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~友愛編~

第四十二話……ハリコフ王国王都ルドミラ

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──今日の天気は雹。
この世界は厳しい、当たり所が悪ければ、血が滲む痣。

──現実世界は花粉と放射能の嵐が吹き荒れる。
どちらがいいのかな。



「この野郎! まてぇ!」

 一端の盗人になった童を店主が追いかける喧噪。

──ハリコフ王国王都ルドミラ。
 台帳に基づく住民は100万人を超える商都。
 もちろんその華やかさを求め、近隣からの若者の流民や、モンスターなどの人非も合わせると想像を絶する賑やかさとなっていた。

 ハリコフ王国の目玉政策は北方への出兵。
 「憎き非人道の圧政を敷くトリグラフ帝国を打倒せよ!」であった。
 これはあくまでもハリコフ王国側の言い分であり、北方に拠するトリグラフ帝国からすればもちろん、「憎き非人道の圧政を敷くハリコフ王国を打倒せよ!」である。

 所詮は神でもない人の所業であることを考えれば、どこの団体に所属するかで宣う正義は180度違うことは今も歴史が証明している。

 この世界の民からすれば、インターネットもテレビもないのだ。支配者の掲げる正義こそが正義だった。



──そんな熱気を持つ王都ルドミラ。
 対トリグラフ帝国の北方戦線から大量の捕虜が護送されてきていた。

 そんな彼ら彼女らは、王都の大通りを避け、送られていくのは【スマートラ大市場】。
 暗いイメージは全くなく、小麦やコメ、トウモロコシや大豆とともに財形証書や奴隷も勢いよく大量に商われていた。

──カランカラン
 勢いよく黄金色に輝く青銅製の鐘の音があちこちに響き渡る。

 捕虜は一般的には、やんごとないご身分であれば身代金と引き換えに現地で引き渡される。養う食費も面倒であり、なにしろ勇敢な者を冷遇しては誰も先頭を切って敵陣に切り込んでいかなくなる恐れがあった。まだまだ職業軍人の成立には時間が必要だった時代でもあった。
 引受先のない捕虜は、お互いに異なる文化圏へ流入し、ある時は豊富な若い労働力として、ある時は伝染病や飢饉の担い手として影響していった。

 現在の市況は、大量の捕虜という名の奴隷が供給されていたために、奴隷は安く、かつ不足気味の食料はより高く取引されていた。
 物価が高騰する際には、通貨は常に脇役であり、小さな紙切れが万人に神のように崇められるまでには、まだまだ長い年月が必要だった。


──もしあなたが、無限に上昇すると思われる穀物市場を目の前にして、穀物の種を年利いくらで貸すだろうか? もちろん貸し倒れはある、そもそも懇願する農民を前に貸さないという選択肢もある。

──持つものは何時も自由だ。

 欲深い商人たちは、さらなる値上げをもくろみ穀物を買い上げていった。また狡賢い商人たちはお金を借りてまで、安くなった労働者を買い漁り、新たな森林を農地に変える算段をしていた。
 国家の政策上ハリコフ製の通貨は安価に留め置かれた。貨幣たちは違法にこっそりと炉で溶かされ、開墾をするための鍬や鋤などの価格が高騰している農具へ姿を変えていった。


「都会だブヒィ~♪」
「ご飯がおいしそうポコ~♪」
「お酒がおいしそうウサ~♪」

Σ( ̄□ ̄|||) お……お酒!?



──王都に不釣り合いの貧相な身なりのブタ達の登場だった。

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