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第四章 サディスト夫人の嗜虐
地下室の逢瀬(2)
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「セレンティア様は突然拘束され、このような場所に押し込まれて疑問を感じていらっしゃるでしょうが、ここは、王室付きの医師の仕事を行う上で極めて重要な場所なのです。治療や普段の検診をする宮廷医師とは異なり、レイチェル公爵家のお役目には捕虜や犯罪者の尋問もございます」
「医師の仕事が、捕虜の尋問ですか…?」
「敵国からの情報を得たり、犯罪者への尋問を行うお役目をするためには、相手を死に至らしめないように適切な処置をする必要があり、それを行うには医療の知識が不可欠です。
旦那様やテオルース様も、小国での競り合いや紛争の際には国の軍医として兵の治療を行う以外に、捕虜を尋問する大切なお役目が有るのです。つまり、それを行うためには自らの身体を傷付けて、どこまでなら痛みに耐えられるかを覚える事で知識を得るのです」
確かに思い出してみると、テオルースの背中や肌には古い傷痕が何箇所も有った。最初は戦火の傷だとばかり思っていたが、まさかこの場所で付けられたレッスンの痕跡だったとは…。
「人に対して痛みを与える者は、自分でもその苦痛を知る必要がございます。子供の喧嘩もそうです。相手をどんなに傷つけても、死に至らしめたり、治療が出来ないような大怪我を与えては、喧嘩の範疇には入りません。セレンティア様が公爵夫人となられた際には、無礼を働いた侍女に鞭を与えて指導する機会も出て参ります。
その時に、侍女に決して消えない傷を負わせたりしたら、セレンティア様はどうなりますか? 相手は侍女とは言え、貴族の子女です。奥方が加減を知らずに鞭を振るったせいで、貴族院で裁かれるような事態となっては、それこそ公爵家の名折れとなりましょう」
「私たちも、奥様や他の皆さんにご指導を頂戴してから部下に懲罰を行っております。
相手を傷つけて悦楽に浸るためではなく、何処までが苦痛であり、限界なのかを、これよりセレンティア様にご指導致しますわ」
これは、"だから仕方ない"という大義名分を与えるための言葉なのだろう。どんなに苦痛な目に合わせても、限界を覚えるためのレッスンであり、訓練であり、何もおかしな事はない。
セレンティアが大きく首を縦に振って、指導とやらの了承を告げると、二人の残忍な指導官はそれぞれの配役を決めて位置につき、レイン侍女長が牢の中。カースティ補佐官は、牢の外で小道具などを準備する係に徹するようだ。
「これはレッスンですから、セレンティア様にも役柄を付けましょうか。……そうですね、他国から来た間者の令嬢とでも配役致しますので、私が秘密を探る尋問役の女主人。セレンティア様は屋敷に潜り込んで、正体を知られた侍女役。何かを隠しているけれど、決して知られてはならない。
どんなに尋問を続けても口を割らずに、最後には怒った女主人によって処刑されてしまった。カースティ補佐官は、忠実な執事とでもしておきましょう。もちろん処刑も真似事ですが、実際にされたと思い込んで乱れて下さいませ」
机の上に並べられた鞭の中から、一番細長い小ぶりの鞭を手に取り、レイン侍女長は品定めをするかのようにセレンティアの身体を見回した。
「元老院からの紹介状だから信用して雇ったのに、新人の侍女が、ウェイクフィールドの間者だったなんて…。この屋敷の何を探りに、他国から送り込まれて来たのかしら?」
「奥様、ご冗談をお言いにならないで下さい。私はこの国で育った、男爵家の娘。そのような国から送り込まれるだなんて、大きな誤解ですわ」
芝居の類は行った試しが無いものの、レイン侍女長の中々の演技に押されて、咄嗟の台詞を繋げていく。何だか面白くなってきて、頬が蒸気するのを感じた。
「医師の仕事が、捕虜の尋問ですか…?」
「敵国からの情報を得たり、犯罪者への尋問を行うお役目をするためには、相手を死に至らしめないように適切な処置をする必要があり、それを行うには医療の知識が不可欠です。
旦那様やテオルース様も、小国での競り合いや紛争の際には国の軍医として兵の治療を行う以外に、捕虜を尋問する大切なお役目が有るのです。つまり、それを行うためには自らの身体を傷付けて、どこまでなら痛みに耐えられるかを覚える事で知識を得るのです」
確かに思い出してみると、テオルースの背中や肌には古い傷痕が何箇所も有った。最初は戦火の傷だとばかり思っていたが、まさかこの場所で付けられたレッスンの痕跡だったとは…。
「人に対して痛みを与える者は、自分でもその苦痛を知る必要がございます。子供の喧嘩もそうです。相手をどんなに傷つけても、死に至らしめたり、治療が出来ないような大怪我を与えては、喧嘩の範疇には入りません。セレンティア様が公爵夫人となられた際には、無礼を働いた侍女に鞭を与えて指導する機会も出て参ります。
その時に、侍女に決して消えない傷を負わせたりしたら、セレンティア様はどうなりますか? 相手は侍女とは言え、貴族の子女です。奥方が加減を知らずに鞭を振るったせいで、貴族院で裁かれるような事態となっては、それこそ公爵家の名折れとなりましょう」
「私たちも、奥様や他の皆さんにご指導を頂戴してから部下に懲罰を行っております。
相手を傷つけて悦楽に浸るためではなく、何処までが苦痛であり、限界なのかを、これよりセレンティア様にご指導致しますわ」
これは、"だから仕方ない"という大義名分を与えるための言葉なのだろう。どんなに苦痛な目に合わせても、限界を覚えるためのレッスンであり、訓練であり、何もおかしな事はない。
セレンティアが大きく首を縦に振って、指導とやらの了承を告げると、二人の残忍な指導官はそれぞれの配役を決めて位置につき、レイン侍女長が牢の中。カースティ補佐官は、牢の外で小道具などを準備する係に徹するようだ。
「これはレッスンですから、セレンティア様にも役柄を付けましょうか。……そうですね、他国から来た間者の令嬢とでも配役致しますので、私が秘密を探る尋問役の女主人。セレンティア様は屋敷に潜り込んで、正体を知られた侍女役。何かを隠しているけれど、決して知られてはならない。
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机の上に並べられた鞭の中から、一番細長い小ぶりの鞭を手に取り、レイン侍女長は品定めをするかのようにセレンティアの身体を見回した。
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「奥様、ご冗談をお言いにならないで下さい。私はこの国で育った、男爵家の娘。そのような国から送り込まれるだなんて、大きな誤解ですわ」
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