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~友愛編~

第六十一話……【モロゾフ将軍記③】 ──王国参謀本部──

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今日の天気は晴れ。

澄み渡る空。そろそろ春真っ盛り。



──戦争とはなぜ起きるのか?

 よく上げられるのは、思想や利害関係の不一致だが、最も単純な理由は『相手が自分より弱い』からである。

 歴史学者……マーチャン・アサイ



 ハリコフ王国の北方に位置するトリグラフ帝国は、温暖で広大なアーバン穀倉地帯を持つ王国とは違い、不毛な寒冷地帯が延々と拡がる貧困国である。

 おもな産業は、その貧しさに打ち勝つべく人々が鍛えた学問であったり、剣術であったりした。

 ブタ領ニャッポ村の官吏たちがそうであるように、有能な学生たちは出自を差別されながらも、諸国の薄給下級官吏として登用されていた。

 又、鋼のように鍛えた武人たちも、多くの諸国に精強なる兵士として就職していた。

 彼らは得たお金そのものだけでなく、お金を小麦や米、野菜などの漬物、肉や魚の干物に交換して、長期休暇の際に帝国の家族のもとへ持ち帰った。

 まさしく帝国の産業と資源は、『人』そのものであった。


 だが、帝国自体は食料生産高が限られており、養われる人口も低い水準で推移していた。誰から見ても大国ハリコフに挑むことなど想像もつかなかった。



──が、彼らは、ハリコフ王国に挑んだのである。




 当初、ハリコフ王国側としては、帝国は攻略しても旨味のない土地だった。むしろ安い労働力の供給地として見ていた。

 しかしここ2年間、ハリコフ王国は不作続きの為、地方貴族と民衆の不満は王都に向いていた。
 王都を取り仕切る宰相ドロー公爵は、その活路を外敵に求めた。
 が、外敵なら何でもよいというわけでもなく、勝てそうな相手が求められた。まさか勝てない相手に国家の浮沈を賭けるわけにもいかない。

 ドロー公爵は周辺事情を幕僚に調べさせ、その矛先をトリグラフ帝国に定めた。

 すぐさま、王の最高諮問機関である六公侯会議に諮った。
 ハリコフ王国の六公侯会議とは、侯爵以上の6名で行う秘密会議である。が、半分公然の秘密であり、ボロンフ辺境伯爵が侯爵に昇りたいのもこのためである。

 ……どのような裕福な組織だろうとも、中枢にいなければ旨味はない。と言ったところかもしれない。


 六公侯会議は宰相ドローの案を全会一致で可決。
 王の追認を受け、秘密裏に王国参謀本部へ通達された。その通達内容は、

 『王国へ向けて、トリグラフ帝国が開戦を仕向けるようにせよ。しかる後、必ず勝て!』

 ……であった。



 通達を受けた王国参謀本部はすぐさま作戦素案を作成し始めた。

 ハリコフ王国参謀本部とは、軍の作戦統括と立案をする機関である。が、兵士の直接指揮権はなく、勤める参謀たちも貴族の次男以下という編成であった。
 規則にも、兵士や領民を従える貴族の参与は許されておらず、あくまでも貴族たちの下につく実務機関に過ぎなかった。


──参謀本部の叡智が大いに試される時だった。





──
「殿! ご出陣の時間ですぞ!!」

 家宰の老騎士がゲームで遊ぶブタをせかす。


 ブタの好きなことは、【釣り】と【テレビゲーム】と【砂遊び】である。

 釣りは最近、虎族のコダイ・リュ-と新たな定置網の開発に繋がった。
 テレビゲームは、今のところ何も役に立っていない。
 最後の砂遊びは、城つくりに波及していった。

 バートルム砦での奪回戦以降、ブタはやたらと【城つくり】に執心した。
 いろいろな書物を取り寄せ、絵図面を沢山作りポコと日夜討議した。


 港湾自治都市アーベルムに対し大森林地帯の権利確約をとったため、ブタ勢は軍務役アガートラムを中心に大森林地帯の実効支配に移った。
 仮に周囲の大領主が決めたとしても、在地領主は反発することは多く、武力による勢力圏の確保は必須だった。
 なにしろ大森林の在地領主はモンスター達であり、人間の支配をより好まなかった。

 この戦役で、ブタは多くの野戦城や砦を設計し、現場をポコと指揮をした。なにしろ巨人族のビットマンがいたので工事は比較的早かった。

 アガートラムは敵を認めるとすぐさま後方のブタに連絡した。ブタ達は予定地に野戦陣地や砦を次々に構築、味方には安全な休息地を確保し、その建築物の数々は在地領主のモンスター達の戦意を砕いた。

 砦のない側はいつ襲われるかわからず、体力と精神力を摩耗した。片や砦のある方は十分に休息が出来た。
 もはや全く戦いにならなかった。

 よって、在地のモンスター達は次々に休戦を申し出て、ブタの旗の下にどんどん臣従していった。


 ニャッポ村から来た従軍文官たちが、ヴェロヴェマの指示のもとに彼らの支配地域を定め、徴税額や軍役動員数を記載した羊皮紙を作成した。その後ブタが署名捺印し、直接在地領主であるモンスター達に手渡した。

 ここで特筆すべきは、臣従したものにウサ特製の銅剣が下賜された。ちなみに新品の銅は輝きがあり美しいものである。
 人間にはあまり珍しいものではなかったが、モンスター達には喜ばれた。なにしろ一応は子爵さまからの特注の頂き物である。

 人間から貰うと嫌だったかもしれないが、アイスマン辺境蛮族子爵はブタであった。


──そう、ブタだったのである。




「もう、おうちに帰って【教務員ファイター】したいだござる!」

 ……その願いは、ザムエルとヴェロヴェマの怖い笑顔によって打ち消された。


 ブヒィぃぃ (´・ω・`)
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