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第三章 婚約レースの開幕
異国からの訪問者(4)
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「ーーー呼び鈴の場所はここだよ。貴重品等をしまっておきたい時は、この鍵を使っておくんだ……。調度品の類は揃えてあるけど、新しく並べたい物が有れば、三番のベルを鳴らすと小間使いが運びに来てくれるよ。飲み物が欲しい時は、一番のベルの三回目を小さく鳴らすと持ってきてくれる」
説明会という名の顔合わせも終わり、フィンネルをリリスが、フレドリクスをエリヴァルが新しく住む部屋に案内した。
大国に配慮し、亡き第一王女カスティアの大部屋を割り当てられたわけだが、意外な程に手荷物や運び込まれた箱の数は少なかった。
「……大国と呼ばれていても、妾腹の第三王子のための部屋にしては、少し広すぎないかい?」
「亡くなられた母君が我が国の王族出身だったから、ここに来れたんだし。部屋は余ってるから好きに使えばいいさ。隣はリリスの住まいだし、ボクの部屋からも近くて行き来は便利だよ。バルコニーの眺めもいいし、バスタブは一番大きいんだ。軽く泳げるくらいさ……」
衣装棚に鞄をしまって、書斎道具を机に並べれば手持ちの手札は勢揃いとなった。あまり良い環境とは言えなかったロイヤルアゼールの部屋には、フレドリクス個人の持ち物は極めて少ない。
「ーーーニオブは、予算は惜しまないと言い切ったんだから、買い物でもして自由に家具を並べるといいよ。城下には家具職人が多いし、名工も多数だから期待していいと思うよ。恩給は毎月支給されるらしいし、出掛けるのが苦手なら外商を呼んでカタログから選んでもいい。ボクをデートに誘うついでにしてくれると、籠の鳥としては助かるよ」
「その話なんだけど、エリヴァルは本当にこんな生活を強いられていいのかい? 候補者も君達も、将軍を除けば婚礼の年齢に満たない若さだ。僕に至っては一番年下になるだろうし……」
「全員血が繋がった親戚同士なんだし、叔父上とウィードは同じ一族で、アキニムとリリスは義兄妹だ。家族が揃ったような物だし、そんなに心配はしていないよ。……フレドリクス。君は、初対面の異国の姫君にも優しい方だね」
日差しが差し込む扉を開いて、バルコニーからの風を入れる。まだ春には少し遠い、冷たい風が部屋の温度を下げていった。
「ーーーこの国は小国だけど、王室の長い歴史もあって資源も豊富だ。兵術にも長けているから防衛も万全で、北にそびえ立つ雪山が北部を守ってくれている。その先の氷河では、永遠に溶けない氷に覆われた大地がある。婚礼や婚約は好みでは無いけど、ボクには国を守るための次代を産む義務が有るのさ……ロイヤルアゼールでは、初対面の姫君が王子に挨拶のキスをしても無礼ではないかい?」
フレドリクスが無言でうなずくと、少しかがんでからエリヴァルは口づけた。
蜜色の髪と金色の髪が日差しを受け輝き、バルコニーの石畳みに反射して煌びやかに飾る。
「初めての方にこんな話をすると、不敬に感じられるかもしれないけど。ボクは、酷く寂しくて退屈なんだ。
リリスの部屋となった隣の小部屋には、嫁いでしまわれた優しい姉上が暮らしていた……でも、姉様は人の妻となり、ボクも恋心を諦めて髪を切ったんだ……だから目的も失って、退屈になってしまったんだ」
「身体が震えているよ。外はまだ寒さが残るし、早く部屋に戻った方がいい」
バルコニーの扉を閉めようとするフレドリクスの手を押さえ、鉄柵を背に、エリヴァルは身体を暖めるかのように抱きついてくる。
そのまま唇を掠め取られたフレドリクスは肩を優しく抱きとめ、髪を撫でて落ち着かせた。
「……ごめん。何年も昔の話だし、もう大丈夫かなと思っていたのだけれど、この部屋には、嫌な思い出しかない物だから……少し、取り乱したみたいだ」
「気にしないでいいよ。僕にも、触れられたくない過去はある。第三王子の、しかも妾腹の身分では、候補者に上がれた事でさえあり得ないようなお話だよ。
君たちからのお誘いが無かったら、排斥されるか政治の道具にされて終わりだったからね。それに、こんなにも、魅力的な王女とも巡り会えたし」
「魅力が有るかどうかは、これから次第かもしれないけど……好意を持って貰えるのは、嬉しいよ」
手の甲に口づけられ、エリヴァルは頬を染めて冷たさの残る外気を思い切り吸い込んだ。
少しフレドリクスの方が背が低く、何だか背徳感が押し寄せてくる。
