婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

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最終章 貴族院への道

花奴隷との戯れ(2)

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「デンドルム。確かに貴方は、このガラスの国の国王陛下。とても美しく、賢く、民からは慕われる尊うべき存在。
 でもそれは、レイチェル公爵家の庇護に居る間だけ。そんな不安定な相手と取引なんて、どう考えても出来ないわ。だから私は花奴隷の事を学ぶつもりも、跪いて手助けを求めたりもしない…。私は、鍵を返すためにここにやって来た…」

「それは、随分と残念な話だ…。でも花奴隷は、この庭園以外に住めるような場所もないからね。手駒としての価値は低いのは認めるよ…。
 しかし、あの女の話だと、君は貴族院のトップを目指す予定だったね。花奴隷の薬も蜜も使わずに、どうやってお貴族連中に取り入る気なんだい?」

 デンドルムは突き返された鍵を面白くなさそうに手に取り、そのまま振り回しながら大きく伸びをした。
 この鍵を手放すことは、ある意味で夫人の試験だったのだろうか。この選択が正解なのか、花奴隷を扱う道が正しかったのかは…、よく分からない。

「そうね、私が貴方を出世の道具として扱い、蜜を散らばして公爵家の女主人になったとしても…。花奴隷を囲っている時点で、レイチェル夫人に弱みを握られているわ。
 憲兵に、自分の義娘が禁則品を持っているとでも密告して…。それで、牢に入れられて罰せられるのは可哀想なお飾りのセレンティア。デンドルムは秘密裏に公爵家の手のモノによって回収されて、ここに出戻りとなるのかしらね?」

「まあ、アイツの考えならそうなるだろうね。それで庭園に出戻りした所で、義娘に夢中になったお前が悪いからと扱いを下げられて、酷く鞭で打たれるさ…」

 デンドルムに抱きかかえられ、額に優しいキスが贈られた。彼にも作為的なものがあるのかもしれないけれど、それでも暖かい優しさは偽りがないと思えた。

「……ここに、来る前に。私…。昔、よく嫌味を言われていた令嬢を焼き殺してしまったわ。カスティア王女の侍女として働いていたそうなのだけど、罰を犯したからって、…最後は骨も残さずに砕かれて肥料となった。
 恐ろしい所に、セレンティアは来てしまったのね。何も知らない、学もない。愚かで惨めな小娘が、王家に憧れて公爵家に嫁ごうと考えるから、後戻り出来ない場所にまで辿り着いてしまった…」

「君は魅力的だよ。その強さと心の奥にある弱さは、どんな宝石箱にも収めきれない気高さを誇っている」

 唇を塞がれ、熱い吐息が流れ出してきた。薬や蜜の効果なのかもしれない、と思う自分も居たが、デンドルムに心が強く惹かれてしまって、何も考えられなくなる。

「この鍵を返しに行く事を決めた時に…、私の身の振り方も一緒に考えてみたの。
 どうすれば良いのか、どうしたらレイチェル夫人の呪縛から解き放たれるのか…。その場所にたどり着くためには、私には王位を継承するか。それとも、その伴侶になるしか道はない。だから、私は……。カスティアベルン王女の侍女見習いとなるわ」

「侍女に…? 令嬢を私的に罰して、焼き殺させるような王女の側仕えになるのは…。それは、あまりにも危険じゃないのかい。確かに訴えられる可能性は有るけれど、この場に留まって花奴隷の管理をする方がずっと安全だ」

 デンドルムのくれる強い説得が、胸に深く染みてくる。公爵家の跡取りと結婚し、子供でも。王位継承権の高い女の子でも産めば、レイチェル夫人からの利用価値が高いと思われて死なずに済むかもしれない。

 でも、自分の後ろ盾がレイチェル公爵家に在る限り、指先に針を突き立てられた日々を過ごさなくてはならない。それは永遠に続き、終わらない恐怖となるだろう。

「お話を伺う限り、以前は神聖視して憧れてさえ居たカスティア王女は…。レイチェル夫人以上の気狂いよ。考え方を理解出来ない場所にまで、届いてしまっているかもしれない。
 それでも、私が持っている薄い王位継承権を使うためには、王女とお会いして侍女見習いとなるしか、手段がないのよ。それを教えてくれたのが、王女の手駒であるルターニア侯爵令嬢という時点で、私の行く道は定められているわ…」

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