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第五章 贅を尽くされた部屋
夜の訪れと処刑の時間(4)
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放心状態の彼女を別の小間使いの少女が揺り動かし、乱雑になった髪を整えて手足の拘束を解いていく。青黒くなった手首を丁寧にマッサージして動かせるようにしてから、少しずつカティーナに水を飲ませていく。
長い間喉が渇き切っていたようで、何度か咳をしながらカティーナは必死に水を飲み干す。どうやら食事も抜かれていたようで、誰かの支えが無ければ立ち上がる事さえ出来ないようだった。
「何か、言いたいことは有るかしら?」
「……お、お許し、下さい…。レンドルフ様が、元老院のお方だと、知らなかっ、たのです…」
舞台に頭を擦り付け、カティーナはうわ言のように謝罪を繰り返した。レイチェル夫人は一度だけ彼女に視線を向けたが、すぐにカースティ補佐官を呼び付けて次の演目の準備を始めるように指示をした。
用意されたのは、とても奇妙なイスだった。
通常よりもイスの脚が長く、間には鉄棒が取り付けられており、舞台の金具に固定して簡単には外れないように設置されていく。
座面は前側に倒れて背もたれは湾曲しており、その先端には硬い鉄の首輪が取り付けられている。カティーナは誘導されるままにイスに座らされ、首輪を嵌めさせられた。背もたれに押される形で胸を突き出す姿勢となり、手首は後ろの脚に括り付けられ、足はつま先だけやっと床に着く不安定なまま足首を前の脚に固定された。
手足と首は全く動かせない様子で、突き出した胸元とヒップだけが自由に動かせるらしい。目を泳がせたカティーナは心の中でだけクロスを切って、レイチェル夫人の顔を盗み見る。
残酷な公爵夫人は手にした扇を満足そうに振り、カースティ補佐官に黒い鞄を持って来させると非常に薄い手袋を身につけた。
「王宮でレンドルフ様と出会って、腰を振って愛の言葉を囁いた結果、貴方はベルン陛下の御心を裏切られたのよね? カティーナ様は、本当に可愛いらしいお顔をしていてよ。せっかく陛下に慕われたのに、将来は騎士か大臣の御子息にでも嫁がせて頂けたはずなのに…」
レイチェル夫人は鞄から長い銀の針を取り出し、カティーナの顔の前に突き出す。カースティ補佐官は侍女服の前を開き、コルセットを外して小さな乳房を観衆に晒した。
恐怖に怯え、針から逃れようとしても許されず。カティーナは仕方なく目を背けて、そっと息を呑み込んだ。
「罪人の女は、髪を踏まれて短くされた後、女としての子を孕む幸せを奪うために、乳房に穴を開けられるのよ…。もっとも、これは処刑ではなく貴方への試練ですから、開けられる穴は敏感な部分だけにしてあげるわ…。何年か経ったら穴は塞がるかもしれないけれど、胸に穴を開けた淫らな娼婦に嫁ぎ先なんてある筈もないわ」
「……い、イヤァ。お、お許しください、レイチェル夫人! どうか、お許しください!!!」
「許すも何も、貴方を救う為の試練でしてよ。耐えて頂かなくては、サロンの皆さま方も退屈してしまうわ。ねえ、胸に針を突き立てられると、身体の何処よりも痛みが激しいんですってね…。
秘芯や、指先、舌や唇よりも、思わず飛び上がって転げ廻りたくなるくらいの絶望が訪れるの」
消毒された針が胸に刺さり、声にならないくらいの大きな呻きを出してカティーナは暴れ狂った。涙だけではなく鼻水まで垂らし、ほんの僅かの先端に突き立てたまま針は引き抜かれない。
唇を震わせながらギャラリーを見廻し、カティーナはセレンティアの方へと目を向けてきた。
「……ダメよ。貴方が救いの手なんか差し伸べたら、パーティーは台無しになってしまう」
「でも、ひと言くらいは…」
思わず動揺し、舞台に近づこうとしたセレンティアをターニアは力強く押し止める。
「これは、彼女が罪を償えるかの試練。貴方が無下に口を出して、代わりとして乳房に金のリングでもぶら下げたいの?」
「……ごめんなさい、私が間違っていたわ」
そのまま席に座り直し、舞台に向き直った。何か慈悲の言葉を告げようとしたカティーナは絶望に満ちた顔で針に目を向け、一番敏感な部分に開けられていく穴の姿を見続けた。
「皆さま、追加のお料理の用意も出来ておりますので、罪人に穴が開けられる瞬間をゆっくりとご覧になって。今日は、特別に当家のワインセラーを解放致しましたの…。召使いたち全員に振る舞っても尽きないくらい、極上の年代物を何十本も集めましたわ。罪を犯した侍女の叫びを聞きながら、今宵は美酒に酔いしれて下さいませ」
少しずつ、ほんの僅かにだけ動かされ続けていく針の苦痛がカティーナを襲う。
