60 / 65
最終章 貴族院への道
花奴隷との戯れ(2)
しおりを挟む「デンドルム。確かに貴方は、このガラスの国の国王陛下。とても美しく、賢く、民からは慕われる尊うべき存在。
でもそれは、レイチェル公爵家の庇護に居る間だけ。そんな不安定な相手と取引なんて、どう考えても出来ないわ。だから私は花奴隷の事を学ぶつもりも、跪いて手助けを求めたりもしない…。私は、鍵を返すためにここにやって来た…」
「それは、随分と残念な話だ…。でも花奴隷は、この庭園以外に住めるような場所もないからね。手駒としての価値は低いのは認めるよ…。
しかし、あの女の話だと、君は貴族院のトップを目指す予定だったね。花奴隷の薬も蜜も使わずに、どうやってお貴族連中に取り入る気なんだい?」
デンドルムは突き返された鍵を面白くなさそうに手に取り、そのまま振り回しながら大きく伸びをした。
この鍵を手放すことは、ある意味で夫人の試験だったのだろうか。この選択が正解なのか、花奴隷を扱う道が正しかったのかは…、よく分からない。
「そうね、私が貴方を出世の道具として扱い、蜜を散らばして公爵家の女主人になったとしても…。花奴隷を囲っている時点で、レイチェル夫人に弱みを握られているわ。
憲兵に、自分の義娘が禁則品を持っているとでも密告して…。それで、牢に入れられて罰せられるのは可哀想なお飾りのセレンティア。デンドルムは秘密裏に公爵家の手のモノによって回収されて、ここに出戻りとなるのかしらね?」
「まあ、アイツの考えならそうなるだろうね。それで庭園に出戻りした所で、義娘に夢中になったお前が悪いからと扱いを下げられて、酷く鞭で打たれるさ…」
デンドルムに抱きかかえられ、額に優しいキスが贈られた。彼にも作為的なものがあるのかもしれないけれど、それでも暖かい優しさは偽りがないと思えた。
「……ここに、来る前に。私…。昔、よく嫌味を言われていた令嬢を焼き殺してしまったわ。カスティア王女の侍女として働いていたそうなのだけど、罰を犯したからって、…最後は骨も残さずに砕かれて肥料となった。
恐ろしい所に、セレンティアは来てしまったのね。何も知らない、学もない。愚かで惨めな小娘が、王家に憧れて公爵家に嫁ごうと考えるから、後戻り出来ない場所にまで辿り着いてしまった…」
「君は魅力的だよ。その強さと心の奥にある弱さは、どんな宝石箱にも収めきれない気高さを誇っている」
唇を塞がれ、熱い吐息が流れ出してきた。薬や蜜の効果なのかもしれない、と思う自分も居たが、デンドルムに心が強く惹かれてしまって、何も考えられなくなる。
「この鍵を返しに行く事を決めた時に…、私の身の振り方も一緒に考えてみたの。
どうすれば良いのか、どうしたらレイチェル夫人の呪縛から解き放たれるのか…。その場所にたどり着くためには、私には王位を継承するか。それとも、その伴侶になるしか道はない。だから、私は……。カスティアベルン王女の侍女見習いとなるわ」
「侍女に…? 令嬢を私的に罰して、焼き殺させるような王女の側仕えになるのは…。それは、あまりにも危険じゃないのかい。確かに訴えられる可能性は有るけれど、この場に留まって花奴隷の管理をする方がずっと安全だ」
デンドルムのくれる強い説得が、胸に深く染みてくる。公爵家の跡取りと結婚し、子供でも。王位継承権の高い女の子でも産めば、レイチェル夫人からの利用価値が高いと思われて死なずに済むかもしれない。
でも、自分の後ろ盾がレイチェル公爵家に在る限り、指先に針を突き立てられた日々を過ごさなくてはならない。それは永遠に続き、終わらない恐怖となるだろう。
「お話を伺う限り、以前は神聖視して憧れてさえ居たカスティア王女は…。レイチェル夫人以上の気狂いよ。考え方を理解出来ない場所にまで、届いてしまっているかもしれない。
それでも、私が持っている薄い王位継承権を使うためには、王女とお会いして侍女見習いとなるしか、手段がないのよ。それを教えてくれたのが、王女の手駒であるルターニア侯爵令嬢という時点で、私の行く道は定められているわ…」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。



『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる