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第三章 婚約レースの開幕
待ち受ける夜の訪れ(1)
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「……期待して扉を開いてみれば、既に夜着姿とは。第二王女は、ロマンスが足りないと見受けられる」
使者への挨拶と他の候補者への顔合わせを終えて、繋がりの扉を開けてみれば、満足そうに入浴まで終えたエリヴァルが手土産品の菓子箱を開いていた。
多忙な日々を送り、外交の手配も終えた叔父への振る舞いにしては幼さを感じられる。
「もう、すっかり湯にも浸かって香油を塗ってお休み気分だからね。何箱積まれても、叔父上とバスルームを共にはしないよ」
「異国からの賄賂では、どんな手土産を持ってきてもそちらの方を選ぶだろ?」
予備のティーカップを取り出し、熱い紅茶と甘酸っぱい南国のお菓子を我が国の功労者に振る舞う。
少し納得は出来なかったようだが、オーカスは菓子箱のいくつかの種類を試しながら口にしていった。
「……ウィードは親戚だって聞いてたから、前に会った事が有ると思うけど、他の出走馬達はどうだった?」
「侍女長の義兄殿は、ずっと緊張していたな。ウェイクフィールドの双子の片割れは、恋人選びと言うより、学問を学びつつの滞在を考えていたようだ」
「フィンネルは、ボクたちにも惹かれてたけど、ニオブにも興味を示していたみたいだったよ。あちらも未婚だし、それも兼ねての同居案の仲介者にされたんだろうね……」
元老院のご老体の娘にして国の金庫番が相手では、嫁ぎ先にも苦心するという物だ。仕事の名目で将来有望な男たちの群れに放り込めば、一人くらい興味を示すかもしれない。
側室を認める法令により、遅くに産まれた娘たちはそれは良い縁に恵まれて欲しいとは思うが、こうも手玉に取られては腹立たしいものがある。
「……それから、ロイヤルアゼールの三の君だが、少しお前に似ているな。風貌という意味では無く、雰囲気が似通っている」
「最年少のフレドリクスだね。自分ではそんな気がしなかったけど、叔父上に言われてみると何となく似てるような気がするよ」
洋 巴旦杏の蜜漬けを口にしてしまったエリヴァルは、心底酸っぱそうに顔を窄めていた。毒でも盛られていたらどうするのだと不安になったオーカスは、手土産品の確認と手配を早めるように小間使いへの指示書を送る。
「……それからフレドリクスに、元カスティア王女殿下の部屋を案内したのだけれど、室内を眺めていたら、怖くなってしまったよ。何年も経っているのに、幼さが抜けてないね」
「部屋に、入ったのか……? そんな無茶をしなくとも、誰か従者に任せれば済むと言うのに」
「うん。平気だと、思ったんだ」
エリヴァルを抱き寄せると、夜着を通して身体の震えが伝わってきた。テーブルをよく見れば、数々の包み紙と一緒に、処方された薬瓶が空になって転がっていた。
「……甘い菓子で心を満たせると思ったら、そう上手くは行かないものだね」
「何故、薬師を呼ばなかったっ!」
すぐにオーカスはバスルームへと連れ込み、大甕の桶の水をエリヴァルの口へ流し込む。何度か咳き込んで水と一緒に吐き出し、それから茶器に入った湯の温度を下げてティーポットの注ぎ口を咥えさせられたエリヴァルは、胃の液を出し終えるまで白湯を飲ませ続けられた。
使者への挨拶と他の候補者への顔合わせを終えて、繋がりの扉を開けてみれば、満足そうに入浴まで終えたエリヴァルが手土産品の菓子箱を開いていた。
多忙な日々を送り、外交の手配も終えた叔父への振る舞いにしては幼さを感じられる。
「もう、すっかり湯にも浸かって香油を塗ってお休み気分だからね。何箱積まれても、叔父上とバスルームを共にはしないよ」
「異国からの賄賂では、どんな手土産を持ってきてもそちらの方を選ぶだろ?」
予備のティーカップを取り出し、熱い紅茶と甘酸っぱい南国のお菓子を我が国の功労者に振る舞う。
少し納得は出来なかったようだが、オーカスは菓子箱のいくつかの種類を試しながら口にしていった。
「……ウィードは親戚だって聞いてたから、前に会った事が有ると思うけど、他の出走馬達はどうだった?」
「侍女長の義兄殿は、ずっと緊張していたな。ウェイクフィールドの双子の片割れは、恋人選びと言うより、学問を学びつつの滞在を考えていたようだ」
「フィンネルは、ボクたちにも惹かれてたけど、ニオブにも興味を示していたみたいだったよ。あちらも未婚だし、それも兼ねての同居案の仲介者にされたんだろうね……」
元老院のご老体の娘にして国の金庫番が相手では、嫁ぎ先にも苦心するという物だ。仕事の名目で将来有望な男たちの群れに放り込めば、一人くらい興味を示すかもしれない。
側室を認める法令により、遅くに産まれた娘たちはそれは良い縁に恵まれて欲しいとは思うが、こうも手玉に取られては腹立たしいものがある。
「……それから、ロイヤルアゼールの三の君だが、少しお前に似ているな。風貌という意味では無く、雰囲気が似通っている」
「最年少のフレドリクスだね。自分ではそんな気がしなかったけど、叔父上に言われてみると何となく似てるような気がするよ」
洋 巴旦杏の蜜漬けを口にしてしまったエリヴァルは、心底酸っぱそうに顔を窄めていた。毒でも盛られていたらどうするのだと不安になったオーカスは、手土産品の確認と手配を早めるように小間使いへの指示書を送る。
「……それからフレドリクスに、元カスティア王女殿下の部屋を案内したのだけれど、室内を眺めていたら、怖くなってしまったよ。何年も経っているのに、幼さが抜けてないね」
「部屋に、入ったのか……? そんな無茶をしなくとも、誰か従者に任せれば済むと言うのに」
「うん。平気だと、思ったんだ」
エリヴァルを抱き寄せると、夜着を通して身体の震えが伝わってきた。テーブルをよく見れば、数々の包み紙と一緒に、処方された薬瓶が空になって転がっていた。
「……甘い菓子で心を満たせると思ったら、そう上手くは行かないものだね」
「何故、薬師を呼ばなかったっ!」
すぐにオーカスはバスルームへと連れ込み、大甕の桶の水をエリヴァルの口へ流し込む。何度か咳き込んで水と一緒に吐き出し、それから茶器に入った湯の温度を下げてティーポットの注ぎ口を咥えさせられたエリヴァルは、胃の液を出し終えるまで白湯を飲ませ続けられた。
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