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~友愛編~
第六十話……【モロゾフ将軍記②】 ──残酷将軍ここに有り──
しおりを挟む北方のトリグラフ帝国の春は寒い。
一度旅行したものは、心も凍ったと言うほどだ。
「援軍は送れぬ。抵抗できぬなら自裁の道を選べとつたえろ!」
身長150cmにも満たない小柄の人間。頬は垂れ下がりブルドックのような印象もある。彼こそがモロゾフ将軍その人であり、トリグラフ帝国軍総左翼の最高責任者だった。
彼は幕舎に転がり込んでくる血のにじんだ伝令兵たちに次々に、
「援軍はおくれぬ。抵抗できぬなら自裁の道を選べ!」
と繰り返した。
──
彼はもともと帝国貴族の次男として生まれた。トリグラフ帝国陸軍大学歩兵科を次席で卒業。
……が、かといって当時は有事でもなく、帝国内でのポストは空いていなかった。よって、当時紛争をたくさん抱えていた西側の国のひとつへ輸出されていった。
輸出されて以来、40年にもわたり戦い続けてきたが、老齢になり引退し、帝都で一人のんびり過ごしていたところをこの度徴用された。
ちなみに、彼には妻も子もおらず、
「人殺しを職業にするもの、幸せな家庭を作る権利無し!!」
と公言。
数多の政略結婚をも断ってきた経緯もある。
彼の真骨頂は、補給線が切れたような過酷な戦線での継戦能力である。
そもそもよそ者が任せられる戦線はろくなところがない。
彼は40年もの長き間、生れた国と違うところで指揮官として勤め、貧しい兵士たちと泥水をすすり、木の皮も食べてきた。
彼は著書でこう記している。
『前線には十分な兵力と、食料及び水を送るべし! そうすれば前線指揮官たちは必ずや期待に応えるだろう!』
と。
……が、この本をかったある将校を目指す大学生に、
「優秀な指揮官とは如何なるものか?」
と問われたところ、
「十分な兵力及び補給がなくても、戦線を維持し且つ命令無い場合決して後退せぬもの」
と真顔で答え、その若い学生は将校への道を諦め、長じて大きなパン屋として成功した、……という逸話もある。
──
「将軍! もはや第113要塞は限界ですぞ!」
帝都から派遣されてきた若き参謀がかみつく。
将軍は参謀をにらみつけ、
「あの要塞の後ろには、沢山の無防備な村々が広がっているのだ!!」
「彼らはいつ如何なるときも、帝国に血税を払い続け我々を養ってくれたのだ!!」
「今更戦えませんから、やっぱり王国軍に略奪放火され、ご家族は強姦被害にあってください、とでもいうつもりか!?」
日頃は舌鋒鋭い参謀はたじろぎつつ、
「い、いや……、そうではなく、ここは平和的にですね……」
「では、お前が王国軍との和平の交渉にいってくれるのだな?」
「あ……、いや」
交渉には国の民衆の安全と財産がかかっているため、交渉中は担当者の家族や親類が全員人質にされる風習があった。
少しでも不利な条件を持ち帰ろうものなら、担当者の家族たちは無防備な状態で怒れる民衆の中に放り込まれたのだった。
また、温暖なハリコフ王国軍が拠点を守る場合。後詰などの援軍が来ぬ場合には相手に降伏してよい習わしがあった。
が、この貧しい帝国がそのようなことで外敵より国が守れるわけがなく、鉄の軍規によって数々のことが律してあった。
依って、帝国軍に『許可のない降伏』はまずありえず、更には敵が外敵であることは、住民感情によってより降伏が難しくなっていた。
軍規の定めに従い、拠点を守る前線指揮官たちは、降伏や撤退の許可をその上級司令部に求めた。
──が、唯一全く許可しない非情な男がいた。
彼こそが、モロゾフ。
残酷将軍と言われる所以であった。
──リーリヤ戦記 (ぇ?)
「よはかみぃなるぞぉ!」
今日もリーリヤの暴走がはじまった。なんだかよくわからない宗教者の言葉を最近は口にしている。
リーリヤは金髪で、肌は透き通るような白色だった。両目は明るい茶色で、見た目はとても可愛い四歳児だった。
確かに見た目はそうだったが、母親から離され遠いブタ領に連れてこられたため、毎晩目が真っ赤になるほど泣き明かしていた。
──が、
「ポコォォォ……」
「ブヒィィィ……」
彼らが丸太小屋で遊ぶテレビゲーム『教務員ファイター』。
そのゲーム機のリセットボタンは神を自称するリーリヤに、度々蹂躙された。
「りーりりゃちゃまとおよびぃ!」
「「リーリヤ様!」」
この日より、丸太小屋に絶対神が降臨しようとしていた!?
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