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~烈風編~
第三十六話……羊皮紙のお金
しおりを挟む──ジュオオオォォォ!!
溶けた銅が鋳型に流し込まれ、空気が悲鳴を上げる。
炉のちかくは、もうもうとした白い熱気が溢れていた。
──
アイスマン子爵領ことブタ領では、鍋や釜はもちろんのこと、クワやツルハシ、調度品から釣り具まで幅広く銅が使われていた。
増えた村民の日用品需要は銅の需給をひっ迫させていた。
ブタ領では、銅貨の鋳造が盛んであるが、銅は重くかさばる。ハリコフ王国の主要貨幣が銀貨であることもうなずけた。
が、昨今の銅需要で、そもそも銅貨にする銅が足らない。
なにかしら手を打つ必要はあったのだった。
──
そんなところへクローディス商館商館長の【ポリー・クローディス】がやってきた。
用件はと言えば、
「もっと私の商館に銅を回してくださいまし!」
頼むという態度ではないことを除けば、その言葉は現在の銅の逼迫を十二分に顕著に表わせていた。
ブタ達は商館長を会議室に招き相談するも、クローディス商館にだけ銅を売ることはできず、会議は紛糾した。
「じゃあ、貸してあげるだけならどうでござろう?」
と、ブタが唐突に提言。
「殿! 商館長殿は銅を加工品の材料として欲しいのですぞ!」
家宰の老騎士が口をはさむ。
「だって借用書だけあればいいでござろう?」
Σ( ̄□ ̄|||) そうだった!
「そうですわね!」
商館長も満面の笑みで頷く。
「じゃあ拙者は釣りに行ってきま~す~♪」
……ブタ脱走。
ヾ(゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ポコウサぶひぃ~♪
……3匹は脱走して仲良く釣りに行きました。
──
ブタ領としては、クローディス商館に銅を預け、その借用書を沢山の木簡で頂く。
ブタ領随一のクローディス商館の借用書なのである。十二分に通貨として流通できた。
現実として、先の反乱軍との戦では領地外にも関わらず、アイスマン子爵の借用書として振り出された木簡は、銅25枚として通用した。
その後、上記の【ブタ券】はハリコフ王国南東部で実際に流通しているのだ。
私鋳造はご法度だが、借用書を流通してはいけないというハリコフ王国法はなかった。
つまり【ブタ券】の次は、当然として【クローディス券】の発行というわけである。
ブタ達とすれば(ブタはもう脱走したが)、借用書という通貨が手に入るわけである。反面クローディス商館としては、当分に借用書分の返還に大量の銅は必要ないということになる。
よって、一部の換金用の引き当て分の銅を残し、商館は銅を日常品として加工することになった。
ブタ領とブタ領近隣の商人は、銅貨より【木製銅札】を好んで使った。軽くてかさばらなかったからである。
又、大量の銅札をクローディス商館にあずけ、預かり証紙として一枚の羊皮紙に資産をまとめるものまで現れた。
羊皮紙券は、様々な額面が記された紙幣と言えた。が、主に銅貨1000枚の預かり証紙が商人たちに人気だった。実にその価値は金貨一枚分に相当した。
羊皮紙券は、ブタ領で商品を大量に扱いたい商人たちに大変好評だった。
ブタ領の庶民も、羊皮紙券とはいかなくても、木製銅札はよく使っていくようになる。主に木製銅札は【アイスマン券】と呼ばれ、羊皮紙券は【クローディス券】と呼ばれるようになっていった。
当然だが、いつでも換金できると思っていただくために、銅貨の鋳造もより一層力が入れられた。
──
その後、実質的に両替商の地位も得たクローディス商館は、その手数料で大変潤った。その手数料のうち、半分はブタ領に税金を納めることになっていてもだ。
実際にブタ領は今後の農産品の増産が見込まれ、人口の増大、水産物の取引の増加などは、アイスマン券(ブタ券)やクローディス券(ポリー券)の通貨発行も合わせても、十分な通貨流通量とは言えない現実もまたあった。
ブタ領の税収は上がっていたが、なにしろ水車や風車の建造、井戸掘りや水路の整備、縦断道路建設に伴う伐採事業、港湾及び各種船の建造など、さらには兵員の増強における装備品調達など、いくらお金があっても足りない状況だった。
それもあって、ブタ領の予算配分会議では、武断派のアガートラムと内政派のンホール司教が対立した。
しかし、INT(かしこさ)に絶対の差があるために、予算の取り合いは常にンホール司教が勝ち続ける展開が続いたのだった。
──
「アガートラム族長! 今日の予算はどうでした?」
「うっせぇ! 黙ってろ!」
……アガートラムの平時は常に受難であった。
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