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第4話 金持ちと保健医の関係
2.大空へのダイビング
しおりを挟む「ご学友のピンチ。救ってくれよ、隣のクラスじゃないか、鴉楼君!」
その軽薄そうな言葉遣いで、こいつが誰かやっと思い出す。
……糸倉。たしか、そんな名前の奴だった。
お気楽な大会社の一人息子で、非常におちゃらけた性格のため、名ばかりの名門を持つうちの学校では、厄介物扱いだが寄付金は多く貰える生徒。
という、存在になっていると聞いたことがある。一年なのに、生徒会選挙に出馬して見事落選した男だ。
「……君呼ばわりされるのは不服だが、人として縄をはずしてやる」
「いやー。ありがとう……」
そこまで愉快に言われると、逆に気分が良かった。
幾重にもくくられた縄を解いてやると、相当長い間そのままだったのか手足をぶらつかせ始めた。
学生服で縛られてるのも、珍しい話だ。
「ワケを聞く時間はあるか……?」
「無いねーーー」
言いながら、糸倉はドアを指差す。緊迫した空気、数々の足音。
探してるものはここに居る疫病神ただ一人。
「本当は、隣の部屋に居たんだけど。隙を見て海老歩きでこっちに移ったんだ。でも、結構この歩き方疲れるもんで、危険を承知でご休憩を取っていた……」
「そのまま、ご宿泊してればいいものを、俺を見つけやがって」
「海老のまま、物を投げるのも結構疲れる……」
そのおかげで俺はコイツに気づき、こいつを捕まえていた奴らはコイツに気がついた。
おかげで俺は、今日一日を棒に振ることになる。
「……明らかに、疫病神だ」
まだ歩き方がぎこちない糸倉に肩を貸し、俺達はベランダに向かう。
ベランダと言うのは少し問題がある場所だが、いくら高級でもベランダはベランダだ。
窓を開け、俺は絶句した。この部屋は建物の角の部分だったようで、左側には壁しかなかった。
それよりも俺を驚かせたのは、繋がりの無いカド状態の壁の先にある部屋から、
それも海老の様に縛られた身体でここまで来たコイツだ。
「お前、大道芸の方が向いてるな……」
糸倉は迷惑なことに力尽きているようだった。
顔色も良くない。おまけに、腹まで鳴る。
どうも、食事ですら満足に与えられていないようだ。
「素敵な7階のベランダ。ほんと、羽が欲しいね。イカロスになった気分だ」
荒荒しくドアを叩く音がする。鍵をかけて正解だ。
鍵自体はホテルに言えば何とかなるが、チェーンだと機械関係が必要になってくる。
無関係の俺が、こんなめんどくさい事をやらないとか。
俺って良い人なんてつぶやきながら、さっきまで糸倉を縛っていた縄を持ち出して手かせに縛り付ける。
嫌々ベルトを外し、俺と糸倉の腰部分が離れないように固定した。
外から機械音がする。
このホテルの警備はどうなってるやら?
持ってあと三分。
糸倉のベルトを縄の先端に縛り付け、強度を確認するとベランダのてかせ部分に立つ。
縄一本だけでは、人間一人支えられない。
なら、縄に負荷がかかる前に逃げればいい。
死なんて物は覚悟しちゃいないが、震えは止まらない。
一瞬。糸倉を渡すという考えも浮かんだがそれを打ち消した。
ここまでやったら、最後まで。一応これでも男だ。
---飛ぶ。
それより、落ちるのが正しいかもしれない。
風圧で舞い上がる縄が伸び終えるまでに逃げ出す。
思考より身体が勝手に動き、俺達は五階の窓を蹴破った。
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