婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

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第五章 贅を尽くされた部屋

夜の訪れと処刑の時間(1)

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 兵士達が猟銃を抱え、空を仰いだまま一斉に立ち尽くすと、レイチェル夫人が立ち上がって演目時に使われていた舞台に座り込み、祈りの姿勢をして目を閉じた。
 他の参加者たちも立ち上がり、目を閉じて宙を見始めたので、セレンティアもそれに習って空を見上げる。

 静かな祈りの言葉が紡がれていく。この国の大地を作ったとされる、母なる始祖神に対する労りの言葉。恵みへの感謝、水や木々、風や雷といった自然のもの達、動物たちへの感謝と懺悔の台詞が述べられていき、セレンティアは強い不快感を抱いた。
 鎮魂の鐘が鳴り、全員が目を開いて座席に着いたことを確認すると、レイチェル夫人も元の席に戻った。兵士達は猟銃を勢いよく床に立てかけ、庭師の一人が大きな籠を運び込んできた。

 籠は空に向けて放たれ、三羽のきじが飛び立った。すぐに猟銃は構えられ、真ん中の兵士達が雉の首筋を目掛けて一斉に弾を放った。
 ガラスの天井を傷つける事もなく、十二発の鉛弾は雉に埋め込まれ、コックが大皿を抱えてそれらを受け止める。

 後で捌いてローストにするらしく、雉が大好物だと言うタルシン伯爵夫人は喜んでいた。雉が焼けるまでの間に、次の料理の準備をお楽しみくださいと告げて、兵士は立ち去っていく。

 次に現れたのは、離れにある家畜小屋の男たちだった。
 一本の長いロープに五匹の丸々と太ったかもの首を別の縄で括り、先頭の男はトランペットを吹きながらサロンの中を一周していく。

 五匹の鴨に括られた縄は、ロープに引っ張られると首が絞まるように結えられており、歩かされる度に鴨は苦しそうに呻きながら鳴いた。夫人たちは手拍子で出迎え、あの鴨が出来が良い等の品評会が始まっていく。

 中央の舞台に五匹の鴨が乗せられると、先頭の男は勢いよくロープを引っ張った。鴨が何度も鳴きわめくのも気にせず、家畜小屋の男たちは羽を毟り取って丸裸にしていく。
 二番目の鴨は強く抗議の鳴き声を上げていたが、段々と力が弱くなっていき、半分程羽を毟り取られた頃にはすっかり動かなくなった。
 半刻程で羽はキレイに抜かれ、先ほどの雉が入っていた籠に羽は詰め込まれた。後で何かに使うらしく、それらはどこかに運び込まれていく。

 丸裸にされた鴨は何度も逃げ出そうとするが、その度にロープが強く引っ張られて動きが鈍くなっていく。家畜小屋の男が大きな盃を手に取り、サロンの入り口に飾られていた長剣の刃を丁寧に拭き取ってから、五匹の鴨の首を目掛けて勢い良く突き立てた。
 流れ落ちる生き血は大盃に注がれていき、飛び散った分の血は真っ白な舞台を赤く染めていく。

 給仕係が大盃を受け取り、鴨の鮮血がグラスに注がれた。数分ほどでセレンティアの前にも届き、他の貴族たちは歓談しながらそれを飲み干した。
 全身に鳥肌が立ち、お腹が激しく痛み出す。血の臭いを嗅ぎ取るだけで吐き気を催すが、それを飲み干さなくては、この苦痛から逃れられない。

 美容に効く、胃腸を和らげる等の賛美は続いていき、レイチェル夫人は二回も鴨血を美味しそうに飲み干す。
 ターニアも無言で口にしたので、セレンティアも勢いを付けて飲む事にした。溢れ出る嘔吐感を何とか胸を叩いて抑えると、香ばしい雉のローストがテーブルに運ばれて来た。

「——皆さま方の前に、当家に新しく入りました小間使いの娘達をお連れ致します。まだ躾も済ませて居ない少女たちですので、何かと無礼を働くかもしれませんが、今回は披露の場ですので、どうぞお許し下さいませ」

 バイオリンを手にしたディーリ専任家令が舞台に立ち、レイン侍女長が先ほどの鴨のように、長いロープで首を括られた三人の少女を引き連れる。
 五匹の鴨の時より縄は緩められており、不安そうな表情ではあるが苦痛には満ちて居なかった。

 真っ白なドレスを身に纏った少女たちは、参加者の貴族に顔を向けた四つん這いの姿勢にされ、ロープの先は舞台の金具に固定された。
 レイン侍女長は長い木の棒を持ち出し、少女たちのヒップに目掛けて打ち付ける。

 悲鳴が一斉に溢れ出たが、三人は必死で堪えようと笑顔で振る舞う。
 下には何も衣類を身に付けておらず、彼女たちを守ってくれるのは自分の薄い皮膚だけだ。

「……皆さまそれでは、当家の家令による演奏を聴きながらご歓談下さい」

 レイチェル夫人の挨拶で、ディーリ専任家令の演奏が始まる。バイオリンの音色も素晴らしいが、本人もかなりの腕前らしく、少女たちが木の棒で打たれ、苦痛の嗚咽を漏らしている事を除けば、優美な演奏会の時間だった。
 レイン侍女長は演奏に合わせて棒を振るい、貴族たちは楽しそうに出された雉にナイフを入れていく。
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