都立第三中学シリーズ

和泉葉也

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第三話 さらば科学推論演算部

3.超時空アンドロイドさゆり

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 保健室から理科準備室へと、エレベータが降りていく。

 山本は、大咲先生から借りたモップを両手で持ち戦闘体制に。糸倉は、右手にカップめん。左手にはスーツケースを持って戦いに赴いた。

 理科準備室は機械のジャングルだった。
 モーター音と警告音のようなものが交差して流れ、怪しげなケーブルが数え切れないほど壁に埋め込まれていた。

「---侵入者と思えば、山本と変なサラリーマンか」
 黒マントをはおった部長が現れ、ジャイアン登場のバックミュージックがどこからか流れた。

「なんだ? そのサラリーマンは?  カップめんなんぞ食いつづけて、小池さんの親戚か?」

 面白い人ですね、と糸倉は山本に耳打ちした。


「……ま。とりあえず、やれ! 生徒会役員!」

 声と共に、野獣のような生徒会役員達が顔を出す。
 慌てて、山本はモップで役員達をはたきつけた。二、三度攻撃すると、役員達はその場に伏した。

「糸倉さん、手伝ってくださいよ……!」

 糸倉はひょいひょいと攻撃をよけながらラーメンをすすっていた。
 食べ終わるまではダメか。山本は舌打ちした。

「なかなかのものではないか。ならば、私自ら戦ってやろう!」

 ばさりと部長はマントをはずす。貧弱な肉体が現れ、山本は恐怖した。

「・・・まあ待て、我も戦おう!」

 それまで、奥で鉄管工事をしていた師匠が現れた。
 山本達をボーっとしばらく見て、自分の頭をポンポンと叩いてあぁぁぁぁぁと叫ぶ。


   「---社長」

 突然、師匠は態度を低くした。彼も一応社会人。縦社会のつらさである。


「役員会議が待っていますよ。何やってんですか?」
 糸倉は、なおもラーメンを食べ続けた。

「ふっ、ふふふふふ。いい機会だから、貴様も改造してやる……!」

 彼の中で何かが弾けたらしい。
 師匠の社会人としての生活を捨て、新しい支配者としての道を歩むことにしたようだ。

「ボーナス査定、マイナスですね」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。
 積年の恨み、晴らさせてもらう!  出でよ、超時空アンドロイドさゆり!!」

 ど派手な効果音と共に、マネキンのようなロボットが現れた。
 コンニチハ、コンニチハと子供向け乗り物のような挨拶をするさゆり。

「うわぁ、ダサ」
 糸倉は、さゆりを眺めてすぐにこう言った。

「さゆり。超時空ミサイルだ」
「イエッサー」
 さゆりは手を山本に向けて、手首を開いた。小さなミサイルが山本に発射される。

「痛っ!」
 それは、つまようじだった。

「はっ、はっはっはっはっはっ! さゆりの恐ろしさ、知るがいい!!」

 白衣の二人は高らかに笑った。山本はモップを横に振る。
 チャリンというガラスのような音がして、超時空アンドロイドさゆりは破壊された。

「はぁ、さゆり!!!」
「貴様ら、さゆりには三歳になる赤ちゃんがいるんだぞ!」
「厚生年金も払っているのに、なんだ……!!」

 何だかよく分からないことを、彼らは言い始めた。

「ふう」
 糸倉は、ラーメンをようやく食べ終えた。
 割り箸を横に折り、ゴミを準備室のくずかごへと捨てポンポンとお腹を叩き、スーツケースからサイレンサー付きのコナンスオードを取り出す。

 ガチャという音がすると、糸倉は白衣の二人に銃を放つ。
 タッタッタというミシンのような音がして、師匠と部長は血を噴出しながら床に倒れた。

「い、い、い、糸倉さん……?」
 山本は恐怖で腰がぬけてしまった。

「ああ。大丈夫です。この二人は、それくらいで死にませんから」
 笑いながら、糸倉は師匠を引きずって準備室を後にした。

―――――――――――――――――

 かくして、長い道のりを経て第三中学に平和が訪れたのだ。
 しかし、これで山本の苦難が終わったわけではない。
 この世に憎しみの続く限り、第二の橋本が現れるかもしれない。
 また、その時まで科学推論電子演算部は閉部としよう。

―――――――――――――――――
 さらば、科学推論電子演算部!

 終
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