「この部屋に比べると狭いけど、後でボクの部屋も案内するよ。何なら今晩から夜這いに訪れてもいいけど、出入り自由の繋がりの部屋には、悪名高い叔父上がお住まいだけどね……」
「それをするには、もう少し鍛錬を積んでからの訪問が必要そうだね」
説明会という名の顔合わせも終わり、フィンネルをリリスが、フレドリクスをエリヴァルが新しく住む部屋に案内した。
大国に配慮し、亡き第一王女カスティアの大部屋を割り当てられたわけだが、意外な程に手荷物や運び込まれた箱の数は少なかった。
「……大国と呼ばれていても、妾腹の第三王子のための部屋にしては、少し広すぎないかい?」
「亡くなられた母君が我が国の王族出身だったから、ここに来れたんだし。部屋は余ってるから好きに使えばいいさ。隣はリリスの住まいだし、ボクの部屋からも近くて行き来は便利だよ。バルコニーの眺めもいいし、バスタブは一番大きいんだ。軽く泳げるくらいさ……」
衣装棚に鞄をしまって、書斎道具を机に並べれば手持ちの手札は勢揃いとなった。あまり良い環境とは言えなかったロイヤルアゼールの部屋には、フレドリクス個人の持ち物は極めて少ない。
「ーーーニオブは、予算は惜しまないと言い切ったんだから、買い物でもして自由に家具を並べるといいよ。城下には家具職人が多いし、名工も多数だから期待していいと思うよ。恩給は毎月支給されるらしいし、出掛けるのが苦手なら外商を呼んでカタログから選んでもいい。ボクをデートに誘うついでにしてくれると、籠の鳥としては助かるよ」
「その話なんだけど、エリヴァルは本当にこんな生活を強いられていいのかい? 候補者も君達も、将軍を除けば婚礼の年齢に満たない若さだ。僕に至っては一番年下になるだろうし……」
「全員血が繋がった親戚同士なんだし、叔父上とウィードは同じ一族で、アキニムとリリスは義兄妹だ。家族が揃ったような物だし、そんなに心配はしていないよ。……フレドリクス。君は、初対面の異国の姫君にも優しい方だね」
日差しが差し込む扉を開いて、バルコニーからの風を入れる。まだ春には少し遠い、冷たい風が部屋の温度を下げていった。
「ーーーこの国は小国だけど、王室の長い歴史もあって資源も豊富だ。兵術にも長けているから防衛も万全で、北にそびえ立つ雪山が北部を守ってくれている。その先の氷河では、永遠に溶けない氷に覆われた大地がある。婚礼や婚約は好みでは無いけど、ボクには国を守るための次代を産む義務が有るのさ……ロイヤルアゼールでは、初対面の姫君が王子に挨拶のキスをしても無礼ではないかい?」
フレドリクスが無言でうなずくと、少しかがんでからエリヴァルは口づけた。
蜜色の髪と金色の髪が日差しを受け輝き、バルコニーの石畳みに反射して煌びやかに飾る。
「初めての方にこんな話をすると、不敬に感じられるかもしれないけど。ボクは、酷く寂しくて退屈なんだ。
リリスの部屋となった隣の小部屋には、嫁いでしまわれた優しい姉上が暮らしていた……でも、姉様は人の妻となり、ボクも恋心を諦めて髪を切ったんだ……だから目的も失って、退屈になってしまったんだ」
「身体が震えているよ。外はまだ寒さが残るし、早く部屋に戻った方がいい」
バルコニーの扉を閉めようとするフレドリクスの手を押さえ、鉄柵を背に、エリヴァルは身体を暖めるかのように抱きついてくる。
そのまま唇を掠め取られたフレドリクスは肩を優しく抱きとめ、髪を撫でて落ち着かせた。
「……ごめん。何年も昔の話だし、もう大丈夫かなと思っていたのだけれど、この部屋には、嫌な思い出しかない物だから……少し、取り乱したみたいだ」
「気にしないでいいよ。僕にも、触れられたくない過去はある。第三王子の、しかも妾腹の身分では、候補者に上がれた事でさえあり得ないようなお話だよ。
君たちからのお誘いが無かったら、排斥されるか政治の道具にされて終わりだったからね。それに、こんなにも、魅力的な王女とも巡り会えたし」
「魅力が有るかどうかは、これから次第かもしれないけど……好意を持って貰えるのは、嬉しいよ」
手の甲に口づけられ、エリヴァルは頬を染めて冷たさの残る外気を思い切り吸い込んだ。
少しフレドリクスの方が背が低く、何だか背徳感が押し寄せてくる。
「この部屋に比べると狭いけど、後でボクの部屋も案内するよ。何なら今晩から夜這いに訪れてもいいけど、出入り自由の繋がりの部屋には、悪名高い叔父上がお住まいだけどね……」
「それをするには、もう少し鍛錬を積んでからの訪問が必要そうだね」
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