片方の乳房に穴を開け切っても、もう一度同じ苦痛が待っていた。悲鳴を上げて泣き叫ぶと、ワインを口にした貴族たちはグラスを傾けて喜んでくれる。我慢には程遠い拷問の針に、思わず意識を失いそうになると手を休められてしまい、救いの時間はやって来ない。
長い間喉が渇き切っていたようで、何度か咳をしながらカティーナは必死に水を飲み干す。どうやら食事も抜かれていたようで、誰かの支えが無ければ立ち上がる事さえ出来ないようだった。
「何か、言いたいことは有るかしら?」
「……お、お許し、下さい…。レンドルフ様が、元老院のお方だと、知らなかっ、たのです…」
舞台に頭を擦り付け、カティーナはうわ言のように謝罪を繰り返した。レイチェル夫人は一度だけ彼女に視線を向けたが、すぐにカースティ補佐官を呼び付けて次の演目の準備を始めるように指示をした。
用意されたのは、とても奇妙なイスだった。
通常よりもイスの脚が長く、間には鉄棒が取り付けられており、舞台の金具に固定して簡単には外れないように設置されていく。
座面は前側に倒れて背もたれは湾曲しており、その先端には硬い鉄の首輪が取り付けられている。カティーナは誘導されるままにイスに座らされ、首輪を嵌めさせられた。背もたれに押される形で胸を突き出す姿勢となり、手首は後ろの脚に括り付けられ、足はつま先だけやっと床に着く不安定なまま足首を前の脚に固定された。
手足と首は全く動かせない様子で、突き出した胸元とヒップだけが自由に動かせるらしい。目を泳がせたカティーナは心の中でだけクロスを切って、レイチェル夫人の顔を盗み見る。
残酷な公爵夫人は手にした扇を満足そうに振り、カースティ補佐官に黒い鞄を持って来させると非常に薄い手袋を身につけた。
「王宮でレンドルフ様と出会って、腰を振って愛の言葉を囁いた結果、貴方はベルン陛下の御心を裏切られたのよね? カティーナ様は、本当に可愛いらしいお顔をしていてよ。せっかく陛下に慕われたのに、将来は騎士か大臣の御子息にでも嫁がせて頂けたはずなのに…」
レイチェル夫人は鞄から長い銀の針を取り出し、カティーナの顔の前に突き出す。カースティ補佐官は侍女服の前を開き、コルセットを外して小さな乳房を観衆に晒した。
恐怖に怯え、針から逃れようとしても許されず。カティーナは仕方なく目を背けて、そっと息を呑み込んだ。
「罪人の女は、髪を踏まれて短くされた後、女としての子を孕む幸せを奪うために、乳房に穴を開けられるのよ…。もっとも、これは処刑ではなく貴方への試練ですから、開けられる穴は敏感な部分だけにしてあげるわ…。何年か経ったら穴は塞がるかもしれないけれど、胸に穴を開けた淫らな娼婦に嫁ぎ先なんてある筈もないわ」
「……い、イヤァ。お、お許しください、レイチェル夫人! どうか、お許しください!!!」
「許すも何も、貴方を救う為の試練でしてよ。耐えて頂かなくては、サロンの皆さま方も退屈してしまうわ。ねえ、胸に針を突き立てられると、身体の何処よりも痛みが激しいんですってね…。
秘芯や、指先、舌や唇よりも、思わず飛び上がって転げ廻りたくなるくらいの絶望が訪れるの」
消毒された針が胸に刺さり、声にならないくらいの大きな呻きを出してカティーナは暴れ狂った。涙だけではなく鼻水まで垂らし、ほんの僅かの先端に突き立てたまま針は引き抜かれない。
唇を震わせながらギャラリーを見廻し、カティーナはセレンティアの方へと目を向けてきた。
「……ダメよ。貴方が救いの手なんか差し伸べたら、パーティーは台無しになってしまう」
「でも、ひと言くらいは…」
思わず動揺し、舞台に近づこうとしたセレンティアをターニアは力強く押し止める。
「これは、彼女が罪を償えるかの試練。貴方が無下に口を出して、代わりとして乳房に金のリングでもぶら下げたいの?」
「……ごめんなさい、私が間違っていたわ」
そのまま席に座り直し、舞台に向き直った。何か慈悲の言葉を告げようとしたカティーナは絶望に満ちた顔で針に目を向け、一番敏感な部分に開けられていく穴の姿を見続けた。
「皆さま、追加のお料理の用意も出来ておりますので、罪人に穴が開けられる瞬間をゆっくりとご覧になって。今日は、特別に当家のワインセラーを解放致しましたの…。召使いたち全員に振る舞っても尽きないくらい、極上の年代物を何十本も集めましたわ。罪を犯した侍女の叫びを聞きながら、今宵は美酒に酔いしれて下さいませ」
少しずつ、ほんの僅かにだけ動かされ続けていく針の苦痛がカティーナを襲う。
片方の乳房に穴を開け切っても、もう一度同じ苦痛が待っていた。悲鳴を上げて泣き叫ぶと、ワインを口にした貴族たちはグラスを傾けて喜んでくれる。我慢には程遠い拷問の針に、思わず意識を失いそうになると手を休められてしまい、救いの時間はやって来ない。
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