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~烈風編~

第二十六話……ナイフとフォーク

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 現実の空は赤い放射能雲だけど。
 今日のゲームの中の空は快晴。
 だけどなんだかつまらない。
 はぁ~、釣りにでも行きたいな。



──

「第六段階成功セリ!の狼煙があがりました!」

 ニャッポ村にある丸太小屋、現・ブタ領統合情報戦略本部の窓から観測員が叫ぶ。


「同内容!発行信号確認!」
 
 組まれた櫓からも観測員が知らせる。


 丸太小屋の中では、赤毛の女アサシン【ライン・シュコー】以下、暫定情報幕僚たちが次々と報告をメモにつけ、集計した結果をもとに、予め予定された作戦担当者にGOサインを出していった。
 その様相は現代のコンピューターさながらであり、まさしくブタ領ニャッポ村最大の作戦であった。

 現作戦の要旨は、港や鉱山などの【情報機密】と王太子たちの【安全確保】が主要目的である。
 王太子にもしものことがあれば貴族としての信用は失墜してしまう。
 又、王太子に対して、矢の一本の飛来も許されない。矢が当たったとて魔法で治療できるとか、そういう問題ではないのだ。

 王都から睨まれれば、地方豪族はひとたまりもない。が、成功すれば『あいつらは意外と使えるから生かしておこう』と王都の参謀たちに思わせることも可能だったのだ。

 たしかに伝説の勇者であれば違うのだろうが、そんな者とて王都を敵に回し夜討ち朝駆け、自分だけだはなく家族や仲間も狙われて続けていては、精神がもつのかどうかは自明の理かもしれない。

 そのようなことを一切考えないブタではあったが、自らのおばあちゃんの教え『亀の甲よりは年の功』を思い出し、無責任に老騎士に任せたが運の尽き、地獄のように退屈なンホール司教による魔法講義が待ち受けていたのだった。


──無知蒙昧なモンスターに日頃魔法を教えているンホール司教の方針。つまるところ、ただの詰め込み式暗記教育であった。
 しかしながら当時の方針に対し、3匹のなかではINTのまだマシな狸のポコは後日、『非才の身なれば、暗記するより他はなし。真の学習とは二度とやりたくないものポコ』と語ったという。
 
 それはさておき……。



──

 ハロルド王太子が昼食中の時、ブタ達は。

「勉強時間が終わった!ご飯だ!ご飯だ!」

 (゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこぶひうさ~♪


 ……が、そこはテーブルマナーの時間だった。

 ンホール司教に、ナイフとフォークはもとより素手での食べ方も習う。
 もちろん現実社会で下流なブタは大いにに苦しんだ。


「こんな食べ方だと、スープがおいしくないでござる!」
「ぽこ~(怒)」
「うさ~(怒)」

 下流層の魂の叫びだったが、ンホール司教は一顧だにしなかった。

 キノコ族は恐ろしく長寿であり、さすがに生物としての大先輩に対しては、ウサも悔し涙を流すしかなかった。




【システム通知】……サーバーが遮断されました。


 Σ( ̄□ ̄|||) なんだ? なんだ?

 ……しばしの暗転ののち。


「ブルーや! 急いで! 急いで!」

 Σ( ̄□ ̄|||) ぇ? 何?何?


 ……おばあちゃんは夕方からクラス会があり、白髪染の手伝いをさせたいがためにVRMMOのコンセントを引っこ抜いたのだった。


 (´;ω;`)ウゥゥ 「壊れちゃうよ」

「壊れたら、また買ってあげるよ」


 ……(´・ω・`) もちろんおばあちゃんにセーブデータの概念などなかった。



──その晩。

「ブルー、めちゃめちゃナイフ使うの上手いな!」

 とうちゃんに褒められた (*´▽`*)ノ~♪




……それ以来、褒められるのが嬉しくて、彼はトンテキの日は必ずナイフとフォークだった。
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