり美しいものである。
人間にはあまり珍しいものではなかったが、モンスター達には喜ばれた。なにしろ一応は子爵さまからの特注の頂き物である。
人間から貰うと嫌だったかもしれないが、アイスマン辺境蛮族子爵はブタであった。
──そう、ブタだったのである。
「もう、おうちに帰って【教務員ファイター】したいだござる!」
……その願いは、ザムエルとヴェロヴェマの怖い笑顔によって打ち消された。
ブヒィぃぃ (´・ω・`)
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる