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~烈風編~
第二十七話……大勝利
しおりを挟む今日の空は青い、地平線にみえる雲は赤いけれど……。
ゲームの中の空はわからない。じめじめしたところでお勉強中。
──
「美味しい!」
ハロルド王太子は感嘆の声を漏らした。
戦時にあえぐ、王都の庶民には手の届かない新鮮な野菜のサラダのあとに出たのはスッポンのスープだった。
──
全ての食材を厳選するのは言うに及ばず、この日のために畜養をほどこし、カモや魚にもとびっきり良い餌を与え続けていたのだ。
そのようなものは餌にせずに、王都の民に分け与えればいいような気もしたが、相手は5歳の王族なのだ。
食材の背景など知る由もない。
一方、御付きのドロー公爵といえば、お腹が痛くて味わうどころではなかった。
スープの次に出てきたのは、お魚の皿だった。
沢山のイクラの上に、沿岸でとれたバフンウニをのせ、火炎魔法で若干あぶったものに、高級品である塩と胡椒を贅沢にたっぷりかけてあった。
……そう、この世界には醤油がない。現代の皆さんが食べた場合にどう思われるかは謎である。
お次のお皿はメインディッシュ。
カモのグリルと鶏卵のボイル添え。
塩釜でグリルしたカモの鶏肋の部分を、丁寧に骨を取り除いたものを、畜養の魚の煮汁で固めたものだった。
王都の上流階級垂涎の品、蜂蜜もこれでもかとたっぷりかけてあった。
デザートは、山盛りの果実の上を円錐状に、精製に精製を重ねた純白の砂糖を盛りつけたものだった。
総じて、極めて健康に悪そうなメニューであったが、この世界の贅とはこのようなものであり、実際に多くの貴族たちが老若男女を問わず生活習慣病にかかっていた。
豊かな体もまた、富の象徴だったのだ。
──
「もう少し食べたかったが、余は満足ぞ!」
ハロルド王太子の発言に、ブタ領の幕僚たちはいっせいに胸をなでおろした。
身の回りのお世話の者に銀貨を握らせ、普段の食生活やメニューを調べ、少し物足りないくらいの量の設定にしたのだった。
次代の王に、少しでも味を覚えてもらうことで、ブタ領の幕僚たちは領の平和を図ったのだった。
──
ブタ領北端で、王太子の帰りを見送ったヘーデルホッヘは、心労のせいか白髪はより白く、しわはより深くなった印象で、目の下には大きなクマができていた。
が、それは大いなる作戦の成功を意味していた。
仮にも失敗なら、王太子も宰相も無事に領から出すことはできない。
ドロー公爵もそんな辺境領主たちの気持ちをわかってか、変な詮索もしなかった。
何はともあれ、ブタ領としては初めての皆での完全勝利だった。
その夜はあるものは酔いつぶれ、あるものは巣穴で寝潰れた。
「お父さん!?」
帰ってきた父のそのやつれた顔にビックリした娘の胸の中で、老騎士はスヤスヤと静かに寝息をたてているのであった。
【システム通知】……本日は定期メンテナンスの日です。データの保全のため、みなさんの時間に余裕のあるログアウトをお願いいたします。
──
「ブルーーよ、最近のゲームはそんなに面白いのか?」
「う~ん、今は勉強にいっぱいいっぱいでござるかな?」
ポークチャップを食べながら、祖父にそう答えると。
「馬鹿もんが! ゲームで勉強になることなんかあるかい!」
と拙者は頭をはたかれたでござる。
(´・ω・`)……そう、いつも拙者のおじいちゃんはこんな感じでござる。
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