孤独な姫君たちの蜜の駆け引き

和泉葉也

文字の大きさ
21 / 52
第三章 婚約レースの開幕

異国からの訪問者(4)

しおりを挟む
「ーーー呼び鈴の場所はここだよ。貴重品等をしまっておきたい時は、この鍵を使っておくんだ……。調度品の類は揃えてあるけど、新しく並べたい物が有れば、三番のベルを鳴らすと小間使いが運びに来てくれるよ。飲み物が欲しい時は、一番のベルの三回目を小さく鳴らすと持ってきてくれる」

 説明会という名の顔合わせも終わり、フィンネルをリリスが、フレドリクスをエリヴァルが新しく住む部屋に案内した。
 大国に配慮し、亡き第一王女カスティアの大部屋を割り当てられたわけだが、意外な程に手荷物や運び込まれた箱の数は少なかった。

「……大国と呼ばれていても、妾腹の第三王子のための部屋にしては、少し広すぎないかい?」
「亡くなられた母君が我が国の王族出身だったから、ここに来れたんだし。部屋は余ってるから好きに使えばいいさ。隣はリリスの住まいだし、ボクの部屋からも近くて行き来は便利だよ。バルコニーの眺めもいいし、バスタブは一番大きいんだ。軽く泳げるくらいさ……」

 衣装棚に鞄をしまって、書斎道具を机に並べれば手持ちの手札は勢揃いとなった。あまり良い環境とは言えなかったロイヤルアゼールの部屋には、フレドリクス個人の持ち物は極めて少ない。

「ーーーニオブは、予算は惜しまないと言い切ったんだから、買い物でもして自由に家具を並べるといいよ。城下には家具職人が多いし、名工も多数だから期待していいと思うよ。恩給は毎月支給されるらしいし、出掛けるのが苦手なら外商を呼んでカタログから選んでもいい。ボクをデートに誘うついでにしてくれると、籠の鳥としては助かるよ」
「その話なんだけど、エリヴァルは本当にこんな生活を強いられていいのかい? 候補者も君達も、将軍を除けば婚礼の年齢に満たない若さだ。僕に至っては一番年下になるだろうし……」

「全員血が繋がった親戚同士なんだし、叔父上とウィードは同じ一族で、アキニムとリリスは義兄妹だ。家族が揃ったような物だし、そんなに心配はしていないよ。……フレドリクス。君は、初対面の異国の姫君にも優しい方だね」

 日差しが差し込む扉を開いて、バルコニーからの風を入れる。まだ春には少し遠い、冷たい風が部屋の温度を下げていった。

「ーーーこの国は小国だけど、王室の長い歴史もあって資源も豊富だ。兵術にも長けているから防衛も万全で、北にそびえ立つ雪山が北部を守ってくれている。その先の氷河では、永遠に溶けない氷に覆われた大地がある。婚礼や婚約は好みでは無いけど、ボクには国を守るための次代を産む義務が有るのさ……ロイヤルアゼールでは、初対面の姫君が王子に挨拶のキスをしても無礼ではないかい?」

 フレドリクスが無言でうなずくと、少しかがんでからエリヴァルは口づけた。
 蜜色の髪と金色の髪が日差しを受け輝き、バルコニーの石畳みに反射して煌びやかに飾る。

「初めての方にこんな話をすると、不敬に感じられるかもしれないけど。ボクは、酷く寂しくて退屈なんだ。
 リリスの部屋となった隣の小部屋には、嫁いでしまわれた優しい姉上が暮らしていた……でも、姉様は人の妻となり、ボクも恋心を諦めて髪を切ったんだ……だから目的も失って、退屈になってしまったんだ」
「身体が震えているよ。外はまだ寒さが残るし、早く部屋に戻った方がいい」

 バルコニーの扉を閉めようとするフレドリクスの手を押さえ、鉄柵を背に、エリヴァルは身体を暖めるかのように抱きついてくる。
 そのまま唇を掠め取られたフレドリクスは肩を優しく抱きとめ、髪を撫でて落ち着かせた。

「……ごめん。何年も昔の話だし、もう大丈夫かなと思っていたのだけれど、この部屋には、嫌な思い出しかない物だから……少し、取り乱したみたいだ」

「気にしないでいいよ。僕にも、触れられたくない過去はある。第三王子の、しかも妾腹の身分では、候補者に上がれた事でさえあり得ないようなお話だよ。
 君たちからのお誘いが無かったら、排斥されるか政治の道具にされて終わりだったからね。それに、こんなにも、魅力的な王女とも巡り会えたし」
「魅力が有るかどうかは、これから次第かもしれないけど……好意を持って貰えるのは、嬉しいよ」

 手の甲に口づけられ、エリヴァルは頬を染めて冷たさの残る外気を思い切り吸い込んだ。
 少しフレドリクスの方が背が低く、何だか背徳感が押し寄せてくる。

「この部屋に比べると狭いけど、後でボクの部屋も案内するよ。何なら今晩から夜這いに訪れてもいいけど、出入り自由の繋がりの部屋には、悪名高い叔父上がお住まいだけどね……」
「それをするには、もう少し鍛錬を積んでからの訪問が必要そうだね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...