婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

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第六章 決別の選択肢

絶望のバルコニー(2)

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「夜分遅くに失礼致します…。カティーナ様をお連れしました」

 ノックを了承すると、レイン侍女長が手押し車に乗せられたカティーナを室内に運び込む。

 目は虚で焦燥しきっており、どこか正気も失っている様子だ。手足の爪は無惨に剥がされており、右手の親指と薬指だけ爪の形を残している。参加者から一枚ずつ剥がされていったようで、この二枚が二人の取り分という事らしい。

 レイン侍女長に礼を言い、カティーナを受け取ったが問いかけても返事はない。夜着のガウンは着せられているものの、浅黒い鞭の跡が夥しく肌を彩っている。どれ程の仕打ちを受けたのかは知らないが、セレンティアはそれを見つめながら再び、黒い感情に支配されていく。

 ——これはとても汚いモノだ。醜くて歪んでいて、身体の全てを切り離して暖炉の火へ差し出してあげなくては救われない、卑猥でふしだらで、穢らわしい罪人だ。


「どうするつもりなの、セレンティア…?」
「まずは、カティーナ様の手当てをしましょう。身体を拭いて、水と食事を与えなくてはいけないわ」

 ベルを鳴らして小間使いの少女を呼び、適度に冷ました白湯と牛の乳に浸したビスケットなどを持ってこさせた。簡単に顔や身体を蒸しタオルで拭いていき、白湯を口にさせ、柔らかくしたビスケットを少しずつ咥内に押し込んでいく。

 再び白湯を飲ませて胃の中に砕かれたビスケットを押し込むと、ようやくカティーナの意識が戻ったのか小さな声で「…ありがとう、ございます」と呟いた。
 三枚ほどビスケットを食べさせてから、指で潰した果実を押し込んでいく。やはり数日は食事を抜かれていたようで、何度も嗚咽を漏らしながらカティーナは久しぶりの固形物を飲み込んだ。

「……食事を与えないなんて、なんて酷い行いなのかしら。カティーナ様、まずは湯に浸かって身体を温めてから傷の治療を致しますわ。心を落ち着かせて、気を確かになさって下さいませ」

 手押し車のまま、小間使いに連れられて奥のバスルームへとカティーナは入っていった。先ほど自分たちが浸かったお湯に入らせるのは苛立たしかったが、壊れた人形のように「ありがとう、ございます」と何度も繰り返す姿は滑稽で笑えた。

 数十分すると、カティーナは戻ってきた。ターニアは事の成り行きを見届けるようで、何も言わずに熱い紅茶を飲み始めている。

 一番酷い手指の爪痕に軟膏を塗り、鞭キズで覆われた肌にパウダーを振ってから薬を塗り込んだ。髪や残された二枚の爪を整え、開けられた乳房の輪を中心に清潔に保っていく。
 秘芯の枷は太ももの固定金具が外されており、何度か暴れたものの、そう時間はかからずにキレイに整われた。

「礼を言われることでは無いのよ、私はお掃除をしているだけですもの…。さあ、カティーナ様。痛み止めの薬を特別に用意して貰ったので、飲んで楽になさって…。これから爪を剥がされるまでの間、ずっと苦痛が続くのだから、今のうちに身体を落ち着かせなくては」
「……セレンティア? 私は…」

 まだ夢心地に居るカティーナに痛み止めを飲ませ、別の小間使いに許しのための道具を用意して貰う。太ももに固定金具を取り付け、髪を撫でて手の甲に口付ける。

「嬉しいわ、カティーナ様。貴方をお救いする最後の役目を、私たちが任されるだなんて…。きっと貴方の罪は許されますから、どうか二枚の爪を剥がされるまでの間、いつものように高慢な態度を貫いて、貴族の令嬢らしく振る舞って下さる…?」
「……あっ……あぁっ…!!」

 手足を震わせながら、カティーナは目の前の悪魔たちに呪いの言葉を投げつける。気弱な自分さえ出て来なければ、どんな拷問をも与えられる、レイチェル夫人に似た素顔が顔を出す。

 ターニアに細身の鞭を選んで貰い、威嚇のために床へと振るい下ろす。太ももに取り付けられた固定金具のせいで、逃げ出そうとすれば枷が秘芯の敏感な箇所を締め付けて、何も動かせなくなる。

 昔の恨みという気持ちが無いわけでは無かったが、それよりも自分の中で眠っていた残虐な行為に酔いしれる感情は、目の前の獲物を試し打ち出来る悦びに震えていた。
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