都立第三中学シリーズ

和泉葉也

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第一話 橋本部長の生徒会選挙

2.珠算部との戦い!

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「良ーく、見てみろ」

 珠算部では、数人の生徒達が必死にそろばんをはじいていた。
 なんでも、もうすぐ検定試験だとかで、部員の意気込みも違うのだろう。

 今回のターゲット、大堀も同じ珠算部の人間。
 生徒会よりも、自分の試験のほうが大事ならしく一生懸命はじいている姿が山本には良くわかった。

「山本、よく見てみろあの腕を。きっと、自分は会計も出来る会長になれます。とでも演説するはずだ」
「そうかな……」

 と、突然。大堀がトイレにでも行くのか席を立った。慌てて、隣の教室に駆け込む山本と部長。

「ヤツめ! 私のスパイ行動に気づいたか?」

「そりゃあ。ドアからのぞいてれば怪しいとでも思いますよ。部長、こんなことに時間を使わないで、もっと自分を磨いたらどうですか? 部長のような偉い人物が、こんなことをしていてはいけませんよ」

「いや、まずは征服への第一歩。山本、これを大堀の髪にでも付けて来い!」

 精一杯のお世辞も、部長橋本には通じなかったようだ。山本に指先ほどの小型チップを渡す。

「何です、これ……?」
「超小型轟音発生装置だ。使ってみれば分かる」
 山本は、ためしにと自分の頭に乗せてみた。

「後ろのシールを剥がさない限り頭から離れないということは無いから安心しろ」

 もしかして、犯罪の片棒を担がされているのではと山本は身震いした。
 とりあえず、乗せてはみたが変化は無い。おかしいなと山本が思っていると、何だか遠くの方から声が聞こえ始めた。


「まうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまう
 まうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまうまう
 まうまうまうまうまうまうまう」

 うわあぁぁぁぁと雄たけびを上げた山本は、頭のチップを取り外す。

「馬鹿者。大堀にバレるではないか!!」
「な、な、何です一体!!」

 慌てて頭からチップを離す山本。

「脳波の理論を使って、頭部から音声を送り込んでいる。しかも、防水加工済みのため、シャンプーなどで壊れる心配も無く、シールを剥がせば一週間くらいは頭から剥がれなくなる」

「は、犯罪!!」
「新たなる時代を作るための犠牲になってもらうだけと、言い換えてもらおう!  山本、お前がやらなければ、半永久的に取れないバージョンをお前の頭に付けるぞ!!」
「や、やります。やれば、やればいいんでしょ」

 半泣き状態になった山本は、舞ちゃんごめんなさいとつぶやきながらシールを剥がし、大堀の頭を目掛けてチップを投げつけた。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。すべては、この男に命令されてやったんです。


「ふっふっふっふっふっ」

 部長が含み笑いをしていると、大堀が頭を抱えだした。ぐっと呻き、辺りを見回す。しかし、いくら見回しても、それらしい音を出しているものはない。
 今度は耳を澄ます、耳をふさぐ、まうまうという声が聞こえる。

 罪の意識に耐えかねた山本は、珠算部部室前を後にした。

―――――――――――――――――

 三日後、大堀は精神科に入院した。
 お見舞いにはたくさんの友人がかけつけたらしく、山本はごめんなさいの言葉と共に、高級フルーツの詰め合わせを贈った。
 
―――――――――――――――――

 こうして、月曜日はやってきた。
 暗黒と呼ぶにふさわしい生徒会選挙日である。

 午前の二時間に、候補者の演説。
 そして、お昼休みまでの間に投票を済ませ、投票数の多い順に会長、副会長と決まって午後のホームルームにて結果発表となる。
 演説は、一候補者三分。山本的には早い時間で、彼らの出番はやってきた。

「それでは、まず。橋本橋蔵君の応援演説を一年三組、山本はじめ君」

 選挙管理委員の言葉と共に彼らは壇上に上がった。
 拍手が終わり、山本は、部長から手渡された演説文を読み上げる。
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